「天職一芸~あの日のPoem 105」

今日の「天職人」は、岐阜市河渡の「靴職人」。

キュッキュと音を立てながら 君が初めて歩み出す      背中に餅を負いながら 得意満面有頂天           ホラホラ言わぬことは無い 調子に乗ってもつれ足     尻餅搗いて泣き出した 忘れぬ君の歩き初め

岐阜市河渡の靴職人、大澤安則さんを訪ねた。

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「足全体、足首で履く、先の広い靴が、日本人には合うんです」。安則さんは、何とも人懐こそうな眼で笑った。

安則さんは、昼間電話工事に明け暮れて、夜間の短大へと通った。「器用貧乏なんです」。その言葉通り、幾つもの職を渡り歩いた。車の木型作りからディスプレー職人、居酒屋の板前とホールの接客から、土木の施工監理技師、おまけに美容師を経て、やがて靴職人へと続く岐路の連続。

「癖毛専門の美容師やってた時に、身体のバランスに関心を持ち、一番肝心な足へと。調べてみると、外反母趾に悩む女性が多くって」。

二十九歳の年、美容師や土木の技師を片手間に、靴作りを学んだ。とは言え、もともと手先が器用なことでは天下一品。三~四ヶ月も通う頃には、インターネットでブーツの注文を受けるまでに。

靴職人として自らの技量を問うた。 「大阪から注文があって直ぐに飛んで行きました。相手は、えらいおデブさんの女性と、ふくらはぎの周りが四十㎝もあるオカマさん。そりゃあ見よう見真似ですから、最初は苦情だらけ。でも履き心地を気に入ってくれる方も増えて」。

翌年自宅に、靴の手作り教室を開講。今年七月(平成十六年八月十四日時点)には、現在の工房とショップを開いた。

靴作りは、まずデザイン画を描くことに始まり、型紙をおこして革を裁断。手縫いとミシン縫いで縫製。靴の木型に合わせて形を作る、釣り込みを経て、糊と手縫いで底付け。汚れを落として、ワックス掛けで仕上げる。一足の完成までに丸二日。

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「左右の足の大きさが異なる、整形靴も手掛けました。これ一筋と言うのではなく、どんな注文にも応えられる、そんな応用の利く職人になりたい」。安則さんは、傍らに積み上げられた夥(おびただ)しい量の木型を見つめた。「小手先のデザインではなく、靴をまとった足全体が、力学的にも無理の無いような、美しい自然な流れを描く靴が作りたい」。

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靴は地球と人を結ぶ接点。どんなに偉い人でも、わずか一平方メートルたらずの面積を、たった数十年地球からお借りするだけ。だが欲に目が眩み、大きな靴など履けぬのに、地球を独り占めしよう等と思い上がる輩も時として現れる。

明日(平成十六年八月十四日掲載)は五十九回目の終戦。敗戦に泣いた国、歓喜に酔った国。昭和の悲惨なあの日の証人は、確実に遠退いてゆく。しょせん大きな靴など履けもせぬのに、まるで地球を独り占めしたような錯覚に酔い、平和なこの世を踏み躙る愚かな輩よ、二度と現れ出でるな。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 105」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    靴職人のお話ですね。
    ・靴作りは、デザインから完成までひとつひとつ手作りですね。大変な作業ですね。
    ・オーダーメイドの靴は、手間がかかるので、値段が高いの事は、納得しました。
    ・私は、オーダーメイドの靴は、買った事は有りません。既製の靴で、合うので 値段が安く済むので有難いです。
    ・私は、オーダーメイドの靴ではないのですが、介護用品の靴 片方だけの靴を、見た事有ります。値段が高いです。

  2. だぁれぇ⤴️
    スランプなんぞとおほざきになってるお方は・・・ぷっ!

    若い頃はそんな事は無かったのですが、今や外反母趾の私、靴選びは慎重です。
     

    1. 仕方がないですよねぇ。
      人間やって早60年も経つと、あっちもこっちも・・・!
      経年変化は否めませんもの!

  3. 岐阜市の河渡は私の父の実家がありますが、こんな素敵な職人さんがいるとは思ってもいませんでした。
    靴も手作りで作るのは大変でしょうね。

    1. その人その人の足の形に合わせるそうですから、これまた左右非対称で大変そうでした。

  4. そもそも身体って左右対象ではないでしょうから 多少の違いや歪みはありますよね。癖もあるから ほかっておくと余計に痛めたりして…。
    短大生の頃 社交ダンスをしてたので その頃から普段でもハイヒールしか履かなくなって。でも二人の息子達を追い掛ける為には運動靴が一番!の生活に。
    今でも全力疾走する事も(大笑)
    だから 時々ハイヒールを履くとすぐ足が痛くなっちゃうんです。
    今度 走っても大丈夫なハイヒールを作ってもらおうかな⁈ (笑)

  5. オーダーメイドの靴なんて 憧れますね~ ☆☆☆
    私は足の甲が低く横巾も無いので「 日本のブランドでは 合う靴は少ないかもね!」 と 若い頃からよく言われいたので、靴選びは 慎重になります。
    若い頃は ファッションに合わせて色々買いましたが 足にぴったり! なんて殆どなかったです !Σ(×_×;)!
    足が痛くなって せっかくの デートも だ・い・な・し ! と 苦い想い出が

    ブーツなんて ブッカブカ〰️ 歩けない (/。\)

    最近は 中敷きで 調節して貰えるショップに巡り会え あ・り・が・た・ や ~ (。^。^。) です
    スニーカーにも使えるるんですよ ‼️‼️

    何かの記念に オーダーメイドの靴 作ってみたいですね |^▽^)ノ

    1. ぼくもオーダーメイドの靴どころか、スーツも一度も袖を通したことがありません!
      完成形の靴や吊るしのジャケットじゃないと、生地選びやそもそもデザイン力や色彩感覚が頭の中にないため、もしもオーダーしてもとっても残念なものになってしまいそうですもの(笑)

  6. 私はハートさんとは反対で幅広、甲高で足がでかいです。一番最初に買ったヒールは短大の入学式はく為のものでしたね。岐阜の高島屋の靴屋さんで買いましたよ。丈夫で長持ち手入れをして10年近くはきましたよ

    1. ぼくの大親友の、ニュージーランドのカカポプロジェクトチームのアランが、茶色の革靴を大切に大切に履いていたのを想いだしました。

  7. だってぇ!
    まだまだ「おケツ」が青いから・・スランプもあるんですぅ~~⤴
    でも!もう大丈夫!
    あたしにスランプなんてあるはずがなかった⤴ワッハァハァ(汗)
    あたしも、皆さんが言われるように
    オーダーメイドの靴には憧れる!
    やはり、それなりの値段の靴は仕立ても綺麗だし、
    履いていても疲れない!
    あたしの若い頃はアイビーの時代、靴はリーガルのスリッポン定番でした。
    でもねぇ!革が硬くてて硬くて!
    よく、靴ずれしたもんです。
    ズラがずれたんじゃないですぅだぁ!
    足のかかとの皮がずれたんですぅ!

    1. ええっ!さすがブルジョアな落ち武者殿ですなぁ!
      ぼくなんてリーガルなんて買ってももらえず、まるでコピーのハルタのスリッポンでした(ちぇ!)

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