「天職一芸~あの日のPoem 119」

今日の「天職人」は、岐阜県岐阜市の「湯葉職人」。(平成十六年十二月四日毎日新聞掲載)

母の忌明(きあ)けの法要は 在りし日母の面影巡り    喜怒哀楽の日捲(ひめく)りか               精進落とし花の膳 在りし日母の煮しめの味が      ほっこり浮かぶ結び湯葉

岐阜市本町で慶応三(1867)年に創業された、湯葉勇(ゆばゆう)五代目の山田正雄さんを訪ねた。

「湯葉の原料は大豆と、清らかな長良の清流だけやて」と、正雄さん。

引き戸の奥には、歴史を感じさせる藍染の暖簾と、細長い湯葉釜からほんのりと湯気が立ち上る。

仏教伝来と共に伝えられたとされる湯葉。「ここは城下町やで、寺社が多いこともあって、精進料理に湯葉は欠かせんかったんやて」。

二男坊ながら、高校卒業の頃には跡継ぎを決心し、大学へと進んだ。「少しは世間を学んで来い」。先代は世間の厳しさに身を晒すよう導いた。

二十五歳で店に戻り、口数の少ない先代について修業を開始。勘が頼りの湯葉職人ゆえ、勘所を言葉で教える術など無い。自ら勘所を会得する毎日が続いた。「あんまり長時間湯葉を放っとくと、下の豆乳が煮えすぎて張り切れ(強度を損なう)になる」。

一晩かけ伏流水に浸け込んだ大豆を、午前三時半に起き出し、水を絡ませながら薄目のヨーグルト状になるまで臼で挽く。そこに水溶きした粉末のウコンを加え、圧力釜で煮あげる。次に大きな木綿の絞り袋に落として、豆乳を絞り出す。 続いて豆乳を湯葉釜に流し込み下から加熱。五分ほどで釜の表面に膜が張り、湯葉串で引き上げて干す。半生程度に乾燥させたら、裁断して結び湯葉としたり、巻湯葉に仕立て上げ、再びカリカリになるまで乾燥。生湯葉ならば、釜から引き上げたままとなる。

ウコンで黄味を帯びた、中部地方独特の湯葉の誕生だ。「湯葉は大豆とウコンと水だけ。何にも足さず、大豆の持つ天然の甘味と旨味を、しっかりと引き出すだけやて」。

大豆への拘りも半端ではない。「岐阜の大豆だけでは、張りと色合い、それに旨味に欠けるんやて」。 年末から二月初旬にかけて、各地の国産大豆が出揃うと、一ヶ月かけて試作を繰り返す。その年の岐阜県産と組み合わせるに相応しい大豆を、納得行くまで吟味するために。

「この店の湯葉じゃないと納得せんと言う、そんなお客さんを裏切れんだけやて」。

何も足さず、何も引かないから、誤魔化しようなどない。あまりに潔い、天晴れ湯葉職人。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 119」」への11件のフィードバック

  1. おはようございます。
    湯葉職人さんのお話ですね。
    湯葉は、手作りですね。湯葉は、煮過ぎると駄目なのですね。適度にやらないと駄目ですね。手間がかかりますね。
    勘で覚えないと駄目なのですね。
    私は、湯葉料理を、食べた覚えが有りません。
    (写真の湯葉)美味しそうですね。

  2. 湯葉、大好き!
    以前は近くのスーパーで良く買いましたが、そう言えば最近、いつものスーパーでは見かけなくなったなぁ。

    1. 湯葉、ぼくも大好きです!
      おろしたての山葵とお醤油にお気に入りの冷酒で一杯!
      これからの季節、たまりませんねぇ!

  3. 以前、バスツアーで京都へ行った時
    昼食に「湯葉御前」が出ました、豆乳から湯葉を自分で作るんです。
    中々上手く作れませんでした。
    出来立てを、最初は何も付けずに、湯葉本来の味・・続いて醤油を付けて・・
    大豆のほのかに甘くとても美味しかった!
    お土産に買って帰りましたが、家で食べると。どこか?違う・・⤵
    大豆繋がりで・・
    岐阜の夏の風物詩「からし豆腐」大好き⤴
    白くて丸く見た目は優男
    しかし、中はカラシでピリッと!
    まるで酸いも甘いも噛分ける⤴
    そう~!
    私のようだぁ!

  4. そういえば湯葉料理の店が昔、JR中央線・古虎渓駅から山に入っていった滝のところにあったのを思い出しました。「桂川」というお店で、名古屋方面からのお客をマイクロバスで迎えに来ていたのを覚えています。近かったけど、行ったコトなかったな~。今はもうありません。

    1. 滝の麓の湯葉料理なんて、これまた風情満点ですねぇ!
      この風情が、一層湯葉の美味さと酒の妙味を味合わせてくれる、天然の演出なんでしょうねぇ。
      行ってみたかったなぁ。

  5. 湯葉勇さんは、朝のウォーキングの時にたまに通ります。今朝も6時前には、お店の明かりが点いていました。
    お写真の暖簾も見えました。
    それから伊奈波さんへ詣でて30分後に通った時は、すでに何人かの方々が働いてみえました。
    もちろん、湯葉は大好きです!
    でも私が買ってくるのは、形が不揃いのお徳用です。普段はこれで十分ですが、たまには、お店の精進料理が食べたいよーっ。\(^-^)/

    1. そうですとも!
      自分で食べるのだったら、どんな不揃いの湯葉でも、湯葉に変わりはありませんし、お腹に入ったらどんな一流料亭で食べようが、不揃いのはびたの湯葉でも、湯葉はやっぱりゆばですものね!

  6. 「何も足さない 何も引かない ごまかしも…」
    自信!ということではなく 誇りであったり 誰かを想っての事だったり 製品に対しての愛情だったり…するのかなぁ〜って感じました。
    湯葉=ザ・大人!
    なかなか食べる機会がないけど お刺身風にしたり春巻き風にして食べた事はあります。
    せっかくだから 雰囲気や同席する人も含めて お料理をゆったり味わってみたいですね( ◠‿◠ )

    1. しかし!今は新型コロナの影響で、食事も横並びで!なんて言われたら、ちょっと雰囲気もなにもあったもんじゃないですよね。
      早く新型コロナに打ち勝つ打開策を見出して、向かい合わせで談笑しながらお料理を愛でたいものですね。

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