「天職一芸~あの日のPoem 117」

今日の「天職人」は、三重県長島町の「金魚職人」。(平成十六年十一月二十日毎日新聞掲載)

ビードロ鉢の小さな世界 小春日和の縁側で        赤い金魚もユラユラと 水を枕に浮寝かな         何することも無い日曜日 時折りそよぐ紅葉(くれないば)  眺めて君の酌を受け ついうたた寝の膝枕

三重県長島町の金魚職人、阿部稔さんを訪ねた。

写真は参考

「金魚は水が空気やで。水を青して(青くして)酸素と餌を豊富にするのが秘訣やさ」。稔さんは、何とも親しみ溢れる顔で笑った。

稔さんは一町八反二畝(せ)(約一.八ha)を有す専業農家の三代目。

稲作に従事し昭和三十四(1959)年、愛知県弥富町から妻を迎え三人の子をもうけた。

しかし昭和四十五(1970)年から始まった減反政策で、稔さんは四反七畝(約0.四七ha)を減反し、金魚養殖へと転じた。

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「家(うち)のおっかあの在所が、金魚の仲買と養殖やっとったもんやで」。 田んぼに畦を盛り、コンクリートの柵板で一反を四分の一に分割し、金魚池を造成。

春先、窒素系の肥料を入れ水を張る。「ツムシ(ミジンコ)が湧いてきて、水が青なるんやて」。 最初の年は、鮒のような薄墨色をした、和金の小赤(こあか)で稚子(みずこ)と呼ばれる稚魚を放流。

一池四万匹以上の稚子が、一年後の出荷時には、二万五千~三万匹程度に共食い等で減少する。

やがて夏の訪れと共に、薄墨色の稚子は、その身を紅く染め上げる。 「でも台風はあかん。水路から溢れ出た水が、池に入ってくると、魚の習性で水に向かって飛び出してってまうんやで」。 またゴイやシラサギといった野鳥の被害も深刻だ。「夏場の明け方、池が酸欠状態になって金魚が水面に浮いてくるんやて。ゴイは夜目が利くんかして、それを啄(つい)ばんでくんやで」。

今では池の上にテグスを張りめぐらす念の入れよう。

年が改まると、小赤も二歳と呼ばれ、春先に全国各地へ向け観賞用に出荷される。

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今では種金魚も飼育。「産卵期になると、鰓(えら)の所がオスはデコデコんなって、メスはツルッとしてくるんやて」。四月初旬頃から、カツラと呼ばれる藻に産卵させ、水槽で十日前後かけ稚子を孵化させる。

「それまでに、池の水にツムシを湧かせ青しるんやて」。逆に湧きすぎても、酸素不足に陥る。

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「今まで何百万匹と育てたけど、今でも生きとんのやろかなぁ」。老金魚職人は、柄杓(ひしゃく)に餌を汲み取り、青い池に撒いた。水面に小さな気泡が広がる。深紅の和金が我先にと浮かび出で、水面を紅に染め上げた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 117」」への15件のフィードバック

  1. 小さい頃、お祭り、夜店で金魚すくいをしてましたが一回もまともにすくえた事なかったですネ。おじちゃんに小さい赤い金魚を2匹もらい喜んでましたよ。
    1ヶ月くらい水槽に居たかな❓️いつも花壇の隅っこに小さな山が2つできました。

    1. 金魚やヒヨコの墓を花壇に土饅頭作って、弔ったものでしたねぇ!
      アイスキャンディーの木べらに名前をマジックで書いて!

  2. 金魚を生産?されている方の話、初めて聞きました。以前、子供が金魚すくいで三匹取ってきたものを家で飼いました。ひれのひらひらした動きの鈍いのはエサが取りにくかったのか短命でしたが、フツーのフナ型のものは七~八年くらい生きていました。水を時々換えて、水槽を掃除して、エアーポンプのフィルター掃除などは定期的に行っていましたね。最後の「今頃どうしとるんやろなあ~」とのお言葉を読んで、多少そのお気持ちにこたえられたかな~?と思いマシタ! 尚、当時ボクが金魚の師匠として仰いでいたのが鬼岩ドライブインのラーメン店の店主。お店の水槽に貝殻を入れるなどの工夫をされていて、勉強になりました。久しぶりに行ってみるか!

    1. ぼくの知ってる方のお家の玄関先にあった水槽には、夜店の駄金が10年ほど成長していて、鯉くらいの大きさにビックリしたほどでした!
      でも7~8年、よくぞ頑張られましたなぁ!

