「天職一芸~あの日のPoem 228」

今日の「天職人」は、三重県四日市市の「舞踏衣装屋」。(平成十九年四月十七日毎日新聞掲載)

華麗なドレス靡(なび)かせて 優雅にワルツ君が舞う  ステップだけを目で追って 心は君と踊り出す     ホールの隅で黙々と 慣れぬステップ繰り返す     「踊りましょう」と突然に 舞姫の手に身を委(ゆだ)ね

三重県四日市市、舞踊衣装専門店のハイファッション光。三代目の店主、長谷川進さんを訪ねた。

写真は参考

「日頃はよう着やんような派手な服着て、人前で優雅に踊るんやで。そりゃあライト浴びて緊張感が出るし。皆に見られとる思(おも)たら、心が高揚して来ますやろ。一日中テレビの前で、ボーッとしとったら老いてまいますやん」。進さんは豪快に笑い飛ばした。

「祖父が端切れや糸偏関連の商いを始めたんやさ。それから戦後は、既製品の婦人子供服へ」。

昭和二十九(1954)年、進さんは三人兄弟の長男として誕生。

やがて地元の工業高校へと進んだ。

「当時、鉄鋼関係が好況やったんで、鉄の勉強をしようと思とったんやさ。そしたら、あれよあれよと言うとる間に鉄鋼が冷え込んでしまって、洋服の勉強に切り替えたんさ」。

高校を出ると岐阜市の婦人服メーカーに就職し、生産部門を担当した。

「ファッションは季節が一般と反転してますやろ。せやで大変やったわ。呆れるほど暑っつい時に、冬場のウールを汗びっしょりかいて運ぶんやで」。

二年後、やがて家業に戻った時のためにと、岐阜市内の婦人服小売店に職場を移し修行を重ねた。

翌、昭和五十(1975)年。進さんが二十一歳の年に父親は病に倒れ、急遽暇乞いをして家業に舞い戻った。

「まだ若造やったし、父の病気が平癒するようにと、神頼みの教会通いやさ」。

やがて神頼みに新たな願いが加わった。

いつしか教会長の娘に惹かれていたからだ。

「私らの業界は派手やけど、彼女は保母をしていていつも質素で、おまけに親切で優しかったんやさ」。

昭和五十六(1981)年、輝美さんと結ばれ一男一女を授かった。

間も無く訪れたバブル景気に乗り、事業は拡大の一途。

最盛期には十三店舗を構え大忙しの毎日が続いた。

「とにかくよう売れた。百貨店がよう売らんような、ちょっと際どい物を売るんやさ。ディスコのお立ち台娘のボディコン系とか。それでもあかんわ。バブルが弾けてもうて。大手百貨店が入って賑わっとったビルも、ビルごと閉店してまうんやで」。

後退する景気の余波で、いくつかの店は閉店に追い込まれていった。

「この店は元々ダンス好きやった母親が、ダンスやカラオケ用の衣装を専門に扱ってましたんや。私も何かしら特徴のある店作りしてかんとと思(おも)とったとこやったもんで、次第にこっちに力を入れるようんなったんさ」。

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普段着からは到底かけ離れた、煌びやかな非日常的な原色の衣装が所狭しと並ぶ。

「試着して出てきて『ねぇねぇ見て見て』って言う人もおれば、ダンスやっとる人は鏡みながらステップ踏んでみたり。似合(にお)とるもんは似合とると言えるけど、似合とらんとはやっぱ言えやんで、別のもんを着てもらうんやさ。それで『こっちの方がもっとよう似合とるわ』ってな具合に、上手いこと誘導せやんと」。

進さんは娘の貴子さんと、ラテンのペアを組んで三年になる。

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「せやけどもうじき娘が嫁ぐもんやで、相手失ってまうんやさ」。

貴女もエプロンをドレスに着替えて。

さあ、シャルウイダンス!

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 228」」への7件のフィードバック

  1. こういった舞台衣装のお店、栄町ビルの一階にあったような。毎年、地元で行われる市民参加型ミュージカルに参加していて、舞台衣装を身に着ける機会もありますがコロナウイルスの影響で今年はお休みです。

    1. 栄町ビルの奥に、確かにありましたありました!
      ざっぱな店が居並ぶ中で、異様に煌びやかだったことを記憶しています。

  2. ドレスだぁ〜!
    朝から胸が高鳴る〜(笑)
    着ました 着てました!
    ピンクや白のシンデレラが着てたようなモダンドレスや煌びやかなブルーのラテンドレス。
    ドレスを身に付けると気持ちが高ぶるんだけど でも ドレスを着る時は大会の時だったので 物凄く緊張も…。
    あとは ただパートナーを見つめるだけ。
    朝から当時のいろんな思い出が 甦りました(♡)

  3. 「天職一芸〜あの日のpoem 228」
    「舞踏衣装屋」
    素敵なpoemですね。胸が踊ります。
    勝手な想像してオカダさんは外国が似合うなぁ〜とかダンスが素敵に似合いそうとか思ってしまいます。

    ダンス衣装が飾り付けてあるお店の前を通るだけで
    なぜかこころは踊りだしますよね。
            

    1. 煌びやかなドレスを纏うと、それだけで女性の方は、物語のヒロインになっちゃえそうですよねぇ。

  4. 今晩は。
    舞台衣裳屋のお話ですね。
    舞台衣裳綺麗ですね。
    ドレス綺麗ですね。
    私は、舞台衣裳(ドレス等)着た事が有りません。

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