岐阜新聞「 トーキングフラッシュ」2010.12.17

二学期が終わると、妙に心も浮き足立った。

今ほど豊かではなかった昭和の半ば。

だがクリスマスには、バタークリームのデコレーションケーキが、小さいながらも食卓に上った。

写真は参考

しかしその前には、避けて通れぬ通信簿のご開帳。

お小言と大目玉の儀式が待ち受けていたものだ。

クリスマスが終わると、母はお節の準備。

田作り、金団、煮物に昆布巻き。

写真は参考

火鉢の上ではいつも、鍋がコトコトと音を立てていた。

夜更かしの楽しみは、父と差し向かいで五目並べ。

母が煮物作りに精出す火鉢の傍らで、水でふやかす前の白豆と黒豆を碁石に見立ていざ勝負。

写真は参考

だがやはり父には敵わぬ。

ついに見るに見かね、母が隣で指示を出した。

「阿呆。そこやないって、そっちやわ」と、ぼくの打ち手を菜箸が指し示す。

「人のは、よう筋が見えるもんやて」と、母は岡目八目を地で行きご満悦。

挙句に「あかんて!もう、ちょっと貸しゃあ」と、白豆を奪い取った。

以来、お節の煮豆を見るたび、あの日の口惜しさが今も甦る。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「岐阜新聞「 トーキングフラッシュ」2010.12.17」への11件のフィードバック

  1. バタークリームケーキ
    今の若い人は「なにこれ~ぇ?」って感じでしょうねぇ!
    自分達、子供の頃はこれが当たり前だったけど・・
    時代と共に食材も変わって・・
    口が贅沢になって
    バタークリームのケーキは食べたくない!
    そもそもデコレーションケーキも食べなくなった
    ショートケーキを2・3個食べた方が満足度が違う!
    それと、どうしても食べられないのが
    おせち料理の「伊達巻」なんか?苦手!

    1. でも時折りぼくでさえ、バタークリームのケーキをほんの一口ほど味わってみたいと思うことがあります。
      きっと両親と過ごした、誕生日やクリスマスの味がしそうな気がして・・・。
      そういやぁぼくも、おせちの伊達巻は苦手です。

  2. オカダさんの文章から、ご家族の姿が浮かんでまいります。ウチも似たようなものでした。ノスタルジーではなく、あまりにも希少価値的なものだったと考えます。

    1. それがそれぞれのご家庭に存在した、家族模様なのかも知れませんよねぇ。
      齢を重ねる度に、ますますそんな郷愁の中に身を投じたくなってしまいます。

  3. バターケーキとゆうだけで懐かしくて幸せな気持ちになりますね。バラも銀色のつぶつぶにも夢が詰まっています。ひとくちだけ食べてみたいです。

    1. そうでしょう!
      ほんの一口くらいにしとかないと、胸焼けしちゃいそうですものねーっ。

  4. バタークリームケーキは小学生のとき、クリスマスの給食に付いていた記憶があります。しかし、生クリームケーキの味を知ったら、もうバタークリームケーキには戻れませんでした。それほどに、生クリームケーキは衝撃的な美味しさでした。ところが、オジイになった10年ほど前、無性にバタークリームケーキを食べたくなり、ググッて知った情報をもとに通販で北海道から取り寄せました。やって来たケーキ、ほのかに、ワックス状の香りがして、期待どおりの味でした。

    1. やっぱりねーっ。
      同感です!
      しかしお取り寄せの1ホールは、さすがに持て余されちゃったのでは?

  5. わ~  デコレーションケーキ! 

    Happybirthday ♪♪♪

    『落ち武者殿 お誕生日おめでとうございます』 (⁠ ⁠◜⁠‿⁠◝⁠ ⁠)⁠♡ 

    1. そうかーっ。
      落ち武者殿のお誕生日でしたかーっ!
      場違いですが、この場をお借りして、とりあえずお祝いしときましょうかーっ。

  6. いや、生来の卑しさゆえ小ぶりのデコレーションケーキは食べてまいました。またぞろ、食べたくなりました。気分だけでも、昭和40年代に戻れます。

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