「昭和懐古奇譚~卓上お御籤灰皿」(2018.7新聞掲載)

「卓上お御籤灰皿」

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「ねぇお母ちゃん、一生のお願い!一回でいいから、このお御籤引かせて!」。

そう言えば、ぼくは母に対して、これまでに何度「一生のお願い!」と言う台詞を、軽々しくも使った事だろう?

家族連れでごった返す、百貨店の食堂。

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入り口脇のショーケースには、本物そっくりな蝋細工のご馳走が居並ぶ。

ぼくも両親も、散々迷いからかした挙句、結局は毎月同じお子さまランチと、中華そばに落ち着き、母が入り口で食券を買い求めた。

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そしてもう食べ終わりそうな席の近くに陣取り、席が空くのをひたすら待ったものだ。

しかしこれがまた運が悪いと、一旦食べ終わったかに見えたものの、気を持たせるように徐にオバちゃんが立ち上がり、再び食券売り場へ。

「あ~あ…」。

言葉にならない溜息を上げ、その場にへたり込みそうになったこともしばしば。

しばらくすると何とも贅沢な、プリンアラモードやらソフトクリームが運ばれて来て、こっちは今更食事を終えそうな家族連れを探して、移動するのもままならずただただ待ち惚け。

そんな運の良し悪しをグイッと呑み込み、やっとのことデコラ張りの4人掛けテーブルに席を得たところだ。

どこのデコラ張りのテーブルの中央にも、プラスチック製の割り箸入れと、卓上お御籤灰皿が置かれていた。

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この卓上お御籤灰皿とは、高さ12~13cmほど、直径12cmほどの円柱形。下に脚が付き、天辺にブリキの灰皿が載っている。

そして円柱部分が12等分に分かれ、「1月生まれ」から「12月生まれ」と表示され、その上部に100円玉の投入口が開いていた。

硬貨を投入し、円柱の下部にあるレバーを引くと、幅2.5cmほどで真ん中がビニールの輪っかで止められた、巻紙状のお御籤がコトリと落ちると言う仕組みであった。(それから程なく、誕生月の表示から、誕生星の表示に切り替わった記憶がある)

「ねぇお母ちゃん、一生のお願い!一回でいいから、このお御籤引かせて!」。

思えばいかにも安っぽい「一生のお願い!」の呪文を、もう一度唱えて見た。

しかしお母ちゃんには、トンと通じる気配すらない。

むしろ気付かぬふりをしていたのかも知れない。

とは言えこっちとて、駄目元で呪文を繰り返す。

するとまるで顔の周りを、五月蠅く飛び回る蠅を追い払うかのように、「そんなもんやめとき!お母ちゃんたーの中華そば(ぼくの微かな記憶によると、確か中華そば一杯は70円くらいだった)もう一杯食べたって、まんだお釣りが来るほどなんやで!」と。

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確かに当時のお小遣いなんて、一日たったの10円。

しかもそれすら、毎日内職の針仕事をする母の膝前に座り込み、ご本尊でも拝み倒すようにして、やっとのことでガマグチから10円玉一枚を手にしたものだ。

「ほれみぃ、周りの人んたーなんて、だーれもやっとる人おらんやろ!」。

母が追い打ちをかけた。

お御籤一つに大枚100円を投じるならば、両親が注文した一番安い中華そばも、豪華な叉焼入りにしてあげるべきだと、幼いながらも妙に納得してしまったものだ。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「昭和懐古奇譚~卓上お御籤灰皿」(2018.7新聞掲載)」への8件のフィードバック

  1. お御籤灰皿か~ぁ⤴
    懐かしい❢
    一度だけ、お御籤灰皿に占ってもらたら・・
    案の定「女難の相があり」だってさぁ⤴
    まぁ⤴こればっかりは、モテ男の宿命だわなぁ❢
    と、そう思っていたら❢
    女難の相でも二通りあるらしく
    「モテるタイプ」「異性の性格に問題があるタイプ」
    私の場合、どちらも巡り合って経験しましたが
    マジでさ~ぁ❢
    正確に問題があるタイプはねぇ❢
    ホント!「猫被っている」よぉ⤴
    私なんか単純だから、それを見抜けなくてコロッと騙された。
    いい経験したよぉ❢
    騙され大賞があったら・・
    今でも、きっとコロッと騙される自信はあるねぇ❢

    1. 「コロッと騙される」なんて、純真な証じゃないですか!
      しかしどこからどう見たって、とても純真そうには見えないところが、これまたスゴイ!
      でもそんな女性に手を焼いたからこそ、今の「姫様」とも巡り合えたんでしょうね。

  2. 「一生のお願い!」をわたしも何度も使いました。それも 思い出すと楽しいですよね。
    さすがオカダさんのお母ちゃんは子供にも分かりやすく ちゃんと説明が出来て凄いです。

    1. 本当に「一生のお願い!」って、どれほど安っぽく使いまくっていた事でしょう。
      この分だと、あと1万回くらいは生まれ変わらなきゃいけないくらい、「一生のお願い!」を使い果たしたような気がします。

  3. 卓上おみくじを、喫茶店やレストランで見掛けると、持ち上げて重さを確かめたりしませんでしたぁ。

  4. 小さい頃 デパートの最上階の食堂で 一度だけ「お願い…」と頼み込み お御籤を引かせてもらった事があります。
    バイトをするようになって 喫茶店で二回目のお御籤。この時は 内容をしっかり読んでたかな⁈
    ラストは パート先のファミレスで 開店前に業者さんが卓上お御籤の中から お金を回収し 新しいお御籤を入れる場面を見て サァ〜っと気持ちが冷めてしまい 懐かしさも半減し ジ・エンド。
    見るんじゃなかった〜(笑)

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