「天職一芸~あの日のPoem 87」

今日の「天職人」は、愛知県田原市の「金物屋」。

日曜の朝目覚めると ランニングシャツ一枚で       父は鋸引き鉋掛け 咥え煙草も様になる          捨て犬見つけ連れ帰り 昨日は父にどやされた       家じゃ飼えんと言ったのに 犬小屋造りに精を出す

愛知県田原市の金物屋「ナゴヤミセ東店」二代目の、山崎昇さんを訪ねた。

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「家は売れんもんしか、置いてないだぁ」。昇さんは農耕牛用の蔓(かずら)で出来た鼻環を差し出した。

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昇さんは高校を出ると直ぐ、地方都市の小さな百貨店、タマコシに勤務。「毎日毎日、明けても暮れても、女もんのパンツばっか売っとっただぁ」。しかし体を壊し一年で帰郷。

家業の傍ら、左官材料の販売から風呂桶の設置、配管工事まで手掛けた。「ほんでもわしが配管やったら、間違いなく絶対漏るで、ちゃんと職人雇っただ」。

とは言えまだまだ二十三歳の多感な青年の心は、ブラジルへの移民の夢に憑りつかれていった。「本気で店閉めて船に乗り込むつもりやったで、勘当寸前だっただぁ。でも『いっくら貧乏してもええ。どうか行かんでくれ』と、母に泣きつかれてまっただ」。敢え無くブラジルへの移民の夢は潰えた。

すると二年後、見合い話が持ち上がった。「いっぺん行き会って見るか」と、ドライブに。「それがねぇ、初めてのデートが、女もんのパンツ売っとったタマコシだっただ。色気も無いらぁ」。帳簿付けの手を止め、妻のまり子さんが笑った。そして三回目のデートで結納。知り合ってから四ヶ月目、四回目のデートが結婚式だった。

「わしが二十二歳の頃だっただぁ。家で仕入れとる左官屋が、どうやら暮れに夜逃げするらしいと、仲間の左官屋から聞いたもんで、親父に相談しただ。そしたら親父が『まあええから、餞別持たしたれ』って。そんなん、泥棒に追い銭じゃないかって言うと『騙すよりも騙される方がましだ』と。親父が頑固だもんで左官屋に『あんた、どこぞか行かれるそうやなぁ』って、餞別渡してやった事があった」。さすがにそこまでされると、夜逃げの足も鈍る。左官屋は後々までかかって、少しずつ返済を続けたそうだ。

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「これ何かあんたら分かるか?」。そう言うと、直径2㎝ほど、長さ1.5mほどの、ガラス管の先がラッパのように開き、反対側が球体になった「ガラス蠅捕り棒」を取り出した。球体部に水を入れ、ラッパの口で天井の蠅を覆うと、蠅が球体に吸い込まれる仕掛けとか。「家の店は、無い物以外なら何でもほとんどあるだ。でも何万点商品があるかは、誰も知らんだらぁ」。

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所狭しと渦高く積まれた埃塗れの商品の中から、昭和を逞しく生き抜いた人々の、暮らし振りや息遣いが聞こえるようだった。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 87」」への9件のフィードバック

  1. おはようございます。
    金物屋のお話ですね。

    ・金物屋さんは、余裕をもって歩いて20分~30分の所に1軒有りますね。

    ・私は、用事があって金物屋に行った事は、あまり行った事は、有りません。
    (金物屋さんは1回か2回行った覚えが有ります。)

    ・農耕牛用の蔓(かずら)で出来た鼻環とガラス蠅撮り棒、実際に見た事有りません。昔使っていた道具なのかな?

    ・蠅とりは、昔から有る丸くなっている茶色いネバネバの糊が付いているのを、伸ばして天井に付けます。

  2. あ~っ、これ知ってる:->家にありましたよ。小さい頃は背が足らず背伸びして使った事あります。背伸びだから足が疲れてハエが墜ちるまで待てなくてハエに逃げられてましたm(。≧Д≦。)m。

  3. 何? ガラス蠅捕り棒?
    初めて見ました。
    まるで理科や化学で使う実験器具みたい。
    蠅捕りと言ったら蠅捕り紙でしょう。
    私が子供の頃にもあったけど 今でもあるんですよ。
    去年の夏 実家で「ハエがなかなか捕れない」と言われ 台所に蠅捕り紙を吊るしてみたところ 食事をテーブルに並べる度に私の髪の毛にくっ付いて「もうイヤ〜!」と叫ぶ事となり 敢えなく撤収(笑) 今年はどうなることやら…

    1. そうなんですよねぇ。
      蠅捕り紙が頭や頬にペタリと引っ付いた日にゃあ、嫌だったですもの。
      だって今とは違って、昔は銀蠅が多くて、その死骸が引っ付いたまま、髪の毛や頬にペタリと引っ付いてくるんですから!

  4. ガラス管のハエ捕り!
    懐かしいなぁ~⤴
    ハエ捕り紙!
    うん~~⤴これもまた懐かしい!
    八百屋さん行くとこの二つは絶対!置いてありました。
    それと、天井から吊るしてモーターで動く扇風機みたいな
    ハネの代わりに二か所ぐらいから棒が出ていて
    その先に細い紐見たいのが付いていてグルグル回る奴
    皆さん知らんかなぁ~?
    ♬古い奴だとお思いでしょうが!
    ♬古い奴ほど新しもんを欲しがるもんで御座います。
    ここだけの話し畳と嫁は新しい方がエエかも?
    くれぐれも他言無用で宜しくお願いします。

    1. 「天井から吊るしてモーターで動く扇風機みたいな、ハネの代わりに二か所ぐらいから棒が出ていて、 その先に細い紐見たいのが付いていてグルグル回る奴」。
      ぼくも何だか記憶の片隅に、確かに見たことがある気がいたします。
      落ち武者姫に、今度チクッテやるぞー!

  5. ガラス蝿とり菅、おもしろいですね。初めて見ました。ハエ取り紙の方は、背が高くイガクリアタマの警備員のジイさんがハエたたきや輪ゴム当てで半死半生となった蝿をピンセットでつまんで、くっ付けて楽しんでいた変な趣味の事を思い出しました。

    1. 蠅捕り紙って、返す返す素晴らしい昭和の名品ですよねぇ。
      でも、大人になった今吊るしたら、デコに引っ付いて大変でしょうが!

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