「天職一芸~あの日のPoem 290」

今日の「天職人」は、三重県桑名市の「アイスまんじゅう職人」。(平成20年8月19日毎日新聞掲載)

麦わら帽に半ズボン 黄ばんだシャツのランニング        アイスまんじゅう噛り付き タモを小脇に蝉を追う        寺の境内木の上で 和尚の「喝!」に縮こまる          生きとし生ける物たちの 儚さ説かれ蝉放つ

三重県桑名市、大正12(1923)年創業の和菓子処「寿恵広(すえひろ)」。三代目の青木活人さんを訪ねた。

肌を突き刺すような真夏の陽射しと暑さ。

町中を蝉時雨が覆い尽くす。

「こうも暑(あっ)ついと、かなんなぁ。アイスまんじゅう一つ貰(もう)うてくわ」。病院からの帰り道だろうか。老人が項垂れながら店先でつぶやいた。

「しばらくそのまんまにしといて、ちょっと溶け出して緩んで来てから食べてや。歯が折れてまうとあかんで」。活人さんは、冗談めかして笑った。

「家のアイスは空気入れて攪拌したカスカスの物と違(ちご)て、とにかく硬(かった)いんやさ。本当は冷凍庫から出して、15分ほど待って食べてもらわんとあかん。だから風呂入る前に冷凍庫から出しとくんさ。そうすると風呂上りに丁度ええ頃合の軟らかさになるで」。

活人さんは昭和34(1959)年、三人姉弟の長男として誕生。

「最初の頃は菓子の卸をしていて、メーカー物のアイスを販売しとったらしいんさ。そして昭和13(1937)年頃から、アイスキャンディーの製造販売を手掛けるようになって、アイスまんじゅうは昭和25(1950)年頃からやに。自転車に冷蔵箱積んで幟旗掲げた移動販売や、映画館で幕あいの立ち売りやさ」。

大学を出るとコンピューター会社に入社。

大手製鉄会社の情報技術部門へ出向となった。

家業とはまったくもって、似ても似つかぬ仕事。

「元々機械いじりが好きやったし」。

昭和60(1985)年、大学時代の同級生で大阪出身の悦子さんと結ばれ、一男一女を授かった。

「馴れ初めは?って、互いに合唱をやってまして、そのジョイントコンサートで知り合(お)うて。妻はアルトで、わたしがベース。バリトンは臨時記号とかあって、音の動きが難しいもんやで」。店先で客あしらい中の妻を、こっそり盗み見ながら照れ臭気に笑った。

翌年、退社し家業へ。

「父が師匠ゆうても、子どもの頃から正月の餅なんか手伝(てつど)うてましたし、身体の何処かが家の仕事をちゃあんと覚えとるんさ。それに夏場のアイスまんじゅう作りは『技術よりも慣れ』やで」。

真夏の風物詩「寿恵広のアイスまんじゅう」は、型が6個付いた容器にミルクを注ぎいれることに始まる。

次にマイナス30度の冷凍液の入った水槽に入れ、少し固まり出した所で小豆と棒を差し入れ、再び冷凍液の中で40~50分凍らせる。

6個付き容器が10セット、それを4つの水槽で一度に凍らせ240個が完成。

夏の最盛期には、一日3000個が製造される忙しさ。

「おおきにありがとう。こうして新聞紙二枚重ねで2回巻いといたるで、ゆうに1時間は溶けませんに」。

店先では、親子連れと親しげな会話が続く。

蝉時雨もいつしか法師蝉へ。

しかし秋はまだ遠い。

ならば、もう一踏ん張り。三世代に愛され続けるアイスまんじゅうで。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 290」」への9件のフィードバック

  1. 朝から歯がムズムズしちゃいますよ(笑)
    これまた昔からの製造方法で 地元の方々に愛され続けてるんでしょうね。
    一般的なお饅頭の大きさなのかな?
    小豆好きな私 気になる〜( ◠‿◠ )
    黒糖味もさらに気になる〜。
    両親にも食べてもらいたいなぁ〜。
    え〜い! お取り寄せしちゃおうかな⁈

    1. お好みの柔らかさにカスタマイズして食べるってぇのが、これまた待ってる間の時間に美味しさが育てられちゃうんでしょうね!

  2. ハイ⤴️ハイ⤴️ハイ⤴️確かに歯が折れるかと思うくらい固かったです。暫く、常温に置いてから食べたら良かったんですね。どう?オカダさんは知ってた?

    1. だって取材の時に教えていただいたから、その時初めて知りましたぁ。
      それまではこんなにも硬いアイスまんじゅうなるものは、知りませんでしたもの。

  3. 『寿恵広』さん、いかにも縁起が良い屋号ですね。
    似たようなアイスは食べたことがあると思いますが、和菓子屋さんのアイスは初めて知りました。
    食べた〜い!
    この頃、寒いですが関係ありませんね。
    ウチはモナ王を常備しております。
    オカダさんは、どんなアイスがお好きでっか?
     (^。^)

  4. 今晩は。

    ・アイスまんじゅう職人のお話ですね。

    ・私は、アイスまんじゅう職人さんが、見える事知りませんでした。 ブログで、見て勉強になりました。

    ・写真のアイスまんじゅう 小豆が、入っていて美味しそうですね。

  5. 「天職一芸〜あの日のpoem 290」
    「アイスまんじゅう職人」
    知らないでガブってしてしまったら
    前歯を持っていかれそうですね。
    コロンとしていてお花みたいで可愛いらしいですね。

虚舟 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です