「天職一芸~あの日のPoem 59」

今日の「天職人」は、三重県伊勢市の「ラムネ職人」。

湯浴みの髪を束ね上げ 暖簾の奥から浴衣の君が     素顔ほんのり赤く染め 「待った?ゴメン」と上目がち  下駄がカランと音たてりゃ ぼくの心もイチコロン    夏の夜彩る打ち上げ花火 一花咲く度君の声       夜店のラムネ回し飲む 間接キッスに胸躍る

三重県伊勢市で戦前から続く五十鈴鉱泉(いすずこうせん)、二代目の濱口隆生さんを訪ねた。

「昔は、ラムネ瓶の飲み口が証紙で封印してあってな、皆物品税を払(はろ)とったんやさ」。隆生さんは昭和50年頃まで続いたと言う、証紙を差し出した。

初代の濱口九一(くいち)さんは、昭和5(1930)年の十八歳の年、長兄が出資してサイダー製造を開始。名古屋のサイダーメーカーに勤める長兄の肝煎りが、五十鈴鉱泉の礎を築いた。サイダーとラムネ。戦後復興と発展への道を突き進む、昭和の庶民にとって一本のラムネは、爽やかな喉越しとともに、生きる希望が湧き出すような、キラキラ光る小さな泡を吹き出した。

隆生さんは大学を出ると直ぐ、父の元でラムネ作りを学んだ。駄菓子屋に銭湯、昭和の高度経済成長期を支えた庶民の居場所には、必ずラムネの栓を抜く生活音がした。

しかし思いの外の速度で成長を極めたこの国からは、やがて庶民の居場所が蹴散らされ、町中を清涼飲料の自販機が埋め尽くした。飲み口の下が括れたエクボの玉止めを持つラムネ瓶は、無駄の多い形状が祟り自販機時代の波に取り残された。

「十年ほど前から、代々続いた鉱泉も皆、店たたんでもうて。ラムネ瓶も採算が取れやん言うて、十年前(平成十五年七月二十九日時点)から台湾製になったんさ。でもそれも去年までで終いや。ラムネの玉は真ん丸やないと、ガスが抜けてまうでなぁ。せやで玉だけ日本から真ん丸のを送っとったんやで、そりゃ高(たこ)つくわさ」。サイダーよりもガス圧の高いラムネならばこそ、瓶の中のガラス玉を押し上げ固定するからだ。

「子供の頃、家は友達の溜まり場みたいやったわ。朝昼晩と友達がやって来ては、ラムネを呑み放題。あれって俺の人気があったんとちごて、単にラムネ飲みたて集まっとったんやろか?それになぁ、父は九十超しても未だにラムネ飲みやしなぁ」。

百五十年ほど昔、英国に生まれ王侯貴族に愛飲されたラムネは、ペリーの黒船で日本に上陸。炭酸レモネードが訛ってラムネとか。まあ由来はともかく、昭和を必死に生き抜いた庶民の暑気払いには欠かせないものだった。

写真は参考

夕涼みの縁側、線香花火と蚊取り線香、瓶に触れるビー玉のちょっぴり涼し気な音色。記憶の片隅に追いやられた遠き時代は、今ほど便利じゃなかった。だが誰にも平等に、今よりもっと輝く明日が感じられた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 59」」への15件のフィードバック

  1. おはようございます。
    ・ラムネ職人さんの話ですね。
    ・ラムネは、縁日等で見るラムネですね。
    ・私は、ラムネを飲んだ事有りますね。瓶の形が変わっていますね。 記憶に有ります。最近ラムネを、飲んでいません。
    私は、ラムネ好きです。美味しいですね。
    サイダーと違う味なのが良いですね。
    ラムネは、甘過ぎないのが良いですね。

    ・ラムネの玉は、丸くないと駄目なのですね。(理由は、ガスが抜けるから玉が丸くないと駄目ですね。勉強になりました。)

