ゆいぽおと「 長良川鉄道ゆるり旅」2011.9.13 ⑰

万場駅界隈「目から鱗の米ジャム醸造元」

ちょっと一服のつもりで、「古今伝授の里やまと」と言う、道の駅に立ち寄った。

写真は参考

天然温泉もあるという立派な施設。

何かご当地物の土産でもと思い立ち、売店に並ぶ品々を興味深く物色していた時だ。

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どれもこれも、あちらこちらの道の駅で見かけるものばかりの中に、「わしだて。わし。わしをはよ見つけんかて!」と、凄まじい気を発しながら、語りかけて来るような瓶のラベルに目が釘付け。

そこには、なんと「米ジャム」の文字。

何だ?

お米のジャムってか…。

一旦はそう見切りを付け、通り過ぎた。

だが、待てよ?

お米のジャムって、まさか米がジャムになるはずもなし、しかし一体全体どうゆうものなのか?

しがない物書きの哀しい性か、こうなるともう確かめずにはいられない。

さっそく瓶を手に取り、裏のラベルで製造者を確かめた。

この、世にも不思議なお米のジャムとは、果たしてどんな味なのか?

確かめるには、一瓶550円を投資しなくてはならない。

残念なことに、見渡す限り何処にも、米ジャムの試食は見当たらないのだからして。

とは言え、いきなり大枚550円を叩いてみても、もしもそれに値する味でなかったとしたら…。

この身も凍り付くような不景気なご時世、そんな大博打に打って出ることも敵わぬ。

斯くなる上は、製造者の欄に記された、畑中商店へと乗り込むより手立てはない。

徳永駅へと戻り、北濃行きの列車を待つ。

やがて長良川の西に広がる田園地帯の中に、ポツンと佇む万場駅へと列車は滑り込んだ。

長良川鉄道と東海北陸自動車道とに挟まれた長閑な田園には、郡上大和ほたるの里公園が整備されている。

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夏になれば、街灯もほとんどないこの里山の地に、源氏蛍が幻想的な光を放ちながら乱舞することだろう。

そんな風雅な光景に思いを巡らせながら、白鳥板取線を北上する。

しばらく進むと、右側に造り酒屋を思わせる、大きな古民家が現れた。

道路脇の小さな小屋に、畑中商店(醸)と記されている。

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どうやらここが直売所のようだ。

入り口からガラス戸越に中を覗き込むと、真正面に道の駅で見つけた米ジャムの瓶が並んでいる。

「あれなあ、家の田んぼのコシヒカリと麹で作った、お米の甘さだけで出来とるジャムやさ。パンにちょっとバター塗って、その上に米ジャムを載せると、これがまた絶品もんやて」。

郡上市大和町万場で大正中期創業の畑中商店(醸)、糀職人の畑中雅喜さん(61歳)が、引き戸を開け店の中へと(いざな)った。

「昔は、『かうじ屋さん』って呼ばれとったんやて」。

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本家の地下には、糀を発酵させる室が今も残る。

「糀屋は冬の間の仕事やで。後は米作りやさ。昔はそれぞれの家々でも、糀を使ってくれとったで、糀だけ造って売っとったんやて。ところが年々糀の需要が落ち込んで、それで酒粕の甘酒やなくて、米糀だけで甘酒造ったり。でも今の若い者らには、好まれんでいかん」。

雅喜さんは苦笑い。

「何か米麹を活かした、特徴のある物が作れんもんかと思って。たまたまパンに甘酒をちょっと付けて見たら、これが何とも不思議な味わいで、中々のもんじゃないかって。それで秋口から試作を始めて半年。でもまだ味が定まらん。最初の頃は、パンが米ジャムを吸ってまうし。でも味は上々の評判やった。まあ、何はともあれいっぺん召し上がってみて」。

妻の美里さん(49歳)が、パンにバターを薄く塗り、米ジャムを載せて差し出した。

製造者夫婦の4つの(まなこ)に見つめる中、食パンに齧り付く。

程よい酸味とフルーティーな甘味が交じり合い、これまでに体験したことの無い、爽やかでまろやかな食感が口の中に押し寄せる。

イチゴやブルーベリーといった、果実が持ち合わせる酸味とは一味異なり、仄かな酸味が米本来の甘さを見事に引き立てている。

稲作文明が渡来して以降、弥生人のご先祖もさぞかし吃驚仰天の、初の快挙ではないか。

これぞ正しく、目から鱗の米の加工食品だ。

「決め手は、米糀が一番甘味を出すところで火入れし、全部の糀菌を殺さんと、そのまま菌を生かしたまま止めることやて」。

米麹職人としての、永年の勘だけが頼り。

それ以下でもそれ以上でも、生きている米麹の甘味の匙加減は、季節によっても微妙に異なる。

「それと決め手のもう一つは塩。お米に糀を混ぜて発酵させ、最後に煮上げる時の隠し味やね。ほんの一振りの塩が、お米の甘さを際立たせるんやで」。

美里さんは夫を見つめた。

米と糀。

夫と妻。

そしてパンと米ジャム。

1つが2つになることで、倍以上の旨味も生まれ出でる。

畑中商店(醸)/郡上市大和町万場(2011.9.13時点)

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「ゆいぽおと「 長良川鉄道ゆるり旅」2011.9.13 ⑰」への8件のフィードバック

  1. 大和の道の駅・・
    数ヶ月前に行きました。
    売店の奥へ行くと、喫茶店と、ちょっとお食事処があって
    そこで食事をしたんですが、店員さんが
    地元の主婦の方達でその会話を聞いて
    方言を聴いて、お嫁様が懐かしがっていました。
    落ち着くんでしょうねぇ!

    1. そうですって!
      ネイタィブな空気感に、言葉のイントネーションってとってもとっても重要な要素ですもの。
      そりゃあそりゃあ、姫様孝行をなさいましたねーっ。

  2. お米ジャム、どんな味がするのでしょうかぁ?市販品のジャムと異なってほのかに酒の匂いがするのでしょうか。グルメとやらに浮かれとった自分がすこし恥ずかしいです。

    1. ちょっと甘酸っぱくって、それでいてどこか懐かしく優しい味わいだったと記憶しています。

  3. 私なら素通りしてしまいそうです。
    トーストにバターにパラリと岩塩にハマってますけど これはからだに良さそう〜ですね。

    今日の天気予報は晴れるけど寒いって どんな天気だったかしらと思っていたらほんとに寒くて晴れてました。寒さをすっかり忘れていました。

    1. バタートーストに岩塩パラッですか!
      何だかビールにも合いそうですねぇーっ。

  4. 米ジャム ちゃんと聞いてみないとわからないもんですね⁈
    お米のアイスクリームがあるんだから お米で作ったジャムでしょ⁈ って思っちゃいますよ( ◠‿◠ )
    麹が入ってるなら 料理にも使えそうな気がしますね。

    1. お米のビールなんてぇのもあるみたいですからねーっ。
      いずれにしても日本人には不可欠な「お米パワー」ですものね。

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