「天職一芸~あの日のPoem 60」

今日の「天職人」は、愛知県岡崎市の「蒟蒻職人」。

母の煮しめが恋しくて 市場であれこれ品定め      牛蒡人参椎茸と プルプルグニャリ平蒟蒻        色も香も瓜二つ どんなもんよと味見れば        何か一味足らぬのは 母の慈愛の一匙(さじ)か

愛知県岡崎市の池田屋、四代目蒟蒻職人の長坂信一(のぶいち)さんを訪ねた。

「平蒟蒻は手で千切り取って、鷹の爪入れてから八丁味噌でコッテコテになるまでイビル(煎る)じゃんねぇ。そうすると味がよう染みて一番美味いだ」。信一さんが身を乗り出した。

池田屋は明治15(1882)年の創業。初代は跡取りに恵まれず、大門(だいもん)の遠縁から婿を得た。しかし三代目も跡継ぎを得られず、池田屋の往く末に一抹の不安が。

信一さんは池田屋二代目を送り出した大門の家に生まれ、農業一筋に休む間も惜しんで働き詰める父の背を見て育った。そして岡崎北高へと進学。背広に革靴姿の銀行員に憧れたと言う。同じ学び舎には、同い年であった池田屋三代目の愛娘、久子さんも通っていた。まさかその後の人生を共に歩む伴侶になろうとは、努々(ゆめゆめ)思いもしなかった。「あの頃は色気も出始め、アレとすれ違っても、眼もよう合わさんかっただぁ」。

それから間もなく池田屋の二代目から、婿入り話を持ち掛けられた。「『米糠一升あったら養子に行くな(「小糠三合あるならば入り婿すな」の変形。男はわずかでも財産があるなら、他家へ入り婿せず、独立して一家を構えよ。男は自立の心構えを持つべきであることのたとえ。また、入り婿の苦労の多いことのたとえ)』って言われとった時代やったで、やっぱりそりゃあ躊躇っただ」。しかし隔世遺伝の成せる業か。二代目同様大門の家から、久子さんの美貌に惹かれ婿入りを果たすことに。背広と革靴は敢え無く白衣に取って代わった。

蒟蒻作りは早朝から、蒟蒻芋を蒸しては摩り下ろす作業に始まる。そして水を加えて凝固剤を入れ、バタ練り(バタンバタンと音を立てながら機械で芋を練る)を繰り返し、型に流して茹で上げる。午前中に仕込みを終え、午後からは配達に追われた。「昔はよう儲かった」。昭和29(1954)年当時、高卒の初任給は三~四千円。しかし信一さんのポケットには、常時一万円ほどが捻じ込まれていたそうだ。「伝票なんてあれせんし、小遣いには不自由せんかっただぁ。でも年がら年中、山葵下ろしみたいな荒れた手しとったで、他所の女の手なんてよう握らんかったじゃん」。昔は石灰を使う水仕事のため、酷い手荒れに悩まされたとか。

「群馬県下仁田の種芋を取り寄せ、作手村で有機栽培した無消毒の蒟蒻芋を使用し、離水せぬよう芋を多く使い硬めに仕上げます」。名大農学部出の五代目光司さんは、優し気な眼を輝かせた。

秋風に乗り天神様の祭囃子が聞こえると、蒟蒻作りも酣。伝統の蒟蒻作り一筋に、半世紀を共に生き抜いた老夫婦。金婚式ならぬ、金蒟蒻式まで後二年(平成十五年八月五日時点)。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 60」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    ・蒟蒻職人さんのお話ですね。
    ・長坂さん水仕事で手荒れしたのですね。大丈夫ですか?蒟蒻一筋凄いですね。
    ・オカダミノルさん金婚式じゃなくって金蒟蒻式とは上手に書きますね。
    ・私は、蒟蒻(蒟蒻ゼリー,板蒟蒻,糸蒟蒻を、使った料理(すき焼き,おでん)等が好きです。)です。
    ・黒い板蒟蒻,黒い糸蒟蒻は、スーパーマーケットで見た事有ります。
    ・芋蒟蒻は、見た事無いですね。
    ・蒟蒻屋さんが、作った蒟蒻美味しいのでしょうね。
    ・私は、蒟蒻屋さんが作った蒟蒻を、食べた事,かった事有りません。

  2. 板こんにゃく、糸こんにゃくは絶えず冷蔵庫に入っています。

    先週の『残り物クッキング〜広東風しらたき焼きそば〜』簡単で美味しかったよぉ⤴️
    いつでも作れるように、何人家族?って言う位、大量に糸こんにゃくを買い込んじゃいました(^o^)v

  3. こんにゃくを食すには
    やはり「赤みそおでん」
    夜桜を観ながら「アッチチ⤴アッチチ⤴」と言いながら食べるのが一番!
    ダイエットにこんにゃくゼリーもイイかも?
    桜と言えば今年こそ「オカダミノルと桜を観る会」を、やって欲しかったですが
    このご時世残念⤵

    1. 確かに、コロナに振り回されちゃってますが・・・。
      それもこれも、これまた根こそぎひっくるめての人生ですよね!

  4. 彼女の美貌に惹かれ背広から白衣に。
    この職人さんも…このお仕事も…
    やっぱり凄いなぁ〜。
    今もなお しっかり引き継がれているのが その証拠!
    万能食品のこんにゃく よく使いますよ。
    炒めたり煮込んだり…といろんな調理方法があるけど やっぱりシンプルにおでんに入ってるこんにゃくが好きかな⁈( ◠‿◠ )

    1. そうですよね。
      奇をてらったぼくの姑息な調理より、蒟蒻は蒟蒻の味わいがやっぱり全てですよね。

  5. 下仁田こんにゃく最高~
    久しぶり現地にいきたべたーい
    こんにゃくおでん食べ放題
    200円

    1. やすっ!
      下仁田かぁ!行って見たいなぁ!現地でいただけば、もう最高だよね。
      空気と気温と、そしてそして土地の滋味!ええなあ!

  6. 下仁田は日本の田舎って感じ(*>∀<*)
    下仁田にうまいラーメンショップありますがここのしらがねぎは下仁田のぷりぷりな肉厚
    たまんね~

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