「天職一芸~あの日のPoem 130」

今日の「天職人」は、岐阜県福岡町の「曲げわっば職人」。(平成十七年三月五日毎日新聞掲載)

卒業式の姉ちゃんは 袴姿で艶やかに           お転婆娘何時の間に 頬にほのかな薄化粧         家族の宴祝い膳 蒸した赤飯待ちきれず         「摘み食いよ」と曲げわっぱ 蓋を開けたら玉手箱

岐阜県福岡町の丹羽木工所、二代目曲げわっぱ職人の丹羽昭二さんを訪ねた。

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「柾目のわっぱは、もう出来んのやて」。 昭二さんは、早春の陽だまりの中で、山裾をぼんやり眺めた。

昭和三(1928)年、名古屋市中川区で誕生。しかし昭和二十(1945)年五月、一家は空襲で工場もろとも焼け出された。

総てを失い、母の在所を頼って福岡町へと移住。板壁の古い倉庫が仮住まい。天井からはお月様が見え、冬になると容赦なく雪が舞い込んだ。

「カボチャが盗まれたと言うと、直ぐに『あいつらや』と、余所者扱い」。その苦しさをバネに、掘っ立て小屋で工場を再興。景気の上潮に乗り、本格的に曲げわっぱ製造を開始した。

まず丸太を柾目になるよう、蜜柑割りに割く。昔の材は蝦夷松、今は東濃檜。次に蜜柑割りの材を立て、「く」の字の一遍と平行に二分(約六㎜)の薄さで、独特なわっぱ包丁を打ち込み、手槌で捻(ひね)るようにへぐ(剥ぐ)。

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「へげる木かどうか、その見極めが肝心や」。六割は、へぎにくい外れ材。これらは折箱の材料として利用される。続いて腹当てをして、へいだ薄い平板の幅を合わせ、セン(鉋)で削る。「三年ヘボヘボ言うて、センで削れるようになるまで、楽に三年はかかったほどやて」。

次に三十分ほど釜で煮て、柔らかくなった材を縦長に置き、丸太の轆轤(ろくろ)を手足で押して板を巻き上げる。その後、型に組み込んで、天日で三~四日自然乾燥。底板に桟(さん)を取り付け、腰板を当て桜樺(さくらかば)で板を縫い上げ、曲げわっぱの蒸篭は完成する。

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昭和三十三(1958)年に妻を得、二人の男子に恵まれた。「でも跡取りはもうおらん」。二人の倅は、医者に育て上げた。

「よう割れる木ほど、へぎやすい。トイゴ(木の性質)は一本ずつ違うんやで」。材木の仕入れは、目利が肝心。「博打はようせんけど、材木選びもそんなもんやて」。

やがて中国産の蒸篭が輸入され、柾目の曲げわっぱは衰退の一途。「もう柾目にへげる職人がおらんのやで、仕舞いやて」。昭二さんが寂しげに笑った。

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たかが日用品。柾目で無くとも、赤飯やもち米は蒸せる。しかし職人は、曲げわっぱの胴に横たう、柾目という自然美に己の技を託す。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 130」」への9件のフィードバック

  1. 山仕事に行く父ちゃんがワッパ飯と言ってお弁当を持ってとった。殺菌作用もあり梅干しと合わせると腐りにくくなるとか❓️
    家には冷飯を入れておく大きなワッパもあったな~ワッパの中にサラシ布を入れてその中にご飯入れてくるんで蓋してあったわ。

  2. おはようございます。
    ・曲げわっぱ職人のお話ですね。
    ・曲げわっぱは、丸型と小判型が有るのですね。勉強になりました。
    ・丸型は、お弁当やおかずを、入れるのかな?
    ・曲げわっぱは、職人さんの手作りなので、手間がかかりますね。
    ・私は、曲げわっぱの商品を、持っていません。職場で、小判型の曲げわっぱの弁当箱を、見た事が有ります。

  3. 今はアルミの小さな蒸し器で、もっぱらさつま芋を蒸すのみですが、実家には家族が多かったから大きな蒸篭があったなぁ。

  4. 写真の「せいろ」を見ると
    小籠包を思い出します。
    以前、慰安旅行で台湾へ行った時
    あれだけ添乗員さんに「アツアツでやけどするから、気を付けて食べて下さい」
    と言われたのに!
    案の定「口の中やけど」
    もう⤴後の祭り!口の中が痛くて痛くて、水ぶくれ!
    最初の一口食べて、その後何も食べられませんでした。
    アッ!食べたわぁ~!
    つめたぁ~~い⤴「氷」一番美味しかった!
    その後、トラウマになり、小籠包は食べていません!
    いつか?克服したいもんです。
    さぞかし!美味しんでしょうねぇ⤴

  5. 1度は食べてみたい 曲げわっぱに入った白米を!
    とっても美味しいんですってね⁉︎
    でも おひつとなると炊飯器を購入するよりお高い…。
    長男には 毎日お弁当を作って持たせてるので 思い切って曲げわっぱのお弁当箱を準備しちゃおうかな( ◠‿◠ )
    毎日頑張ってる長男は お弁当の時間を物凄く楽しみにしてるので 少しでも美味しく出来たら 午後の時間帯も乗り越える事が出来るかも。

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