
「だって、その写真のモッくんは、コンチャンの一番のお友達だし・・・おばちゃんもおじちゃんも・・・それにお兄ちゃんも美代ちゃんも・・・みんなみんなとっても大切な人たちなんだもん。・・・それが・・・それが熊や虎に襲われて死んじゃったら・・・」。

木乃葉の目から大粒の涙が溢れ出した。
「この新聞によると、熊と虎に襲われるのは、今夜の9時とあるぞ!」。

「ねぇ、おじいちゃん。今からだったら、まだ間に合う?」。
「ああ、急げばきっと間に合うさ。よしっ!わしもコンチャンと一緒に行こう!」。
「ええっ?だ、だって・・・」。
「なあに心配は無用じゃ。どうせ隠居の身。毎日この無料パスを使って、あても無くバスに乗ってあっちへ行ったりこっちへ来たり。家におっても肩身も狭いし」。

「ほ、本当?本当に一緒に行ってくれるの?・・・あっ、ちょっと待って。それって・・・もしかしておじいちゃんコンチャンを誘拐しようとしてるとか?」。
「エエッ?」。
「だって先生やママがいつも言ってるもん。絶対知らない人に付いてっちゃだめだって。・・・だから」。
「ワッハッハッハ!」。
「何がおかしいのよ!」。
「だってコンチャンの目には、このわしが誘拐犯に見えるかい?」。
木乃葉は改めて老人を、頭の天辺から足元まで隈なく眺め回した。
「う・・・ううん」。
「じゃあこうしてはおられん!さあ急ごう」。
老人は立ち上がった。小ぶりのセカンドポーチにぶら下がる、ぬいぐるみ人形の鈴がなった。

チリチリ チリリ~ン
「あっ、そ・・・そのお人形・・・」。
幼い頃の記憶の欠片が、カラカラっと音を立て、木乃葉の頭の中を駆け巡った。
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