「ファンシーケースは、秘密の花園?」

「ねぇねぇサッチャン、これって何なの?」。
お向かいのサッチャン家に、上がり込んで遊んでいた時のこと。
サッチャンのお姉ちゃんの、部屋の片隅に置かれた、小ぶりな電話ボックスのような物を眺め、ぼくはサッチャンに問うた。
それは四方が、実にカラフルな色合いのビニールで覆われ、ともかく目が奪われてならない。
「これ姉ちゃんがセーラー服やブラウスとか、大切な服を吊り下げてしまっとく、ファンシンケース言うんやったか、ファンシーケースとか言うんもんやて」と、年下のサッチャン。
「『ファンシンケース』やったとしたら、阪神タイガースにそんな『ケース』なんて選手おったやろか?いやいや、『ファンシーケース』にしたって、そんな言葉聞いたこともない。せいぜいそれに近いのなんて『ルーシーショー』くらいやもん」とぼく。
「ねぇねぇミノ君。こっそり姉ちゃんの、ビニールの箱ん中覗いて見たい?」と、妙に思わせぶりなサッチャン。
「このチャックを下に降ろして、こっちを右に開けば、ほらっ!」。

サッチャンは慣れた手つきで、ビニールの箱を開けた。
その瞬間、得も言われぬ、甘酸っぱい香りが鼻先を掠める。
年頃の娘などいない、三人家族のわが家には存在しない、クラクラと眩暈を覚えるような、甘酸っぱい香りがした。
「どうしたのミノ君?なんやポーッとしてまって、顔も真っ赤しけやよ!」と、サッチャンの声でふと我に返った。
「ねぇこれ何か知っとる?」。
サッチャンは得意げに、まるでぼくを茶化すかのように、お椀を二つ伏せたような真っ白な下着のような物を、自分の胸の前で広げた。
「・・・?なんやのそれ?」とぼく。
すると突然襖が開いた。
「サトシ!やめてよ!私のブラジャー、玩具にせんといて!」。
サッチャンのお姉ちゃんが、ものすごい剣幕で白い下着のようなものを奪い取ると、サッチャンに拳骨を見舞った。
その場に居合わせただけのぼくも、何だかバツが悪く、逃げ出すように玄関を飛び出したものだ。
しばらくその出来事が理解できず、ぼくは公園のブランコで揺られていた。

するとサッチャンが照れ臭そうにやって来て、別に何か言い訳をするでもなく、隣でブランコを揺らし始める。
「さっきがたのアレねぇ。姉ちゃんがこないだ買ってもらった、大切なブラジャーってもんなんやて。年頃になると女の子は、オッパイが膨らんで来るから、あのブラジャーってのでオッパイを大切に包むんやと」と、サッチャンは物知り顔でつぶやいた。
「お母ちゃん!何でお母ちゃんは、ブラジャーせんの?」。
家に帰ると、ただいまの代わりに母に問うた。
すると「何んやのこの子は、藪から棒に!」と、母は一瞬戸惑ったようだ。
「だってさっき・・・」と、サッチャンに教そわった、ブラジャーの効能を口にした。
「トロくっさい!子どもはそんなこと、知らんでええ!それにお母ちゃんたーが若い頃は、戦時中やったで、そんなハイカラなもんだーれもしとらなんだわ。それにそんなもん、今更着けやんだってええ!」と、とにかくえらい剣幕。
それも昭和と言う時代を二分した、戦中と戦後の価値観の違いと、急激な生活様式の変化と言う、忘れ形見そのものだったのだろうか。
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ファンシーケース
子供の頃、親戚の家にありました。
家でかくれんぼする時には最適な隠れ場所❢
でも、子供だもんで、考える事が一緒
直ぐに見つかります。
我が家にもありました。タンス買うよりはるかに安くて
上にも少し物が置ける棚があって、
一度、吊り下げ過ぎて、斜めに傾いてしまい
倒れかけたので、少し掛けるの減らしました。
今でもあるんでしょうか?
そうそう、ついつい何でもかでも吊り下げちゃって、傾いちゃったものです。
そんなに頑丈じゃないのに、ファスナーを締めると見えなくなるから、ついついあれもこれもと突っ込んだものです。
今夜は名古屋港でクリスマス花火大会があったので、港の対岸まで行って見てきました。素晴らしい打ち上げ花火に久々に良い時間を過ごす事が出来て素敵なプレゼントを貰った感じです(*^^*)
そうだったんですかぁ!
知らないまま酔っぱらっちゃってましたぁ!
チリ産の800円ほどのスパークリングワインで!
ファンシーケース 使ってましたよ。
数少ない洋服をかけて なんだかちょっぴり大人の仲間入りをしたような感じ。
用もないのに 開けたり閉めたり(笑)
こういう瞬間って もうなかなか味わえない気がします。
でもなぁ〜 まだ歳を重ねていくならば ずっと同じじゃなくて 第二の大人への仲間入りのワクワク感 何か味わえたらいいなぁ〜( ◠‿◠ )
ぼくは新しい朝日を眺める度、また新しい未知なる人生が、一日分始まったんだぁーと、そう思って生きている気がします。
めくるめく明日じゃなくても、昨日の延長線であれば、シアワセシアワセ。
半世紀前に持っていました。緑色のファンシーケースを買ってまって進学先の広島に。ただし、チャックが壊れてしまい就職先の京都に来るときにはお払い箱行きになってしまったと記憶しております。今もありますか。
若者の必須アイテムの一つでしたものねーっ。
今でもちゃっかり存在しているようですよ。