「天職一芸~あの日のPoem 77」

今日の「天職人」は、三重県志摩町の「真珠養殖人」。

波間に揺れる月明かり 星と漂う沖の漁火         夜空と海の境界が 溶け出すほどに夜は更ける       月の雫を受け止めて アコヤは深い眠りについた      宇宙(そら)の欠片を身に宿す 至宝の光真珠貝

三重県志摩町で昭和29(1954)年から真珠養殖を営む城山勇さんを訪ねた。

写真は参考

「アコヤ貝の貝柱は、生のまんま酢味噌で喰うのが一番やさ」。勇さんは筏の上に組まれた、作業小屋の中から身を乗り出した。臨時のお手伝いさん達の笑い声が、英虞湾を臨む入り江に響く。「ここらあのお手伝いさんらは、日当も大事やけど、一番のお目当ては貝柱のお土産やさ」。

勇さんは志摩町の水産高校(現、県立三重水産高校)を卒業後、半年間の陸軍生活を経て、終戦後郷里に復員。程なく三陸沖の遠洋漁業に従事し、カツオやマグロを追った。

昭和23(1948)年、妻ヤチ子さんと結ばれ三人の娘を授かった。「ここらあは、子どもが生まれるとオコゼを食べさす風習があってな。家も娘が生まれる度に、喰わしたもんやさ」。勇さんの養殖場のあるオコジ浦は、「奥地下」が訛ったとも、オコゼが沢山取れるからとも言われる。

「昭和27(1952)年頃になると、親戚のもんらあは、景気も上向いてきたし外貨も稼げるでゆうて、みな真珠養殖に乗り出しよってなぁ」。勇さんも親戚の家で真珠養殖を学び、二年後に独立開業した。「親父がセッセと貯め込んだ、なけなしの百万円が軍資金。不味いもん喰うて、着るもんも着やんと頑張ったもんやさ」。

真珠養殖はアコヤ貝の母貝に、ドブ貝やシロチョウ貝で作った核を埋め込む。そしてそれを沖に出し、十日に一度の割で引き揚げ、付着した汚物を取り除く。寒さも増した十二月の中旬、待ちに待った水揚げ期を迎える。

しかしあくまで大自然が相手。これまでに伊勢湾台風や、チリ地震の津波で、壊滅的な被害を被ったこともあった。また海水が汚染され、プランクトンが減ったり、貝柱が赤く変色する赤変病(せきへんびょう)が発生することも。「真珠の巻きが悪うなって、色が翳んで真珠が死ぬんやさ」。海中に石灰や改良剤を撒いて対策を講じても、「海は広いでなぁ」と苦笑い。「せやけど楽しいよ。玉が光輝いとると。女房に宝石を買(こ)うたったことは一度も無いけど。でも水揚げして一番出来のいい真珠は、毎年こっそりポケットん中へ仕舞い込んどんやで。まぁええやろ」。

写真は参考

五十四年の歳月を連れ添い、真珠と共に歩んだ老夫婦。ならばいっそあと六年後。酢味噌和えの貝柱を肴に、二度目の真珠婚式を大真珠婚式と洒落込んで欲しいものだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 77」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    真珠養殖職人のお話ですね。
    私は、持っていません。持っていても良いと思います。
    真珠を、作るのは大変なのですね。
    (写真の真珠)綺麗ですね。
    城山さん 54年間も連れ添ったのですね。すごいですね。夫婦間が良いのですね。

  2. ミキモト真珠島に行った事がありますが、目の保養です(T_T)
    それでも結婚をする時には、両親が真珠のネックレスとイヤリングのセットを持たせてくれました。有り難い事に、今でも冠婚葬祭に役に立っています(*^_^*)

  3. 天職一芸〜「あの日のpoem77」
    「真珠養殖人」美しいpoemですね。
    いっそ真珠になりたいと思えてくるくらい神秘的ですね。

    高校の同級生4人とおかげ横丁を歩いていて入った真珠のアクセサリー店で
    「みんなで思い出に残る物をひとつ買わない?」とゆうことになりそれぞれが真珠のついたアクセサリーを購入しました。私はガムランボールのような中に一粒だけ真珠を入れたネックレスに魅せられてしまいました。

    1. 真珠はアコヤ貝が生み出した、天然物の宝石ですものね。
      ダイヤなどの岩石とも、金銀などの鉱物ともことなり、海が産んだ泪の雫のような美しさが、真珠の神秘ですもの。

  4. 真珠って どんな場面にも似合うから不思議です。
    そう言えば 30数年前に会社の慰安旅行で伊勢を訪れた際 真珠を販売しているお店で目の保養だけをした私達女性職員数名… バスに乗り込んだら なんと社長から真珠のブローチをプレゼントしてもらったんです( ◠‿◠ )
    まだ新人だった私は ビックリ!
    先輩に聞くと「いいから いいから」って(笑)
    良い時代でした〜

  5. 真珠の奥深さを改めて感じました。人の手が加わって輝かしい宝飾品になるんですね。

  6. いいな~ぁ~⤴
    女性は、真珠にダイヤとかアクセサリーが付けられて!
    特に真珠は男性が付けているのを見かけた事がありませんが
    そりゃぁ~⤴御ダイジンの人なら男性用にアレンジして付けられるんでしょうが!
    私みたいな者が付けたら
    オカダさん言うやろうなぁ~!
    「ブタに真珠」って!
    チクショォ~~⤴
    アコヤガイは二枚貝だけに
    いつか?真珠の似合う男前の二枚目になってやる!
    チャンチャン♪

  7. ※ 真珠 ※ って 品がありますよね~

    私も結婚が決まった時 母と見に行きました お店の方が 「まだ若いし 首が細いから 大玉じゃない方が 良いわよ 」等々 色々 アドバイスしてくださったので 真珠の大きさより、艶と形で ネックレスを選び その ネックレスに合わせ、 イヤリング、 指輪を お嫁入りの荷物と一緒に持たせて貰いました。
    感謝しています *

    今でも 冠婚葬祭以外に セーターにデニムと合わせ 普段使いもできるのが嬉しいです (#^.^#)
    ☆ 一生物ですね ☆

    1. アコヤ貝が痛い思いをしながら、真珠を抱きしめるように育て上げた貴重な天然物の、海からの贈り物。それが一粒一粒の真珠となるのですものねぇ。

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