ベランダで盆の迎え火を焚き、両親を迎えた。

何故か盆になると毎年のことのように、両親の古めかしいアルバムや手紙を引っ張り出し、酒のあてに整理を始めるのが恒例。

何より冥界と現の世が繋がる、盆の時期ならではだ。
「あれっ?」。
母の娘時代の、白黒写真のアルバムを繰っていた時のこと。
名刺サイズの写真が、黄ばんだ台紙に、三角コーナーで写真の四隅を、挟んで止められていた。

しかし糊の部分が劣化し、一カ所外れかけている。
糊付けでもするかと、写真を外してビックリ!
若かりし日の母の写真の下から、もう一枚、バストショットのダンディーな、背広姿の二枚目が顔を出したではないか!
明らかにそれは、若かりし日の父ではない。
まるで母の写真で覆うように、二枚目の男性の写真を、母がこっそり隠していたとしか考えようがない。
「ま・さ・か…!」。
あらぬ考えが一瞬脳裏を過ぎった。
そうなるともう、真実を突き止めねば、夜もおちおち眠れない。
意を決し二枚目男の写真を手に取り、矯めつ眇めつ眺めた。
やはり、見覚えなどない。
はてさてと、写真を裏返しまたもやビックリ!
写真の裏側には、見覚えのある母の癖字が。
「後宮春樹役、佐田啓二、昭和28年」と記されていた。

何と、「松竹戦後の三羽烏」と謳われた、佐田啓二その人の写真であったのだ。
調べると、後宮春樹とは、昭和28年公開の映画「君の名は」の主人公。
岸恵子扮する氏家真知子の相手役の役名だと知った。
昭和28年と言えば、母は脚の障害を苦にして、結婚を諦めかけていた頃と重なる。
その3年後、父と巡り合い結ばれた。
もしや母は、この映画に己の境遇を重ね合わせたのだろうか?
未だ見ぬ母にとっての「春樹」との出逢いに、一縷の望みを託して。
佐田のブロマイドは、母にとっての護符だったのかも知れぬ。
佐田と父とでは、到底比べ様も無いが、事実その証として、このぼくがこうして、生を賜ったのだから。
ともあれ両親に献杯!
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