「天職一芸~あの日のPoem 65」

今日の「天職人」は、岐阜県安八町の「町火消し」。

火の用心マッチ一本火事の元 火消し半纏引き摺るように 声を張り上げ拍子木二つ 父との夜警が小さな誇り    火の用心マッチ一本火事の元 粋な藍染め刺子の半纏   背中に大きく染め抜いた 火消し男の心意気

岐阜県安八町の町火消し、坂重孝さんを訪ねた。

「本当は消防士になりたかったんやけど、長男やったで」。重孝さんは物静かに語り出した。

「ちょ~っと待ったぁ!」事前の調べによれば、泣く子も黙る元カミナリ族「貴婦人」の創立メンバーだったと。「こ、こ、こんな筈じゃあ・・・」。

重孝さんは撚糸業と農業を営む家に、やっと誕生した跡取りだった。

高校を出ると消防士の夢を断念し家業へ。しかし友人たちの誘いで仕事も手に着かず。見かねた父から「他所の冷や飯でも喰うて来い」と、放り出された。元々車好きだった重孝さんは、近くのガソリンスタンドに勤務。自然に車好きの仲間が集まった。

「たまたま同級生の一人が『貴婦人』って書いたステッカーを作って、仲間三~四人と面白がって車に貼ったんやて」。するとそのステッカーだけが人から人へと渡り歩き、気が付いた時には岐阜で勢力を誇る本物のカミナリ族が「貴婦人」を名乗り、そのステッカーを貼っていたそうだ。それが高じて周りから、「おめえ、創立メンバーやったんやて」と囃し立てられる始末。

重孝さんは、安八町第三分団の分団長を務め、今年三月(平成十五年九月九日時点)末で引退。通常三年の任期にも関わらず、皆に推されて延べ十年間、火消し半纏を羽織り誰より先に火事場へと向かった。

写真は参考

まず火事の一報が入ると、町役場がサイレンを鳴らす。しかし重孝さんの工場では、撚糸のモーター音に掻き消されてしまう。重孝さんは工場内に、無線を設置し消防本部の一報に神経を尖らせた。

いざ町内で出火となれば、サイレンを響かせ火事場へ急行。一秒たりと無駄にせぬよう、ヘルメットも火消し半纏も途中で身に着ける。町火消したちの顔が強張る一瞬だ。何はともあれ火元近くの水利に陣取り、襲い掛かる火の手に挑む。しかし装備も満足ではない町火消したちには、燃え盛る炎の中で取り残された人を、救出する術など無い。専門の訓練を積み、最新の防火服を纏ったプロの消防士の到着を待ち、全てを委ねる他はない。「だで俺らに出来る事は、一秒でも早よ火事場へ行って水出すことなんやて」。消防士の夢を断念し十四年。念願の消防団入りを果たした。「早よ順番が廻ってこんかなって、そればっか思っとったんやて」。

写真は参考

郷土を守る町火消し。金や名誉のためではない。ただ愛する郷土と家族を守るため。火消し半纏たった一枚で、敢えて危険に身を晒す。天晴れ!平成の町火消したち。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 65」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    町火消しさんの話ですね。
    ・坂さん色々経験したのですね。
    ・消防士さんなるの諦めて14年間やっと消防団に入れたのですね。 通常の任期は3年間だけど10年間勤めたのですね。町は、自分達で守るためにやっていたのですね。
    ・坂さん 町火消しのお仕事ご苦労様でした。 お疲れ様でした。
    ・町火消しさん(消防団)の存在って貴重ですね。

  2. 丁度、オカダさんのブログを読んでいる時に、けたたましくサイレンが鳴り響くのが聞こえてきました。近いなと思いながらベランダから見ていると、我が家の横を消防車が走り去って行きました。
    え〜、気になる、気になるけど野次馬はちょっと、と思っていたら、暫くすると友だちから『なごやンさんの家から3棟先が火事だけど、もう消えた』とラインが来ました。
    友だちのお陰で一件落着‼

    1. 火事ってやっぱり怖いですよね。
      特に夜の火事なんて!
      「地震、雷、火事、親父」って昔からいいますもんね。

  3. こんにちは。お久し振りです♪消防団の話ですね~私も25~33歳まで地元の消防団に入ってましてね・・・
    入団したばかりの頃は兎に角嫌でね~「なんでこんな事やらないかんの?」って先輩の団員に文句ばっか言ってましたね~その間に山火事が2回 民家の火災が1回 人探しが2回位出動しましたかね・・・でも、年末の夜警の時は拍子木もって「火の用心!」って歩いてまわったんですけどね、その途中に見上げる冬空がなんとも綺麗で流れ星なんかも見た年もありましたよ。いや~なんとも懐かしい思い出でした。

    1. そうやって自分の故郷や地域を守る事って、その土地に根を張っている証ですよねぇ。
      ぼくなんぞの浮浪雲からすると、それはそれで羨ましくもありますねぇ。

  4. 消防団
    関のよっちゃんもしてた
    ぼくもしてた
    先ず、火事場
    つぎ、操法大会
    そのつぎ人探し

    楽しかった揖斐川消防団
    多治見に移りまた入団したけど
    ひどい上下関係にムカつき行かなくなり幽霊団員

  5. 私の住んで居る町内は
    消防団、水防団もあるのですが、是非入団のして欲しいと誘いがありましたが
    私の年齢を聴いて「すみません、消防団も水防団も入れません!年齢制限があります」
    年齢が年齢で、万が一の事があってはいけないので!
    なんやとぉ~⤴そんなもんに年齢があるんかい!
    私の事何歳?やと思ったんやろぅ?
    いっくら何でも!30歳、40歳には見えんやろぉ⤴

    1. きっと帽子を被っていなかったからじゃないですか?
      関ケ原の落ち武者だあって、越し抜かしてらしたんじゃあ???

  6. 本当に頭が下がります。
    日頃から火だけは出さないように 何度も指差し確認しちゃってます。
    コンセントのほこりチェックも(笑)
    この間他市で 火事が起こった後の住宅を見てしまいました。1軒からの火災が燃え移り5軒全て真っ黒骨組みだけの状態。ショックでした。
    ますます気を付けなければ!

    1. ぼくも鉄道員になったように、出掛ける前は指差し確認、怠りませんもの。

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