「天職一芸~あの日のPoem 82」

今日の「天職人」は、岐阜県上之保村の「村の駐在さん」。

社に続く石畳 色取り取りに夜店が並ぶ          金魚掬いに水風船 キラキラ光るリンゴ飴         母からはぐれ泣き出すと 誰かの肩に抱き上げられた    母さんいるかそう問うて 駐在さんが微笑んだ

岐阜県上之保村の駐在所へ、巡査部長(平成十六年二月七日時点)の水谷保住(ほずみ)さんを訪ねた。

写真は参考

「中二の頃やったわ。テレビドラマの『刑事くん』に憧れたんやて」。保住さんは、窓から茜色に染まった山並みを眺めた。

保住さんは、同県白鳥町生まれ。地元の中学を上がると、片道二時間も離れた高校へと進学。柔道で汗を流しながら、見事皆勤賞で卒業し、警察学校へと進んだ。

そして翌年春、夢にまで見た憧れの真新しい制服に袖を通し、中津川警察署管内の派出所に着任。巡回連絡の傍ら、事件・事故現場へと駆け付ける日々を送った。

昭和59(1984)年。二十七歳になった保住さんは、関警察署の刑事課捜査一係に配属され、強行犯・盗犯事件の捜査を担当。テレビに釘付けとなった「刑事くん」から、十三年目の晴れ姿だった。

それから程なく殺人事件が発生。「ちょうど内勤の宿直日やったんや。すると民家の敷地に不審者がおると110番通報が入ったんやて。でも当時はまんだ今みたいに、物騒な時代やなかったし、内勤やったで拳銃も携帯しとらなんだ。同僚と二人で警棒と警杖(けいじょう)を持って現場へ急行したんや。現場に駆け付けて見ると、体中全身血塗れの男が、目の前で包丁構えとった。エイッとばかりに警杖でタマ(被疑者)を取り押さえ、その場で緊急逮捕やて」。

保住さんは翌月、関市の農協に勤めるゆきえさんと結ばれた。金融機関への警邏中(けいらちゅう)、こっそりゆきえさんを見初めたのだとか。そして翌年には長女が誕生。「とにかく不規則な仕事やで、娘の寝顔しか見たことないもんで、非番の日に娘を抱いても、目付きも悪いで直ぐに泣かれるし・・・」。

平成10(1998)年春、上之保村の駐在所に着任。以来、毎年の家族旅行も見合わせた。「警察の仕事は、いつあるか予定が立たんで心配なんや。この村のことが!だって駐在は二十四時間、コンビニみたいなサービス業やで」。警官という職務を、己が天職と奉るかつての柔男(やわらおとこ)が大きく笑った。「わしな、草刈りが趣味なんや。ほんだで非番の日は、一人暮らしのお年寄りの家で、防犯も兼ねて草刈ったり雪掻きしてやったりしとんや」。

刑事時代は同級生からも、目付きが鋭いと指摘される始末。しかし今では、村人から気さくに「駐在さん」と呼ばれるのが、何よりの誉れだとか。「警邏から戻って来ると、ようけこんなん置いといてあるんやて」。新聞紙に包まれた採れたて野菜に照れ笑い。

その眼光の先には、かつての鋭さが消え、日々村の安寧を願う、「駐在さん」の優しさが滲み出ていた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 82」」への17件のフィードバック

  1. おはようございます。
    村の駐在さんのお話ですね。
    水谷さん 町の住人さんから野菜を、貰って良かったですね。 TVドラマ(刑事くん)を、見て警察官に憧れたのですね。
    警察学校に通って警察官になったのですね。自分でなりたい職業になったのですね。すごいですね。
    ・駐在さんは、TVドラマ(サスペンス系)で、見た事は有ります。
    ・村(町)に駐在さんが、居たら助かりますね。 道が分からない時等確認出来たり出来るからです。
    ・私は、実際に駐在さんを、見た事が有りません。
    ・家から交番までは、歩いて30分くらいで行けます。
    交番は、落とし物を、届ける事は、有りませんが、道が分からない時に、お巡りさんに聞いた事が有るかも知れません。

  2. 小学生の頃「口の中に目が無いからハーモニカは吹けない‼」と言っていた、2才年上の幼馴染みの男の子が、高校、大学と音楽に没頭して、就職先も決まらず大学を卒業しました。その後、誰に進められたのか、警察学校の試験を受けて晴れて警察官に。でもその人、子供の頃は、打ち上げ花火を見る時には、自分の両手で自分の両耳を押さえて見るような子供だったんですよ(¯―¯٥)

    1. 人は変われば変わるものなんでしょうね!
      でもご立派な警察官になられて、何より何より!

