「鼾封じにウルトラハンド」

ググッ グッ ガガァアー。
夕餉のビールで酔っぱらったお父ちゃんは、真っ赤な顔で座布団を枕に大鼾。
「もう、せっかくええとこやのに!」と、母はTVのボリュームの摘まみを捻る。

「もう、煩そうて敵んで、あんたがサッチャンから借りて来た、あれでお父ちゃんの鼻摘まんだり!」と、お母ちゃんはぼくを促した。
ググッ グッ…。
「あいたたた!」。
サッチャンから借りて来た、ウルトラハンドの先っちょの吸盤で、見事お父ちゃんの鼻を摘まみ上げた。

すると「ちょっと面白そうやな。どれ、お母ちゃんにも貸してみ!」と、ウルトラハンドを奪い取るではないか。
「あいたたた!」。
寝ぼけ顔のお父ちゃんの頬っぺが、ウルトラハンドの先っちょの吸盤で、見事につねくられ羽二重餅のようにビョ~ンと伸びた。
「ちょっと、なっ、なにすんのや!」と、いとも情けないお父ちゃんの顔。
お母ちゃんとぼくは、腹を抱えて大いに笑い転げたものだ。
「ねぇねぇ、これ。何や知っとる?」。
サッチャンは神社の境内で、自慢気に風呂敷に包んだ、真新しい箱を見せびらかした。

箱には、「ウルトラハンド」の文字と、子どもの兄弟がウルトラハンドなるものを操り、帰宅した父親のカバンを摘まみ上げ、大はしゃぎしている絵が描かれている。
「こうやって両手で、このグリップを掴んで、両手を合わせると、ほら!」。
サッチャンは得意満面な顔で、どーよとばかりに、ウルトラハンドなるものを巧みに操り、境内の渋柿を捥ぎ取った。
「スッ、スゲー!」。
ぼくはただただ恐れ入るばかり。
「誕生日のプレゼントで買ってもらったんだ。ミノ君にも、1日5円で貸してやってもいいよ!」とサッチャン。
当時1日の小遣いが、母のがま口から支給される10円と決まっていた。
その10円玉一つで、半分の5円を友と半分ずっこにするアイスキャンディーを買い、残りの5円でくじ引きに挑むのが毎日の日課。
やっぱりサッチャンに5円払ってでも、家では到底買っては貰えぬウルトラハンドで、悪戯三昧を一度くらい楽しんでみたいと、ついに誘惑に負けてしまった。
意気揚々とウルトラハンドを片手に、わが家へと戻ると、まずは老犬のバカ犬ジョンの小屋へと向かった。
何はともあれ、悪戯の第一弾は、ここで腕試しだ。

ジョンは都合よく、小屋の中で寝息を立てているではないか。
ぼくはジョンに向かって、ウルトラハンドを伸ばし、ジョンの垂れ下がった耳を掴んだ。
するとジョンは何事かと目を見開き、初めて目にしたウルトラハンドにパニックとなり、恐れおののき吠えまくった。
見事腕試しの悪戯は、大成功。
「なんやの、それっ?面白そうな玩具やなあ」と、洗濯物を取り入れながら、お母ちゃんが笑った。

サッチャンから1日だけ借りたことを告げると、「ほんなんやったら、まっとええ使い道があるで、後はお母ちゃんに任せとき!」と。
心なしかその時お母ちゃんは、ほくそ笑んだようだった。
それがまさかお父ちゃんの、鼾封じの悪戯だったとは。
天晴れ!お母ちゃん!
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ウルトラハンド、マジックハンドの別会社製品版?ボクも欲しかったなあ~!友人の家にあって、羨ましかったものです。で、実は職場に何本かありまして、レクリエーションに時々活用されていますよ~!もちろん当時のものではないですが。
子どもの頃のマジックハンドは、なんだかとってもやぐそうで、グニャグニャとしていた記憶があります。
ウルトラハンド
我が家にもありました。
でも、名前は確か?「マジックハンド」って言ったかも?
重たかろうが、軽かろうが
何でも摘まむもんだから、父親のタバコの灰皿、陶器で出来ていて
流石に重たすぎるので「ポッキ」と折れて・・
何とか修理を、子供心に考えて、ビニールテープをグルグル巻きにして
直ったかと思いきゃ❢
直しきれなかった、自分が情けなく・・
涙ぐんだ、ハナ垂れモもッチでした。
そうそう、確かに今考えたら、とってもやぐかったですものねぇ。
それを陶器製の灰皿なんて掴もうものなら!
そこに思い至らないのが、子ども心ってぇやつなんでしょうねぇ。
子供の頃のおもちゃとは形は違って、片手で握るタイプですが100均にありましたよ。知らない内に我が家にも有るのですが、なンに使うんだか。私は使いませんけどね。
それって、犬の散歩の時とかに使うアレですか?
子供の頃に使ってたけど 大人になってからも 何かきっかけがあって使ってみたけど 1回で掴めなくてイライラして結局それっきり。
ダメだなぁ〜。
昔みたいに楽しむ精神を大切にしないと!
子どもの頃って大人たちと、時間の長さは変わらないながらも、子どもの頃って妙に時間に弄ばれるのをむしろ楽しむ術を持っていた気がします。
大人になるとそんなじれったい時間がどうにも我慢ならなくなっちゃうんですよねぇ。
来年は童心に帰って、これまで以上に、「のらりくらり」と生きたいものです。