「天職一芸~あの日のPoem 288」

今日の「天職人」は、三重県桑名市寺町通りの「鶏肉屋主」。(平成20年7月29日毎日新聞掲載)

コケコッコーと朝まだき 庭の鳥籠鳴き声が           慌てて籠に毛布掛け 近所迷惑気を揉んだ            露天ピヨピヨひよこたち 母にせがんで持ち帰りゃ       あっと言う間に鶏冠(とさか)生え 何時の間にやら鶏屋行き

下町風情が残る三重県桑名市常磐町。昭和8(1933)年創業の鶏肉卸小売「鳥文本店」、二代目主の澤田良之さんを訪ねた。

下町風情が今も残る桑名市寺町通り。旧道の緩やかな湾曲に沿って、商家の家並が続く。

「鶏も風邪ひくと洟(はな)垂らしよるんやさ」。良之さんは白衣を正しながら笑った。

良之さんは昭和21(1946)年、6人兄妹の3男として誕生。

中学を出ると同県四日市市の寿司屋へ。

「板場仕事が好きやったもんで」。

その後、名古屋の寿司屋に移り、再び四日市市の寿司屋へと店を代え腕を磨いた。

「20歳の時やったんさ。親父から『家やるもんがおらんけど、何(な)としよ?』って。それで家の仕事も手伝うようんなって」。

二年後、まるで予期したかのように父が病に倒れそのまま引退。

「それからは自分で仕入れに行って、生きとる鶏買(こ)うて。昔は店の裏で、チョチョイと捌いては店に並べとったんさ。でも今はあかん。平成3(1991)年に食鳥処理に関する法律ができたもんで、裏で鶏捌いても、腹ん中の臓物は何処へも移動出来やん。つまりお客さんにも売れやんのさ」。

鳥文の鶏は、赤鶏が主力。

毎週月・水・金と岐阜県養老町まで仕入れに出向く。

「ガッチキ合う(人でごった返す)のが嫌いやもんで、朝5時には家を出るんさ」。

鶏の商品価値を見定める目は天下一品。

永年の勘で鶏の顔と体を瞬時に見分ける。

「鶏も人間も一緒や。顔付きがキリッとしとることがまず第一。次に赤身に血が混じっとらんかよう見んと。雄は体が大きく骨太で身が白い。それに引き換え雌は、骨が細くて脂ののりがええ。せやで雌の方がやっぱ一番美味いんやさ。それに私も女性の方が好きやもんで」。

仕入れた鶏は、モモ・ムネ・ササミ・ガラ・セセリ(首肉)の部位ごとに、刃渡り15㌢の捌き包丁で切り分けられる。

「生のまんま食べてもらう物(もん)は、一日冷蔵庫で寝かすんさ。そうせやんと肉が突っ張って美味くない。一日寝かすとまろやかに柔らかくなって、しっとり感が出るんやさ」。

良之さんは包丁の刃を上に向け、ヤスリ棒で器用に刃を研ぎ始めた。

「あんまり刃が立ち過ぎると、骨まで削ってまうで、ヤスリで刃を丸くせんと」。

昭和49(1974)年、27歳の年に見合いし、そのまま百合子さんを妻に迎え二男を授かった。

「お陰様で次男が三代目を継いでくれてな。私が鶏を捌いて、妻がつくねやモモを焼いて、息子が唐揚げや鶏肉コロッケの揚げ物担当やさ」。

夕餉の惣菜を求める客と、親しげな会話が飛び交う。

「家の鶏はスーパーに比べたら高いですわ。それでも『お前んとこの鶏が一番美味い』ゆうて買うてかれるんやで。ありがたい話しですわ。儲けに走って欲出したら終い。コツコツと誠実に、鶏が餌啄(えさついば)むように商売させてまわんと」。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 288」」への7件のフィードバック

  1. ニワトリを捌いている所を見て鶏肉が食べられなくなったと言う友達がいます。
    私は、人間の内蔵を見ましたがレバーは平気に食べられます(笑)オカダさんは、どう?

    1. ぼくも母の胃癌の摘出手術の後、摘出された胃を見せられましたが、それはそれ。
      昔は「レバ刺し」が大好きでしたもの!
      今では幻となりましたが!

  2. こんにちは。
    ・鶏肉屋主人のお話ですね。

    ・私は、鶏肉屋さんで鶏肉を、買った事が、有りません。

    ・私は、肉(鶏肉,豚肉,牛肉)好きです。

    ・私は、鶏肉は、スーパーマーケットかドラッグストアーで、買います。スーパーマーケットである惣菜(鶏肉)を、買います。

    ・写真の鶏肉の料理美味しそうですね。

  3. * 鶏肉屋さん*

    実家の近くにありました~(@^^)/

    店主のおばちゃんが 店先で捌いていたので 幼少の頃は 1人でのおつかいは 行けなかったんですよね (/。\)

    でも 肝や さっと湯通しした ささ身 は幼い私達にも 違いがわかったみたいで 、その 鶏肉屋さんのじゃないと「 美味しくない❗」って 食べなかったと 母から聴いたことがありました。
    鶏肉は 牛肉と違って 新鮮なのが 一番なんでしょう ねぇ (●^o^●)

  4. なんだか弾力がありそうで 身がしまってて…
    どんな調理法でも美味しくなる感じ( ◠‿◠ )
    でも私は ちょっと生のままでは。いくら新鮮でも苦手なんです。
    熊本や鹿児島に帰った時など よく食卓に並んでて 大人達が美味しそうに食べてたっけなぁ〜。
    鶏肉好きな私は シンプルに鶏もも肉を塩胡椒で焼いて 柚子胡椒を付けて食べるのが一番好きな食べ方かも⁈

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