バナナが遠足のオヤツに入るのか、或いは先生のお達しに反するのか!
昭和半ばの子どもたちにとっては、一か八かの大きな死活問題であった。

なぜなら、遠足に持参してもいいオヤツは、50円以内と決められており、遠足前日にそれはそれは厳しい、オヤツ検査が待ち構えていたものだ。
小学3年の年の担任は、見るからにやさしい、眼鏡を掛けた新任の女性教諭であった。
だからクラスの皆は、誰しもが「今年はチョロイもんよ」と、高を括っていたものだ。
オヤツ検査を目前にした一文菓子屋は、近所の腕白坊主とお転婆娘たちで大賑わい。

いつもの店番のお婆ちゃんだけでは、とても事足りぬ。
だから大した役には立たぬ、ちょいと斑呆けが始まったお爺ちゃんに、娘夫婦までもが加勢に駆り出されていた。
マーブルオレンジガムにラムネ菓子、そして男子に人気のココアシガレット。



さらにフエラムネに粉末ジュースや、女子に人気の酢昆布。
手にしちゃあ戻し、また手に取るの繰り返し。

やっと一個5円の駄菓子10個を選び終えた頃には、すっかり夕暮れ。
そしていよいよオヤツ検査当日。
ナップサックから、遠足に持参する駄菓子を机の上へと店開き。
担任が席を巡回し、50円超えがいないかと目を光らせる。
すると一人の男子生徒が先生に問うた。
「お母さんが、おにぎりの包みと一緒に、バナナを入れたら、オヤツにはなりませんか?って」と。

嗚呼何たることか!
馬鹿正直にも程がある。
言わでもの台詞を口にしおって!
すると担任の、いつものやさしい表情が一変。
「皆さんよく聞いて。バナナはオヤツの一部として、1本25円で計算します。もしバナナを、お弁当の包みに隠しても、お菓子は残り25円分となりますから。それを越えていたら、先生が預かります」と。
何とも新任教諭らしい、杓子定規な模範解答に、ぼくらは成す術も無く、只々落胆するばかりだった。
このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。