毎日新聞「くりぱる」2005.3.27特集掲載①

素描(スケッチ)漫遊(まんゆう)(たん)

「愛・地球博 サツキとメイの家」

真っ黒クロスケも、トトロもここにはいない。

バス停で待てど暮らせど、ネコバスなんて来るはずも無い。

そんなことは、最初からわかっていた。

でも昭和30年代前半にこの世に生を受けたぼくは、この場所を目指し人ごみを掻き分けた。

「ええっ?本当にここがそう?」。

「なんかちょっと期待はずれ?」。

ぼくの周りからも、そんな声がこぼれ出した。

ここは、愛・地球博長久手会場の森林体験ゾーンにある、サツキとメイの家。

写真は参考

それが証拠に、「草壁」の表札が門柱に掲げられている。

そう、あのアニメの名作、宮崎駿監督の「となりのトトロ」に登場する、サツキとメイの家だ。

森の中に再現された草壁家は、実際に昭和初期の建築手法が用いられ、エイジングと呼ばれる経年変化加工を施されたものだとか。

「ああっ!」。

井戸小屋の奥で、懐かしいブリキのバケツを発見。

写真は参考

バケツの底を双眼鏡の要領で覗き込み、森の中で何かを必死に探すものの・・・やっぱりトトロは見つからない。

写真は参考

ブリキのバケツの底板が、腐食してスッポリ抜け落ちている。

いや、これがその経年変化加工とやらか?

或いは田舎の納屋の片隅で、忘れ去られていたものをスタッフが探し出したものか。

いずれにせよ、アニメに登場するバケツそのままのようだ。

周りを見渡せば、重厚な丸石の自転車サニーロードに、(たらい)に洗濯板、亀の子束子にミヨシの固形石鹸。

いずれもぼくらの、まぎれもない昭和のブランド品が、さり気なく放置された様にそっと展示されている。

縁の下には、当時の住人が置き忘れた?昭和のガラクタも。

和式トイレの金隠しの向こうには、明り取りの窓まで忠実に再現されている。

でも、何かが違う!

アニメの世界の、スターたちがいないからではない。

あの時代を生きた者にしかわからぬ、暮しの中に漂う匂いが、身近に感じられないからだろうか?

或いは、住居から染み出でる、家族の匂いとでもいうべきだろうか。

写真は参考

とにかくもうぼくらの昭和は、それほど遠くへいってしまったのだ。

21世紀最初の環境万博とか。

会場のあちこちでは、世界最新の技術力がしのぎを削りあっている。

そんな中にあって、あの敗戦の凄まじい傷を癒し、高度成長へと向かった昭和中盤の、明日信じて生き抜こうとした時代を映し出す「サツキとメイの家」。

世界からこの場所を訪れる人々の目に、今の日本の繁栄を築いた人々が、雄々しく生きた昭和の残像は、いったいどんなメッセージを持って語り掛けるのだろうか。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「毎日新聞「くりぱる」2005.3.27特集掲載①」への8件のフィードバック

  1. アニメ・・
    大人になると、トンと興味がなくなって
    全く見なくなった。
    なんでやろ~ぉ?
    今、絶賛上映中「シン○○○○マン」
    空想特撮映画だそうで、空想力が乏しくなってきたせいか
    子供の頃は空想に胸膨らませてドキドキしながら見てた。
    アカ~~ンねぇ ❢
    頭が固くなって!

    1. そう言われて見ると、確かに子どもの頃って、現実と空想の狭間で、あっちへ行ったりこっちへ来たり、難なく自然体で出来ていた気がします。
      しかし大人になるにつれ、常に現実ばかりを直視するばかりに、空想することそのものが虚しく思えちゃうんでしょうかねぇ。

  2. サツキちゃんとメイちゃんの優しいお父さんの声が聞こえて来そうです。
    大人気でしたもんね。
    実際に行ってみるとそんな感じだったんですね。

    庭にあの木 ありましたよ。
    あの木の葉っぱで 父は何故かハエ叩きを作っていました。
    いつの間にか無くなってましたけど 実家の庭からニョキニョキ生えて いたので鉢に植えかえました。(あまり大きくするとお手入れが大変だと知ったので)それから車で美容院に行く途中に山の中を走りながらあの木を見つけると こんな山の中で成長したね〜って思いながら 走っています。

    1. なんともほのぼのとして、ゆったりとした時間が流れているような、昭和が舞台の物語でしたものねぇ。

  3. 『サツキとメイの家』を見ましたよ。確か、抽選で当たって。ただただ抽選に当たったことに感激してた⤴️
    今月、ジブリアニメ作品のミュージカルを観に行きます。アニメの世界をミュージカルに!! どのように造られているのか今からワクワクです⤴️⤴️⤴️

    1. いやいやぁー、さすがにアクティブですねぇー!
      ミュージカル、楽しんで来てくださいねーっ!

  4. オカダさんおはようございます(^-^)/
    ご無沙汰してます。私は元気ですよ(^-^)
    サツキとメイの家は行きましたよ(^-^)
    姪っ子(園児年中と小学校一年生)二人連れて電車で名古屋まで行って地下鉄で藤が丘まで行って藤が丘駅からリニモに乗って目的の駅で降りてそこから歩いてサツキとメイの家まで行きました。見ていても飽きないし映画が観たそのままのイメージで姪っ子達は凄く喜んではしゃいでいました。今年も新たにジブリが始まるので行こうと思ってます。姪っ子達はもう社会人で今はもう興味ないので行かないと言っていたので私ひとりで小旅行(日帰り)でも行こうと思ってます(^-^)/ 今から楽しみです(*^ー^)ノ♪

    1. お元気そうで何よりです。
      ぜひ小旅、楽しんで来てくださいねーっ!

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