毎日新聞「くりぱる」2006.6.25特集掲載①

素描(スケッチ)漫遊(まんゆう)(たん)

「三重県松阪市中町界隈」

「ところでさあ、あのポスター!松阪祇園まつりだって。何か京都に来たみたいだなぁ」。

写真は参考

商店のウインドーに貼られたポスターの前で立ち止まった。

「粋だよね!揃いの法被に、捻じり鉢巻きと玉の汗」。

「世界に負けないくらい頑張ってる日本の原点って、もしかしたらコレかも。老いも若きも貧富の差もなく、分け隔てなく法被一枚を羽織り、同じ時間、同じ重さの神輿を無心で担ぎ上げる。生まれてなんてないけど、もしかしたら敗戦直後の健気に生きた、一途な日本人の姿が現われてるのかも。明日や、ましてや明後日の事なんて誰も思いもしないで、今日を我武者羅に生き抜いた。そんな心の欠片を、祭りの掛け声が紡ぎ上げるんだろうか?」。

「平成元年に再興した、松阪祇園まつり三社みこしの担ぎ手は、年々増加してましてねぇ。今では千人を越えるほど」。

優しそうな笑みを浮かべながら、ぼくの独り言を相手にする紳士。

松阪祇園まつり三社みこし世話人会の会長、松田武朗さん(50)だ。

「まあここじゃあなんですから、中でお茶でも」。

松田さんはそう言うと、こともあろうか恐れ多いあの「和田金」店内へと、我が物顔でズカズカ。

写真は参考

ぼくはただただ気圧され、タジタジと付き従うのがやっと。

「いらっしゃいませ~っ」。

居並ぶ仲居さんに(かしず)かれ、妙にこそばゆいことこの上なし。

「まぁ、お気楽に」。

そう言って、松田さんは2枚の名刺を差し出した。

1枚は世話人会のもの。

しかしもう一方には、和田金の専務とある。

「大変な方じゃないか!」。

またもやタジタジ。

「たまたま生まれた家がここだっただけ」。

でも何で松田さん()なのに『和田金』?

ぼくの素朴な疑問は止め処ない。

何でも初代の松田金兵衛が、東京深川の料亭「和田平」で修業し、その暖簾分けからとか。

写真は参考

「今年の松阪祇園まつりは、7月15日の宵宮に始まり、16日の本日(ほんび)にかけ、町中に『チョーサヤ』の掛け声が響き渡りますんさ」。

明治の中頃に始まった松阪祇園まつりは、八雲神社と松阪神社の神輿が町衆の手によって担ぎ上げられ、熊野街道と伊勢街道の交差する神々詣での追分、日野町交差点を縦横に練り歩いたものだったとか。

写真は参考

「昭和40年頃、魚無川(さかないがわ)にかかる大橋で、神輿同士が擦れ違えずに睨み合いんなってさ。酒も入っとるしでいつしか喧嘩んなって、片方の神輿と担ぎ手が川底へ転落する事故があったんやさ。それ以来、事故が起きたらかなんで、平成まで車で神輿を曳いとったんさ」。

「魚無川って本当に魚がいないの?」。

「何でですやろ?ちゃんと魚も泳いでますんやけどなぁ」。

平成元年、青年会議所のメンバーだった松田さんらが中心となり、御厨(みくりや)神社を加え三社の神輿を担ぎ出し、以前のように町衆の手で担ぎ練る現在の祇園まつりを復興させた。

但し、飲酒はご法度。

今では岐阜からもバスを連ねて参加者が訪れるほど。

担ぎ手たちの宿には、和田金の幻商品「松阪牛入りそぼろ巻寿司」が差し入れされるとか。

写真は参考

梅雨明けを待ち侘びる神々詣での追分、日野町にこだまする『チョーサヤ』の掛け声。

一説には、「千代に栄え」が転じたものとか。

町衆のささやかな願いは、「チョーサヤ」に託され神々へと続く街道に大きく木霊する。

和田金 松阪市中町

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「毎日新聞「くりぱる」2006.6.25特集掲載①」への2件のフィードバック

  1. 松阪って
    松阪の方には申し訳ないですが
    何故か?通り過ぎて・・
    伊勢・鳥羽・志摩方面へ行きます。
    岐阜もある意味、岐阜市内は通り過ぎて
    郡上・下呂・高山方面へ行くもんねぇ ❢
    知らないだけで、松坂もイイ所がいっぱいあるんだと思います。
    その点、岐阜市ってイイ所あるか?
    多分「灯台下暗し」だと思うけど
    強いて言えば・・
    岐阜市内にヤマもモが住んで居る事くらいかな~ぁ⤴

    1. 気ままに途中下車しながらの、のらりくらり旅も良いもんですよーっ。
      旅のガイドブックにも載っていないような、名も無い駅には、それなりの新発見がテンコ盛りですよ!
      そのためにゃあ、特急電車ってぇ訳にゃー行けませんけどね。
      あーあ、のらりくらり旅にでかけたいなーっ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です