「天職一芸~あの日のPoem 453」

今日の「天職人」は、愛知県碧南市若松町の「土雛師」。(平成24年2月4日毎日新聞掲載)

店先飾る雛人形 使いの途中妹が                不意に足止め覗き込む 「うちも欲しい」と涙ぐみ        千代紙着せた泥饅頭 お内裏様とお雛様             桃花白酒供えれば 泣いた烏がもうわろた

愛知県碧南市若松町で明治30(1897)年から続く、三河大浜土人形。三代目土雛師の禰宜田徹さんを訪ねた。

工房に足を踏み入れた。

そこかしこに、信長葬儀の焼香場面、嫡孫三坊師を堂々と抱く秀吉や、五条橋での牛若丸と弁慶の出会い。

賤ケ岳一番槍の加藤清正と四方田(しほうでん)但馬(たじまの)(かみ)(史実は山路将監正国)など、派手な色使いの武者姿の土雛が居並ぶ。

「三河の土雛は、昔から歌舞伎の演目を題材にしとるだぁ。これらぁは、祖父の時代の型じゃんね」。徹さんが、筆を置いた。

徹さんは、昭和25(1950)年に次男として誕生。

「祖父は身体が弱かったもんで、座りの家仕事しか出来んらぁ。でも元々造形や日本画が好きだったもんで、そんならって土雛作りを始めただ」。

高校を出ると鉄工機械製作会社に入社。

昭和49年に見合いで、西尾市出身の悦子さんと結ばれ、一男一女を授かった。

「見合いを一発勝負で決めたっただ」。

平成22年3月の定年までを勤め上げた。

「会社の仕事が嫌いだっただ。人間関係が煩わしいで。早よ定年迎えて、土雛作りたいって、そればっかり考えとったじゃんね」。

そう言えば、始終表情も和やか。

土雛の話になると、少年のように眼が輝く。

「だもんで今が一番幸せだわ。タイムカードも押さんでいいし、自分のやりたい時間に、土いじっとりゃええんだで」。

ところが、平成3年、父が老齢となり土雛作りを断念。

「昔はこの地区だけで15軒もあったのに、大浜の土雛が一旦途絶えてまっただ」。

平成12年から少しずつ、会社の仕事の片手間を利用し、土雛作りを開始。

「ちょうど父が亡くなる、2年前からだったわ。子どもの頃、父の背中を見て、真似事して遊んどった記憶を呼び戻しながら。幸いにも、祖父や父が遺してくれた型があっただもんで。やっぱりそれが、土雛師の財産だらぁ」。

そしてついに、平成22年春。

土雛師三代目として生きる、徹さんの第二の人生が始まった。

大浜の土雛作りは、河原の土を練る作業に始まる。

麺打ち棒で伸ばし、型の中へ手で押し伸ばし、表裏を形成。

「型が素焼きだで、土の水分を吸収して縮むだ」。

乾いたところで型から取り出し、3~40分天日干し。

次に表裏の縁に、水で溶いた土を塗り接着。

陰干しで2週間乾燥させ、900℃前後に熱したガス窯で4時間焼成。

そして11月~3月末頃の間に絵付け。

「膠を混ぜて絵付けするもんで、湿気は天敵じゃんね。だって膠は生き物だで、3時間ともたんらぁ」。

膠と胡粉を調合し、3度塗りを繰り返す。

「薄い色の所から順に絵付してって、最後に人形の命の顔を描くだぁ。豪傑や悪役は赤顔に、二枚目は白顔にと」。

そして銘に代え、ひらがなの「と(徹のと)」を隠し絵にして描けば完成。

就職から天職へ。

徹さんの土雛師人生は、まだまだこれからだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 453」」への6件のフィードバック

  1. 土雛作りって いつの時代から始まったんでしょうね?
    モデルとなる方へ想いを馳せて造られたのかも?
    だからこそ 作り手によって作品の表情が違うのが 作品の味なんでしょうね。

    1. 確かに気になりますねぇ。
      やっぱり庶民信仰のまじないや厄除けの要素もあったのかも知れませんよね。

  2. オイオイ⤴
    で・出た~~ぁ⤴
    わたしの落武者フィギュア!
    誰が?落武者やねぇん?
    マジで作って貰おうかな~ぁ!
    絶対!魔除けになるだろうから!
    もし?作ったら、オカダさん玄関先に置いておけばいい思うよぉ!
    だって、疫病神だからさぁ~!
    神様には変わりないもんねぇ

    1. 確かに確かに、落ち武者殿のコメントにゃあ、説得力が溢れかえっちゃってますねぇ。
      しかし「落ち武者人形」だけは、どうかどうかご勘弁を!

  3. 「今が一番幸せ!」と言ってもらえて、きっとおじいちゃんもお父さんも嬉しく思っているでしょうね⤴️

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