7歳の娘に毎日送ったハガキ~132通の物語『明朝新聞(みょうちょうしんぶん)』No.19

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「おいッ基喜!美代とふざけてないで、さっさとジャガイモとニンジン洗って来いよ!」。

兄の裕也は、慣れない手つきで玉ねぎを刻みながら、そう言って基喜を横目で睨みつけた。

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「じゃあぼくにも包丁使わせてよ!」。

基喜は砂まみれの手を、半ズボンで払い落としながら兄に食い下がった。

「だったら言われた通り、さっさと洗って来いよ!」。

裕也は包丁の手を止め、基喜に向き直って怒鳴った。

砦岬キャンプ場は、その名の通り岬の突端に築かれた砦跡を、オートキャンプ場に整備しなおした所で、英虞湾を眼下に見下ろす絶景が売り物だ。

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今日のキャンプ場は、お盆の最終日と日曜日が重なったせいか、名古屋や関西からのキャンパーもそれほど多くはない。

スーパーマーケットの名前が入ったプラスチック製の買い物篭を抱え、基喜は一目散に洗い場を目掛け走り去った。

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「オニイチャン。ミオもホウチョウでお野菜切るの!」。

美代はまだ幼稚園の年少さんのため、母音と子音の区別がつかずミヨをミオと呼んでしまう癖がある。

「ミヨちゃんがお野菜切るのは、ちょっと危ないんじゃないでしゅかあ!」。

裕也は弟の基喜に接する態度を豹変させ、思わず鸚鵡(おうむ)返しに幼児言葉で応えた。

「いやッ!ミオもホウチョウしゅるもん!」。

美代は今にも泣き出しそうな目で、裕也を見詰めた。

「わっ、わかったから、泣いちゃだめだよミヨちゃん。後でお兄ちゃんと一緒に、ニンジンさんを切ろうネッ!」。

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裕也は美代の正面にしゃがみ込んでなだめた。

「いやッ!ミオ一人で出来るもん!」。

「だ、だって・・・もしも包丁でお指とか切っちゃったらさあ、お指から真っ赤な血が出ちゃって、イタイイタイになっちゃうよ。だから・・・ネッ!」。

ビェーン ビェーン ビッエーン

美代は立ち尽くしたままの姿勢で、大声を張り上げて泣き出した。

それまでカナカナカナと木立で泣き続けていた蜩時雨が、一瞬やんだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「7歳の娘に毎日送ったハガキ~132通の物語『明朝新聞(みょうちょうしんぶん)』No.19」への2件のフィードバック

  1. 包丁って
    いつ持ったきりだろうか?
    世の奥様方を敵に回すくらい持ってないし
    使っていない・・
    リンゴの皮を剥かせれば、剥き終る頃には
    リンゴの色が茶色に変色
    ダメな亭主だと自分でも分かっているけど!
    どうも料理が苦手で・・
    その点オカダさんが羨ましい!

    1. そういう昭和チックな亭主関白=男子厨房に立ち入らず的なのって、ぼくのような軟弱者には羨ましい気がしちゃいます。
      でもやっぱり軟弱者は、ついついキッチンに立っちゃうんですよねーっ。

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