今日の「天職人」は、岐阜市青柳町の「相撲幟筒引(すもうのぼりつつび)き職人」。(平成十七年三月二十六日毎日新聞掲載)
梅雨の長雨吹き飛ばし 夏場所告げる触れ太鼓 浴衣姿に下駄の音 夕陽に靡(なび)く幟旗 君は幟を繰るように 贔屓(ひいき)力士の名を探す 見つけた途端大ハシャギ まるで金星上げたよな
岐阜市青柳町の吉田旗店、五代目の手捺染(てなせん/手染め)筒引き職人の吉田稔さんを訪ねた。

長良川を渡る空っ風。工場の庭先には、相撲幟が天日干しで横たわる。色鮮やかな染め物の花が、風を孕(はら)んで大きく揺れた。
「力士は、四股名を少しでも強く見えるように、大きく書いて欲しい。そんな願いが、幟に託されとんやて」。 と、稔さんがつぶやいた。

「江戸時代の身分制度で、染物屋は士農工商のどこにも属さんかったんやて。戦の旗指物や幔幕を作る『作り部(べ)』と呼ばれ、士と農の間にあって禄を食(は)んどったらしい」。
稔さんは、工業高校の染色科に入学すると同時に、住み込み職人と共に寝起きし、卒業までの三年間を過ごした。言わずと知れた職人の世界。先輩や親方の指運びを、盗みとる毎日が続いた。
四季の場所を彩る相撲幟は、幅九十㎝長さ五.四m。まず水に溶いた緋粉(ひこ)を筆にしたため、上から三分の二を、四股名の文字数で割り升目の当りを入れる。
次に力士の四股名をぶっつけ本番、下書きも無く一気に筆を走らせ、袋文字を描く。 「四股名の一文字分を桟敷に見立て、満員御礼になりますようにって祈りながら、升目一杯に文字を埋めるんやて」。力士がどっしりと四股を踏むよう、文字のバランスは、真ん中より下に重心を置くのが秘訣とか。

次に幟を両側から引っ張って吊るし、筒引きと呼ばれる糊置き作業。
この筒引きに、欠かせないのが筒合羽(つつがっぱ)。伊勢型紙を円錐に丸め、真鍮製の口先金具を取り付けたものだ。この合羽の中に、もち米、米糠と塩で煮た糊を入れ、緋粉の下書きに沿って搾(しぼ)り出すように、色分けの境界線をなぞる。
そして糊の乾燥を待って染色。 『今から染めさせてもらうで、綺麗に上がってね』って、やさしく声をかけ愛情を注ぎ込む。「最後は水にほとべ(ふやかし)て、天日干し。天日やで、染め色に輝きと艶が出るんやて」。

高度成長と共に、旗屋にも機械化の波が押し寄せた。コンピュータ化に迎合する者と、手染めに拘り続ける者とが二分。
「手染めには、機械に描き出せん味があるで、今でもこうして商えとるんやて」。 稔さんの元には、全国百軒足らずとなった手染めの旗屋から、跡取りの若者たちが送り込まれ、日々修業に明け暮れている。
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おはようございます。
・相撲幟筒引(すもうのぼりつつび)き職人さんのお話ですね。
・相撲幟筒引きは、ひとつひとつ職人さんの手作りなのですね。手間がかかりますね。字のバランスが、難しいですね。文字の書体が独特ですね。落語の字も独特ですね。
・私は、相撲の幟は、実際に見た事が有りません。TVで、見た事は、有ります。 相撲幟筒引きカラフルで、綺麗ですね。
なんでもコンピューター。
人が作るコンピューター。壊れたら人が直す。古い型だと直らない事も。そしてまた新しいコンピュンターが目の前に…
なんだか いただけないなぁ〜。
私が古い人間だからなんだろうなぁ。
『相撲幟 』大変なお仕事でしょうが やっぱり想いを込めながら 一旒一旒手書きにこだわって欲しいです。
それこそ力士たちが、自分の四股名が掲げられていたら、随分勇気がわいたのではないでしょうか?
この吉田旗店さんは有名ですねぇ!
ウドちゃん、ぐっさんがそれぞれ取材に来てました。
いつも思うんですが、本当に整った文字が見やすい
誰が見てもすぐに分かる事が大事なんでしょうねぇ
今はパソコンで画像処理をし製品化して・・
こういった職人さんも年数を追う毎に減って行くんでしょうか?
オカダさん、我々は、この先ズッ~~と「アナログ人間」で行きましょう。
只!解かる範囲内でデジタルに頼ってもイイかなぁ~!
ぼくの「天職一芸」の本は、各TV番組のリサーチャーがチェックされたのでしょうが、随分ネタ基にしていただけた気がいたします。
迫力ある相撲幟、岐阜で作られていると知ったのは、大人になってからでした。
糊を洗い流し、くっきりと文字が浮かんでくる瞬間、きっと感動ですよね。
独特の迫力が伝わってくる、素晴らしいものですよね。