「ギヤマンの欠片(かけら)」No.5

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まずはぼくの楽曲「花筏」をお聴きいただきつつ、物語の世界をお訪ねいただければこの上なく幸せです。

「ギヤマンの欠片(かけら)」No.5

うらぶれた長屋が立ち並ぶ、神田明神町の一角。

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表戸の破れ障子には、やっと読めるほどの掠れた文字で、ただ「金接ぎ辰」とだけ墨書されている。

今年七つになったばかりのお藤は、母の金接ぎ作業を眺めるのが好きだった。

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欠けた甕や皿をじっと眺め、割れた小さな欠片を畳の上で繋ぎ合わせる。

それは物心付いた頃から、いつしかお藤の独り遊びとなっていた。

欠ける前の甕や皿の姿は元より、描かれた絵柄も分からぬ。

それでもお藤は、欠片を手にして語りかけ、まるでその声でも聞くように、小さな欠片同士を繋ぎ合わせてゆく。

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「あらっ?もう出来たのかい?その甕はまだついさっき、始めたばっかしじゃないか」

腕の良い職人だった、辰吉の面影を宿すお藤を見詰め、志乃はこっそり小さな溜め息を吐いた。

辰吉が忽然と姿を消したのは、路地端の枝垂桜が、色付き始めた春先の事。

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高遠藩江戸上屋敷へ、金接ぎで仕上げたばかりの絵皿を、納めに行くと言って出かけたきり、突然消息が絶たれた。

想い返せば、辰吉が姿を消す、三日前のことだった。

「ごめんなさいまし。こちらが江戸で評判の、金接ぎの辰吉さんで?」

西に向いた障子戸を、茜陽が染め始めた夕刻。

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辰吉の膝頭へ伸びた茜陽が、突如として陰った。

障子の向こうで、高遠藩江戸上屋敷の、峰と名乗る奥女中の声がした。

「へいっ。辰吉はあっしですが。なにか御用で?」

障子戸を開けると、純白の絹織物に包まれた桐箱を抱え、真っ青な顔で峰が立ち尽くしている。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「ギヤマンの欠片(かけら)」No.5」への6件のフィードバック

  1. 昨日は束の間の晴れ・・
    我が愛車っても自転車だけどねぇ
    病院まで、車だと15分ほど自転車だと20分
    そんなに大差ないけど、自転車だと渋滞に巻き込まれなくて
    スイスイ♬
    日頃の運動不足を少しでも解消 ❢
    一時間ほど、あっちウロウロこっちウロウロ
    暑かったけど気持ち良かった。
    お尻が痛かったけど、それ以外は快適

    1. ぼくの愛車も自転車ですよ。
      3年ほど前、ウォーキング中に股関節の痛みで、もう一歩も歩けないほどになった時、すぐそこにあった自転車屋さんで8.000円だったか7.000円だったかで急遽買い求めた中古のママチャリも、以来後輪のパンクが3回も起こり、最後はタイヤに亀裂が!
      ついに4月の終わりに見切りをつけ、近所の自転車屋さんで水色の新車に乗り換えました。
      こいつがまた、なかなか快適なんです。
      値段は、その自転車屋さんに並んでいた中で、2番目にお値打ちな1台です。

  2. 割れたり欠けたりしたお皿やマグカップを使うのは『運が下がる!』とか で 今はボンドでくっつけて使う事はしないで 処分していますが、思い入れのあるマグカップに限って直ぐに〔コツん〕 あっちゃ~ (⁠。⁠•́⁠︿⁠•̀⁠。⁠)
    一輪挿しにしています (⁠✿⁠^⁠‿⁠^⁠)

    以前 京都の料亭で金接ぎしたお皿が床の間に飾ってありましたが、金の線が美しかったですよ~ (⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)⁠❤

    わたし 自転車歴は50年以上 
    通勤もお買い物も、何処に行くのにも自転車 (⁠ ⁠◜⁠‿⁠◝⁠ ⁠)⁠♡

    マイチャリは26インチのカーキ色
    1年程前 後のタイヤを¥4000で交換したので もう少し頑張ってもらわないとっ (⁠灬⁠º⁠‿⁠º⁠灬⁠)⁠♡

    1. 金継が施されると、お皿にしても器にしても趣が変化して、それはそれで美しくなるものですよねぇ。
      カーキ色のチャリも素敵で、ハートさんにお似合いなんでしょうねーっ。

  3. 先日のコメントにも書きましたが 私はホントおっちょこちょいなので 今まで何度となくコップやお皿を割ってしまった経験があります。勿論自分の不注意なので誰かにあたる事も出来ず…。「ハァ〜」って言いながらの片付け。
    よく何かが割れると不吉な事が…と言いますが そういう時って割れたと同時に何かを感じる気がします。で、その前後に気になってた人に何気なく電話しちゃってます。
    元気で何事も無ければ それで良し!
    逆に「割れちゃって… なんか気になって…」と電話を頂いた事もあります。
    これって 昔の言い伝えなのかなぁ〜

    1. いやいや、やっぱり不吉に感じちゃうものです。
      形あるものはいつか壊れるのもこれまた定め。
      昔の方は、何かが割れたりすると、不吉なことが我が身に降り注がないかとか、周りの誰かに災いが置きたりはしないかと、案じたり気を付けたりするよう戒めたんじゃないでしょうか?
      斯く言うぼくももう立派な昔人間ですから、皿や茶わんやらグラスを割ったりすると、やっぱりそんな風に気になっちゃいます。

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