「天職一芸~あの日のPoem 76」

今日の「天職人」は、岐阜県美並村の「竿師(さおし)」。

長良の流れ腰に受け 囮(おとり)の鮎に穂先をまかす   胴に伝わる微かな当り 釣り名人と郡上竿         霞垂れ込む川面から 幾重も伸びる釣り人の影       長尺竿を岩場にかざし 我に釣果の誉れあれ

岐阜県美並村の二代目竿師、福手福雄さんを訪ねた。

「ポン、ポン、ポン」。何とも小気味良い音が、竿の継ぎ手から響いた。「この音が郡上竿の命なんやて」。福雄さんは真鍮が巻かれた継ぎ手を差し出した。

写真は参考

釣り好きの初代、俵次(ひょうじ)は昭和の初め、関東の釣り客が携えた組み立て式の竿に目を留めた。そして直ぐに見よう見真似で竿作りを開始。戦争の影が忍び寄る中、今のような真鍮(しんちゅう)は手に入らず、継ぎ手には空き缶を利用した。「わしもわしも言うて、皆空き缶持参やって」。

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福雄さんも父に劣らず大の釣り好き。昭和25(1950)年、中学を上がると父と共に竿作りを始めた。「昔は鮎も値が張って、竿も売れて売れて!」。

禁漁期は竿作りで稼ぎ、解禁を待ち鮎釣りでもう一稼ぎ。十月初めからは竹切、十一月に入ると大きなトタン板の鍋に灰を入れ、竹の油取りに追われた。そして年の瀬を天日干しに費やし、年が改まるといよいよ竿作りの開始。

四間(約七.二メートル)物の五本継は、穂先-穂持ち-三番-二番-元台と組む。「早く出る竹は重い。逆に遅いと軽くなるんや。枝が三つ出た所で切り出すんが一番なんやて。あんまり竹も、みあいて(ひねて)まうと、しなりが悪なる」。半世紀を費やした、竹選びの目は厳しい。

管継ぎが定まると、真鍮版を何度も火で炙って真っ直ぐ伸ばし、二枚重ねで継ぎ手を取り付ける。次に絹糸を何度も竿に巻き付け、漆で留めて柄を描き出す。さらに元台には、藤蔓(ふじつる)が滑り止めに巻き付けられる。「一本の竿に、九百メートルも絹糸を巻いたこともあった。人が来ると、糸が弛んでまうで、店閉め切ってやらなかんて」。

福雄さんが、自慢の柄の入った竿を取り出した。飴色焼けした光沢の中に、幾何学模様のように巻き付けられた一本の絹糸が描く竿師の意匠。しばらくその美術品とも呼べる美しさに魅せられた。

元台に打たれる釣師の誉れとも言うべき「福作」の銘。「ほんでも使ってもらわな、何にもならん。所詮魚釣るための竿やでな」。何の気負いもなく、竿師はつぶやいた。

今ではカーボン製の竿が主流となり、一年に五十本の生産がやっと。「鮎釣りには、竹竿が一番。でも跡継ぐもんもおらんし、わしで終いや」。

店の前を悠然と流れる長良川。誰よりも長良の流れを愛し、釣りを愛した竿師二代。かつて生活を支えた道具は、美術品と見紛う美しさを手に入れ、やがて儚く消え入ろうとしている。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 76」」への11件のフィードバック

  1. 竿持って鮎釣りは夏になるとお父ちゃんの楽しみでした。竹竿の良いのは持てなかったけど釣れても釣れなくても自分の好きな事してたお父ちゃんの顔はいつも笑っていました。

    1. いいなぁ、鮎釣りなんて高尚な釣りで!
      家のお父ちゃんのたまの楽しみは、延べ竿垂れてフナ釣りでしたよ。
      でもお父ちゃんと川辺で食べたおにぎり、美味しかったなぁ!

  2. おはようございます。
    竿師さんのお話ですね。
    ・(写真の郡上竿) 飴色の竿綺麗ですね。
    ・鮎釣りに必要な竿なのですね。手作りだったのですね。 竿を、作るのに手間が、かかっているのですね。専門職ですね。
    ・私は、最近釣りを、していません。
    ・福手さん 後継ぎさんが居ないので大変ですね。誰か後継ぎが、見えれば良いですね。

  3. 何回か釣りに行った事はありますが、針にエサを付ける時、素手ではムリムリムリムリ、無理
    魚が釣れても、針を魚から取る時、魚が生きているから、ビビビビビって動くじゃん、ムリムリムリムリ、無理
    面倒な女なんですよ

    PS.今夜もairハグ、やっちゃいますよぉ。みなさんも、ご一緒に、ギュ〜ッとね(•ө•)♡

    1. なんだ、意外とチキンなんですねぇ。
      でも女性は、餌付けも針をとるのもやっぱり抵抗があるでしょうね。
      じゃあ今夜もAirハグでコロナ対策を怠りなく!

      1. ゴメン!私は野生児だから昔からできたよ。イトミミズを針につけて魚釣りできる。

        1. 素晴らしい!ヤッパリ、ヒロちゃんはそうじゃなきゃあ!
          男前だなぁ!

  4. 釣りの経験は1度もないけど 義理の兄が釣りが趣味だったので 毎年お誕生日近くなると 釣り具屋さんに行っては店員さんと相談しながら プレゼントを買ってました。
    釣り好きな人は…というか 凝り性の人は持つ物に物凄くこだわりがあるんですよね⁈ ( ◠‿◠ )
    また そういう物に限って高価なんですよ(泣笑)

    1. わりと道具から先に入る男性って多いかもしれませんよね。
      ぼくはあんまり拘りがない方かも知れません。

  5. そうそう⤴エサ付け
    ムリ×4!絶対!!ムリ
    生きている魚も触るのムリ×5!
    だから、私は疑似餌を使う「ブラックバス」に挑みました。
    あれはルアーだから全く問題なく触れますから、安心×3!
    でも、釣れたブラックバスをどうする?
    勿論!触れない!
    安心して下さい。2年位バス釣りに挑みました。
    琵琶湖、入鹿池に行きましたが一度も釣れませんでした(笑)
    その後、マス釣りに変更!
    板取川(すぎしま)管理釣り場ですから、マスを㌔買って
    ブロック毎に仕切って有るのでそこへ放流して釣るんです。
    エサは「釣り用のいくら」を使用します。これなら、誰でも触れますねぇ!
    よく!釣れます、釣れたマスは勿論!触れないので、
    何とか軍手をして針から外します。
    そんな自分が情けないので、釣りは卒業しました。
    でも、釣れた瞬間の手の感触は良いもんですよぉ~⤴

    1. 子供のころは、平気で釣った魚も触れたのに、大人になるに従って苦手なものへと変化していった気がします。

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