「天職一芸~あの日のPoem 275」

今日の「天職人」は、三重県伊勢市の「釣具店女主人」。(平成20年4月15日毎日新聞掲載)

日曜の朝台所(だいどこ)で 父は何やらガサゴソと

「ひねたネズミが出たんやろ」 寝返り打って母は言う      ぼくは急いで起き出して 父の自転車飛び乗った         近くの川で浮子(うき)並べ 春の鮒釣り魚信(あたり)待つ

三重県伊勢市のニシオカ釣具店、三代目女店主の西岡佳子さんを訪ねた。

家族のため、高度経済成長期をボロ雑巾のように働き詰め、七年前この世を去った父。

唯一の趣味は、ささやかな釣りだった。

僅かな小遣いを工面し、少しずつ道具を買い足して。

車を持たない父はぼくを荷台に乗せ、魚場を求め何処までも自転車を走らせ続けた。

「今しはなぁ昔と違(ちご)て、鳥羽の漁師さんらが、ワームやルアーに針とかワイヤーを買いに来る時代なんさ」。佳子さんは、数多(あまた)の商品に埋め尽くされる店内を見渡し微笑んだ。

佳子さんは昭和19(1944)年、市内で旅館業を営む加藤家の末子として誕生。

「物言いかけるか、かけやんかで西岡の家に養女にもらわれて」。

地元の高校から東京の短大へと進学した。

「ちょうど東京オリンピックの年やったわ。大空に飛行機が、五色の煙で五輪を描くように飛んだの、この目で見ましたんやさ」。

翌年帰省し、本家の縫い糸店を手伝い、昭和41(1966)年には釣具店を任された。

昭和43(1968)年、叔母の紹介で津市出身の忠文さんが婿入りし、二男一女を授かった。

妻として母として、そして両親の面倒も見ながら、釣具店の切り盛りに追われ続けた。

「もう戦後間もない頃と違(ちご)て、喰うための釣りから、遊びとしての釣りに様変わりし始めた時代やったでなぁ。毎年9月になると、この辺の釣師さんらは、落ち鮎求めて宮川でガリっていうコロガシ漁をするんさ。五十鈴川は禁漁区で出来やんで。それから海やと鳥羽でカイズ(黒鯛の一年子)を釣って、それを背開きにして干物にすんのが、秋の風物詩の一つやさなぁ」。

時代と共に釣り道具も餌も変化を続けた。

竹竿からグラスファイバー製の竿へ、そして現在ではカーボン製が主流に。

餌はミミズやゴカイにエビ等の本物から、ルアーやワームの疑似餌が主流となった。

「私がちっさい頃は、まだマイカーが無い時代やった。だから釣師さんらは店が開くのを待って、餌買(こ)うて伊勢市駅まで一番列車に乗り遅れんように走って行かしたもんさ」。

週末の釣師たちは、日曜日が待遠しくてならなかった。

「漫画の釣キチ三平が流行った頃は、店の前が小学生のチャリンコで一杯やったんさ。歩道に雷魚やブラックバス並べてルアーダービーとか言って、釣果を競い合いよったんやで」。傍らで夫が懐かしそうに笑った。

「何で漁師さんらが買いに来るかって?すぐ近所の鰻屋に、漁師さんが餌のドジョウを買いに来とって、家のワームを見つけて『いっぺんこれでやって見たろか』って買(こ)うてったのが始まりやさ。それが今では知多半島の漁師さんらまで買いに来るんやで」。

釣道具の進化は、人類の進化そのものだったのかも知れない。

如何に獲物を騙すかという。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 275」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    ・釣具屋女主人のお話ですね。
    ・釣具の種類(釣竿,ルアー等)は、沢山有りますね。
    ・私は、釣具屋さんに、あまり行った事が、有りません。 もしかして釣りの体験は、やったかも知れません。
    ・私は、釣具を、持っていません。
    ・身内で釣りが趣味の方が、いないからです。

