毎日新聞「くりぱる」2004.1.25特集掲載②

素描(スケッチ)漫遊(まんゆう)(たん)

『裸男の先達』

「わしゃあ、まぁひゃあ19の頃から籤引いとったでねぇ。そんでやっと3度目で、神男の当り籤引き当てたんだて」。

30年前に神男を務めた、稲沢市六角堂東町の大野善光さん(51)は、ソファに深々と腰掛けた。

何とも存在感のある御仁である。

現在は、歴代の神男を務めた者だけにしか、入会が認められない「鉄鉾会(てつしょうかい)(鉄鉾=木刀と大鳴鈴を結び付けた六尺を越える大榊)」の副会長を務める猛者の一人だ。

「親父が鉄鉾会の前身だった親睦会で、神社のお勝手仕事を手伝っとったんだわ。んだで、わしは1歳と8ヶ月ではだか祭りにデビューして、お婆さんが死んだ年もここへ来とったほどだでなあ」。

大野さんの身体には、はだか祭りに血を(たぎ)らせた男達のDNAが、余すことなく受け継がれているのかも知れない。

小学4年生の年、父が最年長で神男を務めた。

「ほんなもんおめえさん、次の日教室の廊下でわしを神男に見立てて、皆で押し競饅頭だもん。あん時はやっぱり、親父が誇らしくってなあ」。

それから11年後、3度目の儺追人(神男)選定式の籤引きで、見事大役を手中に。

いよいよ儺追(なおい)神事のクライマックス、午後3時。

8000とも10000とも言われる褌姿の裸男たちが、辻々から沸き出でるように現れ、神男に触れ厄を払おうと国府宮神社の境内へと押し寄せる。

写真は参考

「身体中、尻の毛までそって、生まれたまんまのフリチン姿で、神守りの男に守られながら、怒号と興奮で咽返す熱気の渦の中へ放り込まれるんだで」。

儺追殿までのわずかな距離に、幾重にも待ち受ける裸男たちの人垣。

何処をどう進んで行ったかの記憶など何処にも無い。

ただ神守りの男たちの介添えに身を任せるだけ。

大野さんは途中で転倒し、その上に40~50人の裸男達が覆い被さった。

「『まぁかん』と思った瞬間、神様が救いの手を差し延べてくれるんだて。みんな神男は心ん中で『お母さん助けて』って叫んどる筈だわ。お母さんこそが、神様なんだで。そんで最後の力を奮い立たせるんだて」。

全身泥まみれになりながら、儺追殿に逃れた頃は既に放心状態とか。

写真は参考

「土饅頭を口ん中入れられるは、尻の穴に石な詰められるわ。まあもたんぜ、そりゃあ。気がついたら金玉袋が裂けとってなあ、2針縫う名誉の負傷だって。そんでも袋の皮が皺くちゃだもんで、1ヶ月もひっつかんで往生こいた」。

30年前の神男が豪快に笑った。

ありとあらゆる人々の厄を一身に担い、命懸けで神男を務める国府宮の「お祭り男」。

神男の大役を終えたばかりの男の帰りを、ひたすら無事を祈り待ち続けた人がいた。

同級生の広子さん(故人)だ。

大野家に婿入りする形で二人は結ばれ、1男1女を設けた。

「神男が婿に来たって、そりゃあもう、親戚中が鼻高々で。神男なんて、ただのオッチョコチョイでオタンチンなだけなのに」。

昔話に猛者も、思わず照れ笑い。

神男を取り巻く環境は、昔と今では大違い。

農業が中心だった頃の、農閑期の時代であれば、神男が行事で拘束される1週間程度も、それほど気にならなかっただろう。

しかし現代では、神男もサラリーマンだったりする。

「まぁ会社も地域も、みんなはだか祭りを認め合っとるってことだろうな。だから『自分が神男をやった』んじゃなくって、『やらせてもらった』って謙虚な気持ちが無いとかん」。

郷土の祭りを、命懸けで愛する歴代の神男。

どれも国府宮の神に選ばれた、千年の歴史に恥じぬ男たちの凛々しい素顔だ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「毎日新聞「くりぱる」2004.1.25特集掲載②」への8件のフィードバック

  1. 話は変わりますが
    昨日18日、3回目のコロナワクチン予防接種に行って来ました。
    相変わらずお年寄りが多いな~ぁ⤴
    と、心の中で思って順番待ち・・
    「フ~ゥ」っと考えたら、3回目のワクチン接種?
    間違いなく、お年寄りの仲間だと・・
    イカンね~ぇ⤴
    自分は若いと勘違いしたら
    67歳の準高齢者だと自覚しないと❕

    1. でもよかったじゃないですか!
      3回目の接種も無事に済ませられて。
      ぼくなんてまだ予約券も届いていませんよ。
      とにかく元気でいてくだされば、それで万事良しとしたものですって!

  2. テレビの映像からでも熱気が伝わってきて男の世界ですねぇ。でも、掴める物は何でも掴まれちゃうんでしょ。ヒェ〰、痛そうなんだけど(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

    1. ぼくなんてヘタレですから、とてもとてもあの群衆の中に飛び込む勇気すらありませんねぇ。
      噴き出したアドレナリンの量って、一体全体いかほどになるんでしょう?

  3. やっぱり お祭りには歴史を感じます。
    男が…女が… とは言いたくないけど さすがにこのお祭りは 立ち入る事が出来ないですね。只々 怪我のないように見守る事しか。
    「やらせてもらった」という謙虚な気持ち…。
    そう!謙虚な気持ち 忘れないようにしないと(笑)

    1. 大役を果たし終えて、やっと地域の男として認められるような、そんな誇らしさがあるんでしょうねぇ。
      今日も謙虚に生きようっと!

  4. 私も 3回目のワクチン接種 19日 無事    済ませできました (◍•ᴗ•◍)

    65歳未満なのに なぜ (?_?) 
    1度目が 職域接種で6月でしたから8ヶ月経過 (◡ ω ◡)  

    今回は職場でも 全員分が確保できない為 個人で 初めての病院での接種となり ちょっと不安でしたね 〰 (●´⌓`●) 

    前回同様 腕の痛み 次の日は微熱 倦怠感 腰痛  
    でも 今日は無事に出勤  ほッ❣
    (◠‿・)—☆

    国府宮のはだか祭りの なおい布 私も財布に入れてありますが、コロナが落ち着かないと 行けな 〰〰 い   
      .·´¯`(>▂<)´¯`·. 

    1. お早い3回目の接種でしたねぇ。
      でも副反応も軽かったようで何よりでしたねぇ。

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