白鳥駅界隈「奈々ちゃん女将の民のお宿」
「一己さん、今夜のお客さんは6人やで、今日は鮎6匹お願いね」。
「おお、そやな」。
これだけを聞いていると、魚屋の御用聞きに小料理屋の女将が、まるで川魚でも注文しているかのようだ。
ところがここは何と民宿。
遅がけの朝食を終え、両足を投げ出しながら、テレビのワイドショーを眺め茶を啜っていた。
その時、お膳を片付ける女将の奈々ちゃん(70歳)が、勝手口で釣り道具の準備に余念の無い、主の一己さん(74歳)につぶやいたのが、冒頭の件である。
郡上市白鳥町の民宿さとう。

夫の佐藤一己さんと、奈々子さん夫妻だ。
つまり今夜の宿泊客の夕餉用に、最低でも6匹、塩焼き用の新鮮な鮎を釣って来るよう、奈々ちゃん女将が夫に促し、阿吽の呼吸で一己さんが応じたもの。
間も無く金婚式を迎えるという二人は、今でも互いを「一己さん」「奈々子」と、ファーストネームで呼び合うほどの鴛鴦ぶり。
「裸電球の下で、この人とお見合いしたんやて。だから暗くって、顔なんかよう見えんかったわ。でも叔母が『奈々子、オリがまんだ若かったら、絶対一緒になったぞ。背も高いし顔もええし、まるで白鳥町の小林旭や』って言いないてねぇ。その言葉を鵜呑みにしちゃって、昭和37年に嫁いで来ることになったんや」。
民宿の開業は、昭和26年。
「最初の頃は、油坂スキー場の民宿として、冬場の土日だけやったそうや。私が嫁に来た頃は、まんだ夜中に竃でご飯炊いとって、スキー客のお昼用におにぎり握ったもんやて。湯沸かし器なんかあれへん時代やったで、水は指が切れるほどに冷たいし、腕まで真っ赤に皸たもんや」。

まさに高度経済成長の上り坂。
週末には、愛知からのスキー客でごった返した。
「やがてダム建設や道路工事の関係者がようおいでんなってな。それにスキー客や釣客からも頼まれて、通年で民宿を営業するようになったんやて。だから工事関係の長期滞在の人なんかやと、1年近く泊り込む方もおった。もうそうなるとお互い心が通じ合うし、いつの間にか家族の一員みたいやったわ。一緒にご飯食べたり、花見に行ったり、洗濯物を一緒に干したりして」。
奈々ちゃん女将は、窓から国道を眺めながら、懐かしげにつぶやいた。
まさしく民の宿を地で行く、そんな溢れ返るほどの温もりに満ちている。
そんな民宿さとうは、1泊2食付き6800円。(2011.9.13時点)

「夏の夕食は、一己さんが前の長良川で釣って来た、鮎、岩魚、アマゴの塩焼きや煮魚やったり、自家製のケイチャンやったり。後は山菜や田舎料理の小鉢があれこれついて、まあ早い話、お任せやね」。
冬場は川魚に代わり、猪鍋が食卓を彩る。
「あんたも夕べ食べなはったやろ、家のケイチャン。これは、昭和40年頃から作り出したもんで、地元の人らにも人気で、わざわざケイチャンだけ買いに見えるくらいやで」。

カシワのモモ肉のぶつ切りに、糀味噌に胡麻、ニンニク、唐辛子、お酒、調味料で味付けたものを、キャベツ、モヤシ、ニラ、玉ねぎ、ピーマン等の野菜と一緒に、目の前で豪快に焼いて食べるものだ。
まったりとした甘さにピリ辛が交じり合い、酒もご飯も進む逸品。
「泊まられた方が夕食で食べなはって、帰りにお土産で持って帰られる人もおるほどやに」。

奈々ちゃん女将の民の宿では、三つ指で傅き客を出迎えることなど無い。
だがそれ以上に値千金の、普段着在りのままの笑顔と真心で、何人をも出迎え包み込んでくれる。
民宿さとう/郡上市白鳥町向小駄良
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この店って
どこか見覚えがあると思うけど
オカダさんが白鳥でライブやった時の
ひょっとして打ち上げのお店?
だったら、オカダさん「ふきのとうの天ぷら」
ビール片手に美味しい美味しいって食べてましたよねぇ!
それを見て私も塩を付けて頂きましたが
少し苦味があってとても美味しかった覚えがあります。
こう考えてみるとオカダさんとの思い出って
結構ありますねぇ!
これからもオカミノファミリーの皆さんとご一緒に
想い出作りをしましょう!
素晴らしい記憶力ですねー。
原酒造場の蔵開きLiveの二次会でしたねー!
よく吞みましたーっ。
今年も2~3週間前に、郡上からふきのとうが送られてきて、さっそく天ぷらとフキ味噌で熱燗をキュ~ッと煽りましたーっ!