「天職一芸~あの日のPoem 122」

今日の「天職人」は、岐阜市彌八町の「味噌ステーキ職人」。(平成十六年十二月二十五日毎日新聞掲載)

初めて知った大人になって テキがステ―キだったって   子供の頃のご馳走は 千切りキャベツトンテキ二枚     初めて君に作った料理 引っ越し間際何も無く       味噌を絡めてトンテキを 母の手付きを真似て焼くだけ

岐阜市彌八町で昭和七(1932)年創業、元祖味噌ステーキ・レストラン「ライオン」二代目の味噌ステーキ職人岩田満さんを訪ねた。

「家の先代は、戦後間もない頃から、下駄履きでハーレー転がしとったほどの、洒落者やったらしいんやて」。満さんは懐かしげに眼を細めた。

満さんは、昭和十四(1939)年に飛騨金山で、警察官を父とする家庭に誕生。終戦時は大垣で玉音放送に接した。

貧しくも平穏な日々が訪れ、新制中学から高校へ。卒業後は、金型部品を製造する工場に就職し、十年近くの歳月が流れようとしていた。「そんな折、これとの見合い話が持ち上がったんやて」。満さんが妻を指差した。

見合い話はトントン拍子でまとまり、二十八歳の年に岩田家の婿養子として迎えられた。

「鉄から今度は、いきなり柔らかい物(もん)相手やでね。毎日親父にしごかれっぱなし」。とにかく先代の手付きを、ひたすら見て覚える毎日の連続。「覚えんならんでね。跡継がんなんのやで。肝心なのは、豚(とん)の捌き方やねぇ」。

豚の肩ロースの脂を取って、一枚を百㌘に切り落す。「目方を量りながら、包丁で目盛を付けるんやて。でも肉をなぶらせてもらえるようになってから、勘で目方がわかるまでに3年はかかった」。今ではその誤差も、百gでわずか二.五~五g以内の正確さ。

「昔はここの彌八地蔵の界隈に、芸者置屋が六軒ほどあったんやて。線香の煙でもうもうとなって。昼はお地蔵さんのお参り、夜は綺麗どころと旦那衆らで賑わったもんやて」。

地味噌に香料と秘伝の調味料で味付けした、特製味噌だれを豚肉に絡めて、次から次へと鉄板で焼いた。「あの頃は、一日に二百枚ほど出る日も、ざらやったて」。路地に漂う線香の煙と、焦げる肉汁と味噌の香ばしさが絡み合い、道行く人も想わず足を止めたことだろう。

肉の捌き方もやっと身に付いた昭和四十五(1970)年、長男の誕生と入れ代るように先代が鬼籍(きせき)に。

「岩田の家は女系やったで、まあ何とか責任果したって感じやね」。長男誕生と同時に、二代目を襲名。以来三十四年、庶民のご馳走「味噌ステーキ」の味を守り抜く。

昭和初めの柳ヶ瀬を、気取って闊歩したモボ・モガ。伊達男と洒落女が連れ立ち、今にもこぞってやって来そうな、そんな気がした。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 122」」への11件のフィードバック

  1. おはようございます。
    ・味噌ステーキ職人のお話ですね。
    ・味噌ステーキ職人さんが、見える事知りませんでした。ブログを、見て勉強になりました。
    ・写真の味噌ステーキ美味しそうですね。
    ・私は、味噌ステーキを、食べた事が有りません。
    ・味噌ステーキは、豚肉に味噌を、付けて焼いたのですね。ステーキと言ったら牛肉だと思いました。

  2. ☆ 懐かし~い ☆
    両親の仕事が休みの日の夜は ( 多分 月に1日か2日だった ) 柳ヶ瀬の 「ビクター 」か、近くの グリル◯◯に「トンテキ」「 味噌ステーキ 」 を 家族揃って 食べに行ってました (^-^)v
    実家は 殆ど和食だったので 子供ながらに お肉 !お肉! お肉 ~!と ばくばく 食べました。

    ライオンさんも ☆夜の蝶さん達☆で 賑わっている と 聴いた事がありますからちょっと覗いてみたいですね~ (^-^ゞ

    1. 弥八のお店は、カウンターがデーンとしていて、落ち着いたいい感じのお店ですよ!

  3. 味噌カツは食べる事もありますが、味噌ステーキはあまり馴染みがないです。でも、ヤバい‼ 写真のように、たっぷりと掛かったお味噌に、プッハァどころかご飯も進んでしまう(¯―¯٥)

    1. こいつが病みつきになっちゃうんですよねぇ。
      赤味噌とお肉の脂身の相性が、この世の物とは思えぬほど、ベストマッチですもんねぇ。

  4. 味噌好きには、たまりませんねぇ!
    味噌テキは食べた事がありません!
    4~5年位前まで、年二回名駅の「宝くじ売り場」へ行くのが恒例になっていました。
    買った後「ゲン担ぎ」で味噌カツを食べて帰る!でしたが・・・
    買わなきゃ⤴当たらない!買っても⤵当たらない⤵
    どうしたもんかぁ?
    味噌カツがダメなのかも知れない?ので
    今年は10万円貰える事だし、奮発して
    うなぎでも食べて金運も「うなぎ昇り」なんちゃってぇ!

    1. ゲン担ぎってやっぱり大事ですよねぇ。
      玄関を出る時、右足から出るか左足から出るかとか!

  5. 味噌ステーキ、初めて知りました。何ともステーキ!味噌の配合がミソ?

    1. ぜひぜひ、ご自宅でチャレンジして見てくだされ!
      味噌トンテキですよ!

  6. 写真を見てびっくり!
    私が知ってる味噌ステーキとは全然違〜う。どんな味なんだろう? どんな配合なんだろう?(笑)
    家では 豚ロースや鶏もも肉を使って味噌ステーキを作ったりしますが 写真のようには…( ◠‿◠ )
    食べたい 食べたい 食べてみた〜い
    いつか いつか 行くぞ〜!

    1. とにかくキリン一番搾りにドンピシャですから、ぜひその機会には、一緒にプッハァもお忘れなく!

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