「100ユーロの土産」⑤最終話

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しばらくして落ち着きを取り戻し、財布の中身を確認すると、100ユーロ札1枚と1ユーロ札1枚が入っていたはずなのに、100ユーロ札だけが見当たらない。

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奴らは実に見事な早業で、100ユーロ紙幣だけを抜き取っていたのだ。

免許証やクレジットカードには、まったく目もくれず。

その夜ホテルに戻ると、妻が大声を上げて笑い出した。

「あなた、地球の歩き方のここに、ちゃんと要注意って書いてあるわよ!まったく今日のスリと同じ手口が。それと被害に合った人も、ウエストバックを腹巻代わりに巻いてたんですって。それってスリからしてみると、典型的な日本人のカモみたいよ!」。

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ちょっと待ってくれよ!

お前が免税店で買い込んだんだろう?

だが私は、その言葉をグッとこらえ、青汁のように目を瞑ったまま飲み込んだ。

せっかくの妻との久しぶりの二人旅なのだから。

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あれからはや10年。

今となってはヨーロッパの古都や観光名所での思い出は、まったくと言っていいほど忘れ果ててしまった。

だが妻も私も、「パリ」「地下鉄」の2つの単語が重なり合って耳に入った瞬間、あの忌まわしいスリ事件をまるで昨日の事のように鮮明に思い出してしまう。

どうやら旅の恥は、掻き捨てられないものらしい。

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だが私たち夫婦にとって、今となってはスリ事件こそが、100ユーロで買った忘れ得ぬ土産話となっているから不思議だ。

(完)

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「100ユーロの土産」⑤最終話」への2件のフィードバック

  1. 旅の土産話って その土地の素敵な景色や美味しかった料理や楽しかった出来事など… も勿論だけど 帰ってから思い出す事って 意外にも些細な事が多い気がします。
    あの人とこんな会話したなぁ〜とか あのハプニング笑っちゃったよね〜とか。
    なんだかとても贅沢な気がします。
    旅の楽しさに幾つもの気付きの土産話がプラスされるわけですから。
    やっぱり旅って 自分自身をほんのちょっぴり成長させてくれるもののような気がします。

    1. いやいや、確かに仰る通り!
      旅って、自分の価値観の方向を、自分で再確認させてもらえる、そんな唯一無二なもののような気がしちゃいます。
      旅にでたいなぁ。
      ぶらりと、のらりくらりと・・・。

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