「天職一芸~あの日のPoem 100」

今日の「天職人」は、愛知県岡崎市の「矢師(やし)」。

出逢いを恨む仲ならば こんなに辛いはずは無い       叶わぬ想い身も焦がす 弓に番(つが)えて君を射る     どうして二人出逢ったの 苦しいだけのこれも愛       願えばいつか叶うはず 弓を番えて君を射る

愛知県岡崎市に、五代目矢師の小山金一さんを訪ねた。

写真は七代目泰平氏(小山矢公式HPより)

「親父の仕事振り、いっつも見とったらぁ。だもんで簡単だと見下しとっただぁ。そしたら僕の矢だけが、全部返品されて来るらぁ。そりゃもう不良品の山ばっかじゃんねぇ」。金一さんは、矢竹(やだけ)を撓(しな)らせ、にこやかに笑った。

元々先代までは、愛知県豊橋市に居を構えていたが、空襲で焼け出され岡崎へと移り住んだ。金一さんは中学を上ると、時計製造会社に就職。十年間のサラリーマン生活で、職場の華であった清子さんを手に入れ退社。

父の下で矢師を目指した。だが冒頭の如き不良品の山。「だもんで、給料もなけりゃあ、休みも全然貰えんらぁ」。 矢竹は、寒の頃に切り出される三年古(こ)と呼ばれる中から、太さと節の位置が近い物を選り分ける。

矢竹の長さは、射手(いて)の身長の半分に、指四本分を足す位が最適。一本の矢は、矢尻に続き「居付(いつ)け」「箆中(のなか)」「袖摺(そでず)り」「羽中(はなか)」と、四つの節が入り、弓を番(つが)える「筈(はず)」へと続く。

(小山矢公式HPより)

丸一年、寒晒しに耐えた竹を切り揃え、重さも一本七匁(もんめ/約二六g)に揃える。「弓は撓(しな)りが命だもんで」。次に矢竹の太さを、四千本・千組に選り分ける。一手が二本。二手分四本の矢で一組となる。そして竹の脂を炙(あぶ)り出し、節の曲りを起こし、袖摺り節から矢尻に向け、真っ直ぐになるように削って、川砂で粗磨き。

写真は七代目泰平氏(小山矢公式HPより)

「次は中火にかけて、焦げ目を付けながら真っ直ぐ伸ばすだぁ。そうすると竹が締まって強くなるもんで」。本磨き、本火入れ、艶出し、防水性を高めるために漆を摺り込む。

「そうして四本一組にして切り揃え、四ッ矢で仕上げるだぁ」。弓に番えるための、水牛の角で作られた筈を入れ羽付(はねづけ)へ。一枚の羽を二つに割いて、羽軸(はねじく)の中の髄(ずい)を取り除き、三枚の「矧(はぐ/矢に付けられた鳥の羽)」を膠(にかわ)で矢竹に貼り付け、フクマキと呼ぶ絹糸で巻きつけ固定する。

(小山矢公式HPより)

最後に矢が真っ直ぐ的を射抜くよう、矢師は祈りを込めて矢尻を板付(いたづ)ける。 「三ヶ月で出来た試しがないだぁ。早くて半年、下手すりゃあ一年らぁ」。千組の内、満足の行く矢は二十組足らずとか。

家康公が元康を名乗っていた時代から、三河の地では農工商に至るまで、戦時に備え弓が奨励されたとか。その伝統が今に息衝く。

膨大な時間と手間とを引替えに、矢師が鍛えた一本の矢。射手の心を載せ、一途に的を射ぬかんと飛べ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 100」」への12件のフィードバック

  1. ウチの近くだと、土岐市妻木町の八幡神社で行われる流鏑馬で使用されるのはこの方が制作された矢なのかも知れないと思いながら興味深く読みました。時代劇の撮影にも使用されたりするのかなあ?

    1. 今は息子さんの代になったようで、競技用のカーボン製とかの矢もあるようです。
      でも昔は、それこそあちらこちらに矢師はいたはずです。
      岐阜市の金華山の麓にも、矢を入れる「靭」の靭屋(うつぼや)町なんてぇのが、今でもありますから、戦国の世はたくさん存在していたのでしょうね。

      1. 先日、亡くなった大林監督を偲んで「時をかける少女」を久しぶりに見ました。主人公の芳山和子{原田知世}の高校のクラブは弓道部でした!加山雄三のお父さんや入江たか子さんなど往年の名優が出演されていて、良かったです。

        1. 弓は近代兵器とは異なり、同じように命を奪う道具ではあっても、感慨深さが異なるように感じられてなりません。

  2. おはようございます。
    矢師のお話ですね。 矢師さんが、見えた事知りませんでした。 ブログを、見て勉強になりました。
    矢は、一つ一つ手作りなのですね。
    手間が、かかりますね。
    (写真の矢の羽)色々な色が有りますね。綺麗ですね。
    矢は、弓道で、つかいますね。

  3. ドラマやアニメならありますが、弓道を実際にやっている所を、今までに見たことは無いかも。『ツルネ』って言うアニメは好きで見ていましたよ。

    1. ぼくは弓道場に取材で行ったことがありましたが、独特な空気感が漂っていたのを覚えています。

  4. 弓道はやった事がありませんが
    若い頃、友人に誘われて「アーチェリー」をやった事があります。
    結構⤴面白かったです。
    最初はゴルフの打ちっぱなしみたいなところで練習して慣れた頃に
    山の中に入って行って「ゴルフコース」みたいに、
    それぞれコースになって「的」にそれぞれ点数が有るので、外しら0点
    ってな具合に「的」を射って行くんです。
    危ないので係の方が一緒に回ります。
    だれぇ~~⤵○○に刃物ならぬ!凶器を持たせるなぁ~!
    って言ってる人は・・
    多分?オカダさんだわなぁ~!

    1. いやいや、落ち武者殿はやっぱりただの足軽ではなく、弓も射られていたとは・・・!

  5. 一本の矢を作るのに こんなに手間暇がかかってるとは。
    いろんな事に関わったりする時は 事前にその成り立ちみたいな事を頭に入れておくと それだけで取り組み方が違ってきますよね⁈
    弓道って あの静けさや凛として張り詰めた空気感が好きです。
    的に命中すると気持ちいいんでしょうね。

    1. なかなかあの弓をキリキリキリッと引き絞るのが、素敵すぎますものね!

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