  2. 釣具屋さんにはたまに行きます。私一人では ちょっと恥ずかしいので主人と一緒に行き買いたいものは主人に会計を頼みます。
    私の唯一の趣味は釣です。
    お天気がよく暖かい日は木曽川の河口まで出掛けます。
    釣り針に餌を付け河口に向かって投げ当たりがくるのを待っているときが一番の癒しの時間です。

  3. 前に、釣り針にエサが付けられないと書いた事があると思うのですが、あれってね、例えばエサを右手の親指と人差し指でつまんで付けたとするでしょ。その手をいくら石鹸で洗ったとしても、感触や臭いが鼻について、その手でお米を洗うのかと思うと、ムリ〜!!ってなっちゃうんですよ。おバカでしょう〰(>ω<)

  4. 夏の夕暮れになれば隣に流れてた川で釣糸だして幼馴染みと2人でハシャイでいましたよ。ミミズ、ゴカイはさわれますよ(笑)
    ミミズはシマシマの糸ミミズがよく釣れましたよ。
    海釣りはやったこと無いです(..)(..)

  5. 釣り!
    イイよねぇ~⤴
    以前!ブラックバス釣りをやってました。
    そりゃぁ~⤴釣れて方がイイけど!
    釣れても釣れなくても、リールを巻きながら・・
    ブラックバスと対決⤴面白かったなぁ~⤴
    生エサは触れないけどルアーなら大丈夫だからねぇ!
    オカダさんと釣り!
    チョット、イメージが浮かばないねぇ⤴

    1. ぼくはもっぱら子どもの頃、お父ちゃんに連れられてヘラブナ釣りや、三重の田舎の櫛田川でシラハエ釣りをやったくらいですねぇ。
      大人になってからは、釣り堀のマス釣りくらいのものです(笑)

  6. 今晩は(^-^)
    私は釣りはやった事がないです。でも板取川で父と母とお姉ちゃんと弟と5人で鮎を食べに行った事があります。その時に私とお姉ちゃんはタモで鮎を取って弟は手で捕まえて取っていたのを覚えています。鮎を串でさして塩焼き鮎は美味しかったです(^-^)/ ところで話が変わりますがオカダさん以前散歩中にヤギを見かけた事ありましたね。それが今日22日夜メ~テレでナニコレ珍百景6時半~8時に何とか名古屋市不思議な光景で投稿があって何とかおばあちゃんがヤギを散歩している姿がテレビに映っていました。金山駅の近くに住んでいるおばあちゃん(河村鶴子)で74才でヤギは一歳半ですとテレビで言っていましたよ(^-^) 多分オカダさんが見たヤギじゃないかなぁと思いますよ(^-^)/ ちなみに何故ヤギを飼うとしたのか娘さんがいっていました。前におばあちゃんが愛犬と散歩していたが愛犬が亡くなっておばあちゃんはショックで外に出なくなり家でゴロゴロでぼっとしているので娘さんがまた犬飼うと聞くといらんと言って元気がなかったので娘さんは牧場でヤギを買って家に疲れて来ておばあちゃんに見せたら可愛いねと喜んでくれてそれかヤギと散歩に行きおばあちゃんは明るくなったと娘さんは言っていましたよ\(^_^)/

    1. でしょ!
      やっぱりぼくが見た、ヤギとお婆ちゃんは、幻影ではなかったんですねぇ。

  7. 昔々 年に一度は釣具店に行ってました。その頃 義理の兄(15歳年上)の趣味が釣りだったので 毎年誕生日プレゼントとして 釣具店の店員さんに聞きながら 邪魔にならないような小物を買って プレゼントしていました( ◠‿◠ )
    その趣味が カメラから農作業に移った今では LINEで「おめでとう!」になっちゃいましたけど(笑)

    1. 釣りからカメラへ、そして農作業とは!
      それまた多趣味なお兄様ですねぇ。

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