今日の「天職人」は、三重県磯部町の、「伊勢根付(ねつけ)木彫師」。
早乙女が 古式彩る御田植か 伊雑宮(いざわのみや)に 夏は寄せ来る 風待ちや 水主(かこ)も浮き立つ 鳥居崎 一夜詣での渡鹿野島(わたかのじま)よ はしりがね 無事かえれよと 伊勢根付 帯に忍ばせ出船見送る
三重県磯部町の伊勢根付木彫師、櫻谷直弘さんを訪ねた。

根付は元々、印籠や煙草入れの帯留め。江戸も元禄を迎えると、粋筋の間で根付自体の美が競われた。中には、大名お抱えの根付師もいたという。
櫻谷さんは昭和9(1934)年、十五歳で伊勢根付三代目正直の最後の弟子となった。しかし根付は、維新以降国内での需要が激減。代わりに西欧の蒐集家が美術工芸品として価値を見い出し、正直を冠した伊勢根付は、海外での人気を追い風に、七つの海を渡った。
櫻谷さんの伊勢根付も師同様、樹齢百年ほどに成長した、幹周り七~八メートルに達した、自生の朝熊黄楊(あさまつげ)のみを使用。構図を描き硬質な朝熊黄楊に、丸刃(がんとう)で細かな細工を刻む。掌にすっぽり収まる根付一つに、一ヵ月以上の時が無尽蔵に費やされる。顔料の紅殻(べにがら)と墨を混ぜ合わせ、図柄によって濃淡を加える。最後に椿油をすり込み、何度も布で磨き上げ独特の艶を引き出す。
櫻谷さんの根付には、「無事かえる、客を引き込む」の願いを込め、ヒキガエルが浮き彫られる。櫻谷さんは、古井戸から引き上げたような、朽ち果てた釣瓶からヒキガエルも一緒に顔を覗かせる根付を取り出した。釣瓶の横板は片方が朽ちて剥がれ落ち、飛び出した和釘までが象嵌を施す念の入れよう。彫師の魂が刻み込まれた銘品だ。
幅2.5センチ、高さと奥行きも約1センチの小さな小さな根付。しかし小さな根付に描かれた彫り物たちは、まるで今でも生きているかのようでした。
*「はしりがね」とは、渡鹿野島が江戸時代の廻船の風待ち港であり、水主(船乗り)の相手をした一夜妻の意。
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写真を拡大して何度も拝見しました。
本当に細かな細工で素晴らしいですね。カエルと釣瓶の思いがけない取り合せには、唸ってしまいます。
きっと日頃から生物や静物を細かく観察されておられたのでしょう。
土曜日に岐阜落語を聴きに行ったのですが、桂文治師匠の帯の端に見えた根付が、いかにも粋でお洒落でした。
本当に知らないことばかりで驚きの連続です。
オカダさんも、お話を聴いて伝えるという職人さんに思えてきました。
いやいやぼくなんて、まだまだ修行が足りません。
でも興味を持っていただけ、嬉しい限りです。
おはようございます。羽根根付木彫りのお話ですね。写真にのっている蛙さん(ヒキガエルさん)の根付け可愛いですね。職人さんの手間がかかっている様に見えます。
蛙の根付けのストラップになったら素敵ですね。。
私は、蛙好きです。根付け好きです。
伊勢根付初めて聞きました。勉強になりました。無事にカエルは、聞いた事有りますね。
実用的な物から骨董品に…そして 海を渡る。
で、日本でまた ベールに包まれるが如く 貴重品となっていく…のかな?
彫師さんの願いや祈りも一緒に届くといいなぁ〜( ◠‿◠ )
それにしても 細かなお仕事ですよね⁈
本当まるで生きてるかのよう。
もしかして このヒキガエルの右目って開いてないですか?
これも何か意味があるのかな?
今まで井戸の中の暗がりの中で、釣瓶に引っ付いて寝ているところを、急に釣瓶を吊り上げられ、ヒキガエルはまだ夢現なのでは?