今日の「天職人」は、岐阜県本巣市の「菊花石(きっかせき)研磨師」。(平成十七年十一月二十九日毎日新聞掲載)
川面に浮かぶ浮眺め ついに入日も釣瓶落ち 父の溜め息空の魚篭(びく) 母の小言が目に浮かぶ 茜陽浴びて光る石 せめて母への手土産と 家に帰って大騒ぎ 天下の輝石菊花石
岐阜県本巣市神海(こうみ)、天然記念物菊花石の研磨師、根尾谷観石園の二代目、小沢睦(ちから)さんを訪ねた。

たかが石ころ。されど、ためつすがめつ石を眺め、数億年と言う途方も無い時代に想いを馳せ、何とも愉しそうに語らう親子三代と出逢ったのは初めてのことだ。
石の持論を説く傍らで、妻が要所を補う。すかさず店の奥から、長男が新説を交えた。
「まあ諸説いろいろなんやて」。睦さんが煙に巻く。
「そんな何億年も前の事、誰も見たわけやないし」。妻が助け舟。
睦さんは昭和二十(1945)年九月、満州で印刷会社を営んだ根尾村出身の父の元、五人兄弟の三男として誕生。しかし夢の国満州は、第二次世界大戦の幕引きで幻と消えた。
昭和二十二(1947)年、一家は命からがら実家へと引揚げ、それから十五年の年月が流れた。
「空前の石ブームやったんやて」。
炭焼きに出掛けた祖父母の、斧を研ぐ砥石が石に当り、割れて中から色の付いた部分が現れた。
それを砥石で磨き、台座に載せた五色石は飛ぶような売れ行きに。
「川沿いに十軒ほどが軒を並べ、五色石を売っとったんやで」と妻。
「ぼくが高校の頃は、原石その物で売れたんやで」とは長男。
睦さんは、大学を出ると印刷会社に職を得た。「田舎の事やで、大学出とると、皆がホーホー言うんやて」。将来の幹部と期待されながら、半年で退職。
「サラリーマンが向いとらんかったんやて。土日で親父の手伝いしとった方が、面白いし金になるし」。 睦さんは退職金代わりに、職場から一年先輩の恵美子さんを口説き落とした。
「当時の流行語『家付きカー付き、ババア無し』の、『ババア無し』が私は嫌やったでね。ここは両親も同居やったし。初めて家に来た時、義父が『笑う門には福来ると言う様に、一生笑っとる自信があったら嫁に来い』って」。妻は思い出し笑い。二人の男子と娘を授かった。
「ブームで終わると先細りになるで、高級品で手に入りにくい菊花石に眼を付けたんやて。採掘の許可を得て」。掘り出された菊花石の母岩を仕入れ、永年培った眼で見据え、花の在り処を人工ダイヤのグラインダーで探りながら磨き込む。
「この石に花が付きそうや」と、勘だけが頼り。
菊花石は方解石の結晶とも言われる。母岩は玄武岩が多いとか。花の色は薄墨色から、磨き込むほど白さを増す。
「でも磨き過ぎると、花が萎む。石の硬さも全部違うし、花の咲き加減の見切りが肝心。どれも溶岩の悪戯やでね」。

この土地は、神の海と書いて、神海。数億年の昔、海底火山が隆起したとも。
地球が大地に咲かせた石の花。
研磨師の眼力は、己の勘だけを頼りに、数億年彼方で自然が織り成した美を、現(うつつ)の世に深い眠りから目覚めさせる。
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