  3. リーさん、刑事さん、浮かぶのは、藤田まことさん、人情味あふれるドラマ、さすらい刑事、好きでしたね~。
    お巡りさんが忙しくない世の中に、なってもらいたいですね。

    1. ぼくのお友達の香港のリーさんは、ぼくによく「モンドさんが、モンドさんが」って話をされていました。
      何でもリーさんの従兄弟のシーさんが、神戸の中華街で広東料理のお店を営んでおられ、そこにお客さんとしてよく来られていたと。
      その「モンドさん」がシーさんと一緒に、香港に遊びに来られた時に、リーさんもお逢いしたそうで、「日本で有名なモンドさん」って言うので、いったい誰の事やらと思ってよくよく聞いてみると、「ヒッサツのモンドさんよ」って言われたことがありました。
      確かに、中村主水さんでしたね。

  4. 警察官、駐在さん 日頃からよく見廻りをしてくださってますよ。
    有り難いなぁ〜と思っています。
    1年に1回 各家庭を回り 家族状況などの聞き取りもして下さいます。
    命懸けのお仕事とは言え とにかく命だけは 守り抜いて欲しい…

    1. 本当に駐在さんやお巡りさんには、頭が下がり、ただただ感謝ばかりです!

  5. 刑事くんって桜木健一さん主演のドラマシリーズでしたね。
    私の中で刑事ドラマと言えば水谷豊さんの相棒シリーズが一番しっくりと来ます。
    住民のために働いてくれるお巡りさんは本当に有り難いですよね。

    1. さすがにぼくはオッサンですから、「刑事くん」は知りませんでしたが、「相棒」は今も欠かさず見ちゃってますねぇ。

  6. 刑事くん!
    TV観てました、確か?桜木健一さんでしたか?
    桜木さんと言えば「柔道一直線」毎週ハラハラドキドキしながら観てました。
    吉沢京子さん可愛かったなぁ~⤴
    そして極め付けが、ピアノの鍵盤の上に乗り足の指でバレー(つま先で踊る奴ねぇ!)
    でもやっているか如くピアノを弾く、
    子供心に「そんなアホなぁ~」と思ったもんでした。
    忘れもしない、近藤正臣さん!でした。
    先日、駐在所のお巡りさんが見回りに来ました。
    くれぐれも、オカダさんワルさをした訳でもありませんよ!
    捕まる様な「ドジは踏みません!」
    車の中にマスクの箱を入れて置いたら、
    最近この辺でマスク泥棒の車上荒らしが
    2~3事件が有ったので注意を呼び掛けています。との事でした。
    皆さんも気を付けて下さい。
    私も腹黒ワルですが、人様の物盗んだりは致しません。
    その辺、皆さん誤解の無いように!

    1. ええっ、「刑事くん」って、落ち武者殿がご存じな時代にやっていたのですかぁ!
      じゃあぼくは、違うチャンネルを見ていたのでしょうかねぇ。
      柔道一直線はちゃんと見ていましたが!

  7. 「母ちゃん、俺、刑事になったよ!」のセリフで毎回始まってた「刑事くん」。中身は覚えていません。小生も落ち武者さんと同様に「柔道一直線」の方を記憶しています!桜木健一演じる主人公の一条直也のライバル風祭右京を演じていたのが後に仮面ライダー2号になる佐々木剛だったとは!天職一芸の中身から脱線してスミマセン。

  8. おはようございます。村の駐在さんのお話・・・なんかいいですね~ 我が家のある町にも交番がありまして、今から10年以上前におられた方は立派なお髭をはやされたいかにも「町の駐在さん」タイプの方でしてマメに町内を巡回されておられましたね で その次に赴任された方は前任者とは違って少し小柄なお方でなんでも「元刑事」さんだったです。勿論お二人ともいいお方でしたよ。
    ところで、オカダさんをはじめここに集っておられる皆様お変わりはないでしょうか?因みに我が家は皆元気ですよ!息子は折角保育園に行き始めたのに「登園自粛」と相成ってしまいましたけどね~
    また、元気で再会できるその日まで体調に気をつけて元気でいきましょうね~!

    1. 駐在さんの守備範囲はひろいですからねぇ。なんてったって!
      地域社会の一員になって、その地域の治安を守ってくださるんですものね。
      ぼくも今のところは、コロナに感染することもなく、地味にやっております。
      なんてったってぼくは、「密」や大勢の方とご一緒するのが最も苦手な、ソロ活動がモットーですから(笑)
      皆様もくれぐれもご自愛いただきたいものです。

  9. オカダさん上之保に行かれた事があるんですね!!僕の実家はこの駐在所から5分程の旧上之保中学校すぐ近くなんです、田舎に来られた駐在さん達は皆さんすぐ地元の人に溶け込まれてとても親しみがありました、通学中の子供達に声をかけてくれたり住民も野菜や旅行に行った際の土産など色んな物を差し入れするというほっこりしたお付き合いがありました、かつて凶悪事件を担当してストレスの溜まった心もほっこりとした田舎勤務できっと癒やされていたのでしょうね!!

    1. 凶悪犯罪を担当される刑事さんだって、いつもしかめっ面してるわけじゃないでしょうから、そんなほっこりとした人情に浸れる瞬間が、駐在所勤務で味わえたとしたら、心穏やかだったでしょうね。

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