「天職一芸~あの日のPoem 182」

今日の「天職人」は、岐阜県高山市の「飴細工師」。(平成十八年三月二十一日毎日新聞掲載)

祭囃子が聞こえれば 娘の笑顔はちきれる         早く早くと手を引いて 八幡様の境内へ          見とれ佇む飴細工 あれこれ悩み品定め         やっと手にした犬の飴 勿体ないと引き出しへ

岐阜県高山市のはりまや製菓、飴細工師の竹田喜一郎さんを訪ねた。

春まだ早い飛騨高山。雪解け水が宮川を下る。

堤に並ぶ朝市。観光客が思わず足を止め覗き込む。

「あったあった、これやこれ」。竹串の先に咲く、色鮮やかな花の飴細工。

写真は参考

「前にこれと同じの買うたんやけど、何や食べるのんが惜しいなって、飾っといたるんさ」。年配の婦人は、お目当ての飴細工を手に声を弾ませた。

「ああやって言うてもらうのが、職人冥利に尽きるんやさ」。喜一郎さんは絵筆を止め、何とも優し気な瞳を向けた。

「店番の間暇やもんで、下手の横好きで好きな絵書いとんや」。中々どうして堂に入ったもの。大地の恵みの野菜たちが、柔らかなタッチと色遣いで見事に描かれている。竹の節を利用した、『喜』の落款も押された立派な作品だ。

店先には色取り取りの飴細工が並ぶ、一足早い春の百花繚乱。

写真は参考

喜一郎さんは昭和二十一(1946)年に、農家の長男として誕生。

高校を出て電子部品製造会社に入社。「二十歳の頃、怪我して辞めたんや」。絶縁体が掌の内側に入り込み、切開して取り除く始末。

その後、知り合いの紹介で有平細工の飴菓子工場へ。 「手先仕事が好きやったでな」。それに元々持ち得た絵心も加わり、職人としての技に磨がかかった。

ある日の事。道端に自転車を止め、外れたチェーンに困り顔の娘がいた。直ぐに手を差し延べ、チェーンを元通りに。

「よう見たら、同じ工場の後輩で。それがこれなんやさ」。喜一郎さんは照れ臭そうに妻を見つめた。

「最初は優しいお兄さんみたいやったのに、何時の間にかこんなんなって」と、妻の妙子さん。

それが縁で二人は、昭和四十七(1972)年に結ばれて一男一女を得た。

そして二年後、喜一郎さんは二十八歳で独立。

「最初は車庫を工場に改装して、夫婦二人してどんな飴作ろうって」。試行錯誤が続き、販路の開拓にも追われた。

「高山らしい飴があってもええなあって思ったんや」。昭和五十三(1978)年、ついに代表作となる「名所飴」が完成。

「お土産用に朝市や中橋、それに飛騨の里の四季を、飴細工で表現したんや」。

飴作りは、水三に対しグラニュー糖七の割合で、手鍋で一時間かけて煮る。

百五十~百六十℃になったら火を止め、冷却板の上で冷やしながら食紅で色付けし、図案の部品を手作り。

赤・青・黄・オレンジ・紫・茶・黒と、七色の食紅を絵の具のように混ぜ合わせ、多彩な色を生み出す。

「飴の仕事は好きや。家事は嫌いやけど」。妙子さんが笑った。

「この朝市は、母が農産物を売っとったんや。でももう歳やもんで、三年前から飴に替えたんやさ」。毎年冬場を除く、三月から十一月初旬頃まで、竹田さんの飴細工が朝市を彩る。

「『また来たよ』って、何回も遠くから見える方や、外国の方は珍しがってくれて。ここはええよ。お客さんの反応が、そのまま直に伝わって来るで」。

怒った事など、これまで一度も無いかと疑わせるような柔らかな笑顔。

そんな人柄が加味され、いつしか食品としての飴は、甘美な作品となった。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 182」」への9件のフィードバック

  1. 「天職一芸〜あの日のpoem182」
    「飴細工師」
    高山に行きたくなりますね。
    朝市もそぞろ歩いて 
    参考写真の飴細工に どれにしようかなぁ〜などと思って楽しませていただきました。ありがとうござます。

    1. 高山の旅館田邊さんから鍛冶橋を超え、宮川沿いに左に回りしばらく行くと、竹田さんが店番しながら絵を描いていらっしゃるはずです。

  2. うっひょ〜!可愛い過ぎて食べるのがもったいなぁ〜い⤴️
    アメって言えば、ペコちゃんでお馴染みのポップキャンディを孫の為に買って置いたのですが、つい手が伸びて口から棒を出して舐めてるわ・た・し(想像しないでぇ〰) 期間限定で『国産もも味』や『ソーダ味』もあるんですよ。

    1. ぼくら子どもの頃は、甘い物はとんでもないご馳走でしたよねぇ。
      だからそんな飴ちゃんなんて、甘い物の王道でしたもの。

  3. こんにちは。

    飴細工師のお話ですね。

    写真の飴 食べるのもったいないですね。可愛いですね。綺麗ですね。

    高山に、飴細工師さんが、見えた事知りませんでした。宮川朝市で、販売しているのですね。ブログで知りました。

    私は、飴が、好きです。
    粘つく飴は、食べれません。
    (粘つく飴は、食べれません。)

  4. 先日テレビで高山の「朝市」の様子を映されていましたが
    観光客がまばらで閑古鳥が鳴いてました。
    「旅館田邊さん」影響が半端ないでしょうねぇ!
    せっかく「コロナ給付金」が支給されても
    第2派の影響で不本意ですが世間の皆さんに貢献出来ません!
    いつまでも「コロナ」が続く事はないでしょう!
    それまで今は我慢⤴我慢⤴

    1. そうそう、これは戦時中のようなもの!
      にっくきコロナに「勝つまでは、欲しがりません」!ですねぇ。

  5. 朝一でこんなに可愛らしい飴が並んでたら きっと足を止めちゃいますね。
    お野菜の形っていうのが朝一っぽい( ◠‿◠ )
    店主さんとの会話のやりとりっていいんですよね〜。
    で、すぐ買っちゃうんですけどね(笑)

    1. そうそう!
      束の間のふれあいで、人情と人情が交差する!
      それが対面販売の、朝市ならではの光景ですよね。

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