    ・ラムネの瓶は、外国製(台湾)に、なったのですね。

    ・ラムネは、150年前英国で誕生したのですね。私は、知りませんでした。勉強になりました。

    ・濱口さんは、大学を、卒業してからラムネ作りの勉強したのですね。

  2. 子供の頃、近くに配達所があったからか、家にはいつもラムネがケースで買い込んでありました。側には、木の栓抜きも置いてあったなぁ。これが無いと栓が開けられませんからね。
    ラムネの栓を『クシュッ!』と開け、こぼれたら量が減ってしまうので、出来るだけ早く瓶の口を自分の口に。
    あ〜、懐かしいわぁʕ•ٹ•ʔ

    1. 使い込んだラムネのビー玉を押し込む栓抜きありましたありました!
      なつかしい!
      今は、栓のキャップになっているプラスチックの使い捨て栓抜きですから、何とも味気ないですものねぇ。

  3. ラムネを初めて飲んだのは いくつの時だったのか?
    でも記憶に残ってるのは ガラス玉を落とした状態で手渡され いざ飲もうとしたら ガラス玉が邪魔をして上手に飲めなかった事( ◠‿◠ )
    大人になってからは 上手に飲めるようになったけど ガラス玉を下に落とす時未だにドキドキしちゃいますね。
    「よしっ!」って気合い入れてる自分が笑えます( ◠‿◠ )

    1. なんだかビー玉を落とす瞬間って、シャンパンを抜くときのようで、ちょっとロマンチックじゃないですか?

      1. わかる気がします( ◠‿◠ )
        シャンパンのように派手じゃないけどガラス玉が落ちた時 ドキッとして シュワ〜って音がして 自分の空間だけ ラムネの小さな泡で拍手されてるようで 笑みが溢れますから。
        光を浴びて ガラスの瓶がキラキラしてたら 尚更ロマンティック!

        1. 泡ぶくって、シャンパンもラムネもサイダーも、お風呂の石鹸も、シャボン玉も、みんなみんなまあるくって、角張ってなくって幸せな気がしますよね。
          いつもどんな時でも、まあるくまあるくいたいものです。

  4. ラムネかぁ~
    懐かしいなぁ~子供頃よく飲んだなぁ~
    ラムネの瓶は今も昔も殆ど変わりませんねぇ!
    ビー玉が入っているので、
    よく子供の頃ビー玉欲しくて瓶を割って取り出したもんです。
    けど、一ケース毎(24本)買うもんだから
    計算が合わなくなってきて、割るなよぉ!とよく言われていました。
    確か?瓶代が5円くらいでしたか?
    炭酸飲料と言えば
    始めてコーラを飲んだ時は思わず
    「なんじゃこれぇ~」日本にはない薬のような味がして
    大人の味なんだなぁ~と子供心に思っていました。
    大人と言えば、ビールで「プッハァ~」
    その美味しさがジジィ~になった今でもわからん⤴
    まぁ~わからんでもエエけど、いつまでもピーターパンなのだぁ!

  5. ラムネって、レモネードがなまったという説は本当ですか?メリケン粉と同じ?

  6. 懐かしいですねー。子どもの頃に駄菓子屋さんで、特別な日?に飲みました。当時、お幾らぐらいでしたかね。
    そういえば、紙の封印がしてありましたね。昔は、証紙だったんですね。
    ひとつ謎が解けましたぁ。
    ラムネ玉は、どうやって入れるんかなぁと、いつも思っていました。今もよく分からないです。

    1. ラムネ玉の入れ方を確かに疑問に思い伺ったはずなんですが、なんせ15年以上前のこと。
      すっかり忘れてしまっています。
      申し訳ありません。

  7. *ラムネ * って 日本だけの飲み物なんでしょうか ??
    観光地に行くと海外の方々が 「 キャーキャー」 言いながら大騒ぎして飲んでいる所を 何度か見た事があります ‼️ ‼️

    私も 3年位前 何十年かぶりに飲んでみましたが、上手く飲めなくて 「 ぷっファ〰️〰️ 」 とマーライオンみたいに ∵
    ビールは 何本でも ぷっファ~と上手く呑めるのに (#^.^#)

    1. あの括れたエクボの玉止めを持つラムネ瓶は、日本固有の文化かも知れませんねぇ。
      そう思うと、なおさらあのグラマラスな瓶が、愛おしくもあり・・・。

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