今日の「天職人」は、名古屋市中村区の「蝋細工師」。(平成十九年九月二十五日毎日新聞掲載)
給料後の日曜日 父母に引かれて百貨店 特売漁(あさ)る母を追い 父と二人で大わらわ 買い物後のご褒美は 最上階のレストラン ケースを覗き品定め どれどれどれにしようかな
名古屋市中村区、食品模型すがもり工房、二代目蝋細工師の菅森弘昌さんを訪ねた。

名古屋駅西口。
椿神社の小さな杜の脇道には、下町風情が今尚色濃く残る。
生鮮品から衣料まで、ありとあらゆる商品が軒先を埋め尽くす。
その一画に、食品模型の蝋細工屋が。

ショーウィンドーの中には今が食べ時とばかりに、焼き立てのステーキからオムライス、そしてホークで絡め上げて静止した状態のスパゲティが並ぶ。
子供の頃、食堂の入り口で蝋細工の模型に見惚れ、駄々を捏(こ)ね母を困らせた懐かしい記憶が過(よぎ)る。
「もう今は蝋じゃなく、塩化ビニール製です。変色しないし耐熱にも優れ割れないので。昔の松脂で艶を出した蝋細工には、ゴキブリやネズミが卵を産み付けるもんだで。20年ほど前から、塩化ビニールに代わったんだわ」。弘昌さんは、展示されているステーキを取り上げ差し出した。

やはり蝋とは異なり弾力性がある。
弘昌さんは昭和33(1958)年、大阪で蝋細工師の父の元に四人兄弟の三男として誕生。
小学一年の年に父の転勤で名古屋へ。
その五年後に、父は独立し兄が営業を担当して家業を支えた。
弘昌さんは高校を出ると、自動車の整備工に。
だが二年半後、蝋細工師である父の跡を継ぐこととなった。
「昔から物造りが好きだったし、兄は営業専門だったから。父の技を学んどかんといかんと思って」。
職人の世界に終わりは無い。
どれだけ技術を身に着けたとて、その先を目指すのが宿命。
弘昌さんの修業は続いた。
昭和63(1988)年、恭子(のりこ)さんと結婚。
その三年後、一念奮起の末独立。
「自分のやりたい方向性と、兄の方向性とが違ってきて。そんな時にお客さんから背中を押されたって感じかなぁ」。
バブル経済崩壊の足音が忍び寄る、平成3(1991)年のことだった。
「バブルが弾けると、飲食業界も不況のどん底。『食品模型を造ると金がかかり過ぎるでかん』と。だんだんショーケースの中から、食品模型が姿を消して写真に代わってしまったわ」。
高いと言っても、相場は食品模型二十点で約十万円ほど。
「だいたい商品価格の十倍。だからチョコレートパフェが六百円なら六千円。まあ、どのみち丼勘定だて」。弘昌さんは大笑い。
食品模型の造り方は、現物をシリコンで型取ることに始まる。
半日乾燥させ、現物の食品を取り出す。
次に現物の色に似せた油絵の具を塩化ビニールに配合し、樹脂を型に流し込む。
今度はそれを180℃に熱したオーブンで二十分ほど焼き上げ、赤・青・黄・白・黒の五原色の油絵の具を調合し、現物と瓜二つに着色し微妙な風合いを再現。
すると寸分違わぬ、精巧な模型が誕生する。

「でもさすがに匂いまでは再現出来んけど」。
これで匂いを発すれば、疑う事無く口に入れてしまうことだろう。
ショーケースの食品模型に心奪われ、いつかはあのステーキが食べたいと立ち尽くした遠い日。
庶民の身近な芸術品を前に、腹の虫はただただ七転八倒だった。
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おはようございます。
蝋細工師のお話ですね。
食品サンプル上手に出来ていますね。
(ステーキ,たまご等美味しそうですね。)
食品サンプルは、手作りなのですね。
・本物の食べ物と食品サンプルを、比べたら分かりにくいですね。
・食べ物を、蝋細工で再現出来るなんてすごいですね。
・私は、レストラン等で食品サンプルを、見て食べたい物(食べれる物)を、選びます。
「天職一芸〜あの日のpoem250」
「蝋細工師」
近くの
インド料理店のカレーとナンにそっくりです。タイ料理屋さんに変わってしまったらしく がっかりしてたので なんだか 嬉しくなってしまいました。これも
塩化ビニール?
とぅるんとした。きみにはまいりました。ですね。
まさに芸術品ですよねぇ!
食品サンプルって
日本独自の文化なのでしょうか?
以前テレビで外国の人が食品サンプルのキーホルダーを
お土産にすると言って大量に買ってました。
日本人ならではの手先が器用で精巧に出来ていて誇らしいです。
あたしも食品サンプルの様に、
本物らしい一流のニセ者になりたいもんですぅ!
確かに確かに!
しか~し、本物らしい一流のニセ者とは良い観点ですが、それにしたってもう・・・手遅れかも!
ホント良く出来てますよね!
さすがに お箸とかが浮いてると 分かりますけどね( ◠‿◠ )
以前 ファミレスで働いてた時 サンプルとメニュー表の盛り付けと寸分違わず作るように 厳しく言われたものです。
当たり前の事なんですけどね。
お客様は まず あのサンプルを見て ウキウキしながら 注文するメニューを決めるわけですから。
我が息子達は お店の入り口にランチメニューのサンプルが置いてあると ダッシュして 必ず一度は触ってます(大笑)
いいじゃないですか!
人間食欲が失せたら終わりですもの!
でもほんと、触らないと、匂いを嗅いでみないと分からないほど、そっくりに出来てますものねぇ。