「天職一芸~あの日のPoem 58」

今日の「天職人」は、岐阜市加納花ノ木町の「和傘貼師」。

悪戯小僧の勲章は 爪の黒さと赤チンの数        鎮守の杜の隠れ家で 時を忘れて駆け廻る        ピカゴロ 不意の夕立に 臍を押さえて家路を駆けりゃ  畦の向こうにジッチャの姿 揺れる番傘 細い腕

岐阜市加納花ノ木町の和傘の貼師、伴清吉さんを訪ねた。

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色鮮やかな美濃本蛇の目傘の大輪。仕事場の壁から天井まで、足の踏み場もないほど傘の花が咲き乱れる。

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傘の柄の天辺から、放射状に伸びる五十四本の竹骨に、古びた刷毛で和紙糊を滑らせ、三末(みまつ)と呼ぶ竹骨三本に、一枚の割合で都合十八枚の美濃和紙を、皺ばむ指先で寸分の狂いも無く貼り込んでゆく。「ちょっとこれ見てみゃーて」。ゆうに二十年以上は使い込まれたろう馬の刷毛を、清吉さんが差し出した。なんと柄は、清吉さんの指の形に窪み、飴色に変色してしまっている。「この辺りは、和傘の本場やでなも」。

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清吉さんは三人兄弟の末っ子。父と兄がそうであったように、何の疑問も抱かず、尋常高等小学校を上がると直ぐに貼師となった。「毎晩火の用心が廻ってくるまで、傘貼っとったて。欲があったでな。一本でもようけえやって、子どもらに美味いもん食わせたろって」。

和傘一本の完成までに、大きく分けて骨師、貼師、仕上師の手を潜り、工程は百を超える。実に貼師の作業だけでも、十八工程に及ぶ。

まず骨師が割き削った骨を、夏でもストーブに翳し一本ずつ歪みや反りを矯正する。「これが一番肝心なんやて」。矯正された五十四本の骨は、元の一本の太い真竹の状態に閉じられ、輪で締め続けること一ヵ月。それから三末ずつ美濃和紙を貼り込み、再び一ヵ月以上の時を掛け、ゆっくりと自然乾燥を待つ。「本当にええ傘は、半年かかるわさ」。貼師の納得がいった傘だけに、貼師の銘札が貼られ、絹の毛で荏胡麻油を塗り込む仕上師へと手渡される。

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しかし戦後の復興とは裏腹に、和傘需要は激減。「ここらぁは昔、家の前が広うしたって、そこら中に傘を干しとったもんやて」。洋傘台頭の憂き目に、職人たちも職を奪われていった。「だって蛇の目差しとるんを、見たことないやろ。今でも和心のあるお茶の先生や、踊りの先生のよな、突飛な人らしか差してくれやんでな」。清吉さんは小さな背を丸め、愛妻の志ず子さんを振り返った。

傘貼一筋、四分の三世紀。三人の子供も立派に巣立った。それでもなお、日がな一日傘を貼る。

バサバサッと小気味のいい音を立て、降りしきる雨が一瞬に跳ね飛んだ。曇天の梅雨空に、鮮やかな美濃本蛇の目の花が咲いた。「明日、天気になぁれ」。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 58」」への10件のフィードバック

  1. おはようございます。
    ・和傘貼り師さんのお話ですね。

    ・1本の和傘を、作るのは、3つの段取り(骨師,貼り師,仕上げ師)で分割してやっているのです。

    ・最近和傘あまり見ませんね。洋傘が普及したので、和傘を使う方が少なくなったのですね。

    私は、和傘を、持っていません。洋傘を、使います。

    ・(写真の和傘)蛇の目の柄,紫色の和傘綺麗ですね。

    ・和傘は、歌舞伎(地歌舞伎)で、見た事有ります。和傘は、役者さんを引き立てていますね。必要な道具ですね。

    ・伴さんは小学校に上がってから貼り師さんになったのですね。お父さんとお兄さんも貼り師だったのですね。(家の家業が、和傘の貼り師だったのですね。)

    ・貼り師さんの仕事は、18工程やるのですね。大変ですね。

    ・良い商品を、作るのに時間がかかるのですね。

  2. 可愛い小学生の頃
    お友達のお母様が内職で和傘を作ってみえました。
    いつも、お友達の家に遊びに行くと「糊」の良い匂いがした事覚えています。
    でも、叔母様の手はいつも「糊」でカサカサしてひび割れていて痛そうだった!
    心優しき、僕チンは、そう思っていたのです。
    確か?提灯も作っていたなぁ~
    追伸!
    その僕のお友達が、お母様から教えて頂いた
    「卵にたまりの味付け」で焼き飯を作ってくれたんです。
    たまに作ってみると、あの昭和の緩い時代を思い出します。

    1. 「卵にたまりの味付け」の焼き飯って???
      どんなんなんだろう?
      何だか美味しそう!

      1. たまりは我が家(郡上)では味噌ダルの中に竹で編んだ長い筒を入れて水分だけが取れます。それを【たまり】と呼んでいました。醤油が無いときに醤油の代わりにしていましたよ。

        1. 自家製の地味噌からの溜りでか!何とも贅沢な!醤油も味噌も材料は一緒ですものね。
          まさに伊勢うどんの溜り醤油が、ヒロちゃんの地味噌から滲みだした溜りと一緒の製法ですもの。

    2. 今晩は。「玉子にたまりの味付け」で、焼き飯美味しそうですね。 どんな味なのかな?

  3. 和傘…色っぽいですよね〜( ◠‿◠ )
    一度は手にしたいと思ってるんですけどまだ自分自身がお子ちゃまだから 似合わないかなぁ〜って。
    ブログの和傘の写真を見て パッと頭に浮かんだのが「緋牡丹のお竜」(笑)
    富司純子さんや高倉健さん。
    カッコいいんですよね。
    開いた和傘を持つ姿も素敵だけど 閉じた和傘の頭の部分を持つ姿もかっこいいんですよ。
    私は 一体何歳なんだろう?(爆笑)

  4. * 和傘 * と言えば むか~し、結婚式で新郎新婦が相合い傘で登場するのを 見た事がある方 みえるのでは??

    今は 京都や浅草で 結婚式の前撮りや 観光客の若者も 和傘を使って 写真を撮ってみえますから、 流行りが周り周ってきたのか? インスタばえー なのかもしれませんが 日本らしさ なんでしょうね (*´∀`)
    我が家にも母親が使っていた赤い和傘がまだ 残してありますから、大切にして引き継いでいきたです (*^-^*)

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