  3. おはようございます。
    金魚職人のお話ですね。
    ・金魚職人さんのお仕事は、金魚を、仲介と養殖するのですね。
    金魚と聞いてイメージしたのは弥富です。
    金魚は、色々な仲間(出目金魚等)が、いますね。
    ・縁日か忘れたのですが、子供の頃金魚すくいを、やった事有ります。
    上手に金魚をすくえませんでした。
    ・TVで、金魚すくいが上手な方は、すごいと思います。 私は、金魚すくいが苦手だからです。
    ・写真の金魚可愛いですね。色々な色が、あって良いですね。(個性が、あって良いですね。)

  4. 子供の頃、縁日で手に入れた金魚を家に持ち帰り、はて、金魚鉢が無い⤵️そこで、もう使ってなかった餅つきに使う石臼で飼うと言ったら母はビックリ仰天!でも、最後にはしぶしぶ臼で買う事を許してくれました。その後、金魚がいなくなっても、勿論その臼ではお餅をついたりはしなかったですよ(笑)

    1. 石臼の金魚鉢なんて、なんてお洒落な!
      結構イケテルこどもだったんですなぁ!

  5. 金魚のまつわる話は皆さんと同じように
    祭りの屋台の金魚すくいで手に入れ
    あたしの家は大方10年程生きたいましたが水槽が小さい為か
    飼い主に似て謙虚で大きくなる事は有りませんでした。
    毎日エサをやっているもんだから、わたしが水槽の近くを通ると
    金魚が寄って来て可愛かったです。
    金魚がペットになるか?どうか?は分かりませんが
    ある日突然可愛がっているペット(金魚)が水面に浮いていた時は、悲しかった・・・
    おぉ~~っと、湿っぽい話になってしまった。
    金魚がスイスイ水の中を行くだけに
    皆さん、湿っぽい話は水に流してぇ!
    なんてねぇ⤴

    1. あらら、柄にもなく、切ないお話ですなぁ・・・。
      どんな生き物でも、一緒にいるってぇのは、それこそが多少の縁そのものでしょうね!

  6. 金魚っちさんと よく似ていますが、我が家には10年前位、孫が夏祭りで金魚をすくってきたので飼い始めました。
    昨年迄、5匹いたけどお隣さんに2匹あげたんですがすぐ死んでしまい 残念でした。家の金魚も1匹死んで今は2匹元気でいます。4㎝位だった金魚は、ぃまでは25㎝位です。尻びれがヒラヒラで可愛いです。

    1. 愛情たっぷり大切に育てると、人間も動物も植物だって、大きく大きく育つもんですよね!
      育ちすぎるとダイエットがぁ・・・。

  7. 金魚…うちの息子たちは見た事があっただろうか?
    お祭りの時は 目指すは食べ物を売ってる屋台だから(笑)
    私も小さい頃 金魚すくいをしました。
    家で餌をあげる時 食べてくれるのが嬉しくて ついついたくさんあげてたんですよね。庭で手を合わせた記憶も(泣)
    ブログの写真を見ただけで涼しさを感じましたよ( ◠‿◠ )

  8. 6月1日の夜8時頃、全国一斉にコロナウイルスの終息を願って花火が打ち上げられるとのことで、少し前に娘と家の裏の田んぼ道をカエルの大合唱を聴きながら歩いていきました!
    どこで打ち上がるか場所はシークレットだったので、「見えるかな?」と不安でしたが、花火が打ち上げられ数分でしたが見えました
    (*^^*)
    遠くに小さく見えただけですが感激しました★★
    東京の上空をブルーインパルスが飛行したり、今回の花火が打ち上げられたりしたことなど大変心温まりました♪
    日々コロナ対策に従事されてくださっている方々に心より感謝いたします!
    今日、我が家にアベノマスクが届きました。嬉しかったです!
    (^-^)
    子供が小さい頃、夏祭りで釣ってきた金魚は、家の水槽の中で大きくなり13年ほどいました。
    ですが、背びれに腫瘍ができ死んでしまいました・・・。
    その時のことをオカダさんの以前の深夜放送で読んでもらいました!
    今は、丈夫で育てやすい小型魚のアカヒレを飼っています
    (^o^)/

    1. 以前いただいたメッセージ、ぼくも覚えております!
      でも13年とは、長生きしてくれましたね!
      愛情たっぷりに育った証でしょうね!

      ぼくは残念ながら、花火を見られませんでした!

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