
「おいッ基喜!美代とふざけてないで、さっさとジャガイモとニンジン洗って来いよ!」。
兄の裕也は、慣れない手つきで玉ねぎを刻みながら、そう言って基喜を横目で睨みつけた。

「じゃあぼくにも包丁使わせてよ!」。
基喜は砂まみれの手を、半ズボンで払い落としながら兄に食い下がった。
「だったら言われた通り、さっさと洗って来いよ!」。
裕也は包丁の手を止め、基喜に向き直って怒鳴った。
砦岬キャンプ場は、その名の通り岬の突端に築かれた砦跡を、オートキャンプ場に整備しなおした所で、英虞湾を眼下に見下ろす絶景が売り物だ。

今日のキャンプ場は、お盆の最終日と日曜日が重なったせいか、名古屋や関西からのキャンパーもそれほど多くはない。
スーパーマーケットの名前が入ったプラスチック製の買い物篭を抱え、基喜は一目散に洗い場を目掛け走り去った。

「オニイチャン。ミオもホウチョウでお野菜切るの!」。
美代はまだ幼稚園の年少さんのため、母音と子音の区別がつかずミヨをミオと呼んでしまう癖がある。
「ミヨちゃんがお野菜切るのは、ちょっと危ないんじゃないでしゅかあ!」。
裕也は弟の基喜に接する態度を豹変させ、思わず鸚鵡返しに幼児言葉で応えた。
「いやッ!ミオもホウチョウしゅるもん!」。
美代は今にも泣き出しそうな目で、裕也を見詰めた。
「わっ、わかったから、泣いちゃだめだよミヨちゃん。後でお兄ちゃんと一緒に、ニンジンさんを切ろうネッ!」。

裕也は美代の正面にしゃがみ込んでなだめた。
「いやッ!ミオ一人で出来るもん!」。
「だ、だって・・・もしも包丁でお指とか切っちゃったらさあ、お指から真っ赤な血が出ちゃって、イタイイタイになっちゃうよ。だから・・・ネッ!」。
ビェーン ビェーン ビッエーン
美代は立ち尽くしたままの姿勢で、大声を張り上げて泣き出した。
それまでカナカナカナと木立で泣き続けていた蜩時雨が、一瞬やんだ。
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包丁って
いつ持ったきりだろうか?
世の奥様方を敵に回すくらい持ってないし
使っていない・・
リンゴの皮を剥かせれば、剥き終る頃には
リンゴの色が茶色に変色
ダメな亭主だと自分でも分かっているけど!
どうも料理が苦手で・・
その点オカダさんが羨ましい!
そういう昭和チックな亭主関白=男子厨房に立ち入らず的なのって、ぼくのような軟弱者には羨ましい気がしちゃいます。
でもやっぱり軟弱者は、ついついキッチンに立っちゃうんですよねーっ。