
花屋の店先で紫陽花の鉢植えを見かけると、初めて傘を買ってもらった小さな頃を思い出す。

あれはまだ、小学校に上がる前のことだ。
母が黄色の小さな傘と、お揃いの黄色の長靴を買い与えてくれた。

ぼくはすっかり有頂天。
しかしその日は生憎の日本晴れ。
「母ちゃん、明日って雨降る?」。
ぼくは何度もそう尋ね、母を困らせたことだろう。
その日は渋々茶の間の片隅に新品の 黄色い傘と長靴を飾りつけ、童謡の「あめふり」を雨乞いでもするかのように口ずさんだものだ。

だが童謡では神通力を欠くのか、翌日もまたもや快晴。
ついに我慢がならず、茶の間で長靴を履き、傘を差し、畳の染みを水溜りに見立て一人遊びを始めた。

「あめふり」を口ずさみながら、クルクルと傘を回し、水溜りをピチャピチャと行ったり来たり。
だが調子良く傘がクルクル回ったのはそこまで。
「ペタッ」と鈍い音がした途端、さっきまで軽快に回っていた傘が急に動きを止めてしまったのだ。
何とも間の悪いことに、そこへ洗濯物を干し終えた母が登場。
もはや万事休すである。
「何しとるの!部屋ん中で傘差す奴が、何処におるんじゃあ!おまけに畳の上で長靴まで履いてっ!ええ加減にしとかなかんよ!………?」。
母の視線が何故か、傘の上部で釘付けに。
「ああああっ!ほれみぃ、蝿取紙が傘に巻き付いてまっとるがね!」。

せっかく買って貰ったばかりの「おニュー(昭和半ばの頃は、まっさらな新品を、英語のNewにご丁寧に「お」まで付け、そう呼んだものだ)」の黄色い傘に、蝿取紙の焦げ茶色したネバネバの膠のような液体と蝿の亡骸がベットリ。
変わり果ててしまった「おニュー」の傘。
ぼくはボロ雑巾で、何度も擦り取ろうとした。
だが擦れば擦るほど、布の織り目に焦げ茶色のネバネバがはまり込み、まるでぼくを嘲笑うかのように広がって行く。
だからか、今になってもその焦げ茶色が、梅雨明けに立ち枯れた紫陽花と重なり、遠い日のほろ苦さが鮮明に浮かび上がるのだ。

「紫陽花は健気でええもんやよ。雨に打たれてその度に色を深めて行くんやで。あんたも紫陽花が好きなんやろ?」。
金華橋のわずかに北西。

岐阜市津島町の「サワダ花店」、女将の澤田佐代子さん(81)が、紫陽花の鉢植えに魅入られたままのぼくに声を掛けた。

「ほんと紫陽花ほど雨が似合う花は、他にないな。赤にしても青いのでも、一雨ごとに色が変ってくで、庭先に置いといても飽きがこんのやて」。
佐代子さんは昭和28年に、叔父の紹介で輝義さん(81)の元へと嫁いだ。
「その5年後には、主人が鷺山で花屋を始めたんやわ」。
佐代子さんも会計事務所に勤めながら、夫を支え続けた。
「昭和47年には勤めを辞めて、ここの半分で私が喫茶店して、もう半分が主人の花屋」。
お子さんはと問うてみた。
すると「授からんかったんやわ」とポツリ。
店先で雨に咲く、淡い色した紫陽花。

佐代子さんはまるで我が子を見るように、やさしい眼差しを向けた。

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初めての傘は覚えてないけど 小学1, 2年の時は 学校指定の黄色の傘だったという事は しっかり覚えてます。ランドセルも指定の黄色(柔らかい生地で小さめのランドセル) 。
で、三年生になると自由に好きな色の傘やランドセルを使う事が出来るんです。
制服着用だったので 傘やランドセルが物凄く目立ってた記憶があります( ◠‿◠ )
懐かし過ぎて愛おしいなぁ〜
やっぱり黄色かったのは、子どもがここにいますよって、注意喚起の意味合いが大きいからなんでしょうねぇ。
それと黄色って「幸せの黄色いリボン」とか「幸せの黄色いハンカチ」に象徴されるように、幸せ色だからなんでしょうかねぇ。
思い出すのが、初めて自転車を買って貰った時
雨が降って自転車に乗りたくても乗れないはがゆさ!
初めてグローブを買って貰った時には雨!
子供の頃から雨男だったのか?
今だに旅行へ行くと1日は必ず雨!
まぁ~⤴性格はイイのに、天気だけはどうしようもない!
まぁそれも、取り用に寄っちゃー「雨も滴るいい男」とも言うじゃないですか!
あっそれって、「雨」じゃなくって、「水も滴るいい男」かぁ!
紫陽花と言えばカタツムリ⤴️以前、紫陽花の葉っばに大きなカタツムリを見かけた事があったので、ついつい探してしまいますが、そう簡単にはお目にかかれない。
カタツムリも確かにあまり見かけなくなっちゃった気がしますねぇ。
ゆっくり紫陽花の葉を伝う姿は、愛らしいものですよね。
お花屋さんに入った時の
あの一瞬の香りが良いですよねそういえば 久しくお花屋さんにも行ってなかったので
鮮やかなブログの参考写真に見入っています。
花屋さんとか果物屋さんとか、八百屋に魚屋、それに揚げ物屋。
それぞれに特徴的な匂いがありますものね。
ぼくは揚げ物屋さんや焼き鳥屋の匂いについつい絆されちゃいます。
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