「昭和懐古奇譚~古新聞は万能なりし家庭の必需品!」(2018.6新聞掲載)

「古新聞は万能なりし家庭の必需品!」

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パシン!

「ほれっ、どうや!お父ちゃんの、必殺新聞蠅叩きや!お見事、命中」。

お父ちゃんは、お母ちゃんとぼくにドヤ顔を向けた。

左手にビールを注いだコップ、右手には古新聞を丸めた蠅叩きを掲げ。

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食卓の片隅に止まり、今し大皿に盛ったコロッケへ飛び移らんとした蠅を、その寸でのところで、お父ちゃんは丸めた古新聞で、器用に叩き潰した。

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「まあ、お父ちゃんの取り柄ゆうたら、蠅叩きとゴキブリ叩きくらいなもんやでなあ」。

お母ちゃんは事も無げにそう(のたも)うと、キルト製のお(ひつ)カバーを外し、ご飯茶碗にご飯をテンコ盛りによそいながら鼻先で笑った。

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「あっ、お父ちゃん。蠅を叩いた新聞紙、古新聞の束と一緒にせんと、ちゃんとゴミ箱に捨てといてよ。この前なんて、古新聞の束と一緒にしたったで、そんなこと知らんと、危うくお隣さんへお裾分けする、キュウリ包んで持ってくとこやったんやて!うっかりしとったら、えらい恥かくとこやったわ。間違(まちご)うてお隣さんがキュウリの包み広げてみ。中から干からびてペッちゃんこの蠅が、キュウリにへばり付いとったら、さぞかし気色(きしょく)悪いやろ!」。

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お母ちゃんの怒りが再燃。

「そやなあ。お母ちゃんの言う通りや」と、お父ちゃんはお母ちゃんの怒りも何のその。

いつものようにそんな言葉で煙に巻き、ただただ嵐が早く収まるようにと、黙々とビールを煽り箸を進めた。

昭和半ばは、読み終えた古新聞と言えど、立派な家庭の再利用資源であった。

弁当箱や野菜を包んだり、時にはちょっとした包装紙にも早変わり。

また、新聞紙を細かく千切って水を含ませれば、座敷の埃を箒で掃き出す、埃吸着シートに。

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果ては揚げ物の油切りから、七輪の火熾し用の着火剤、そして蠅叩きとしてと、兎にも角にも丁々発止の大活躍振りだった。

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何もそれは家庭に留まらず、量り売りの煎餅やあられの菓子屋でも、お好みや焼きそばにタコ焼き屋から、肉屋に魚屋、八百屋まで、古新聞で作った袋や包装紙を極々普通に、何の衒いも無く使っていたものだ。

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今の世では、古新聞や雑誌類は、資源回収され再利用がなされる。

しかし今ほど物が豊でなかった昭和の半ばは、資源回収に回すまでも無く、皆が皆、それぞれに知恵を絞って、限りある資源を大切にしたものだ。

幼稚園の頃、田舎のお婆ちゃん()へ行き、離れに設けられた厠へ入ると、チリ紙籠に程よい大きさに切った、古新聞が束にして積み上げられていた。

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それがチリ紙の代用品とは思えず、泣きながら大声でお母ちゃんを呼んだ。

するとボットン便所にでも落ちたのかと、お母ちゃんが必死の形相で飛んで来てくれた。

「どうしたんや?便所にでも落ちたんか?」とお母ちゃんが、力任せに引き戸を開けた。

「だって、お尻拭くチリ紙がないんやもん」とぼく。

するとお母ちゃんは、「これを揉み解したるで、これで拭いとき」と。

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お母ちゃんは驚くでもなく、チリ紙籠の古新聞を揉みしだいた。

新聞は、その日その日の出来事を伝える一方、生活必需品の一部としても、限りなく役に立つものだと子どもながらにつくづくそう感じた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「昭和懐古奇譚~古新聞は万能なりし家庭の必需品!」(2018.6新聞掲載)」への8件のフィードバック

  1. そうそう、昔、黒いアイツを見るや否や親父がよく新聞紙丸めて
    「パァ~ン」と黒いアイツを叩きのめしてた❢
    今は、トイレットペーパーを使う方が殆どだと思うけど
    先日、久し振りに「チリ紙」を買っている人を見掛けたけど
    なんか?とても懐かしかったな~~ぁ⤴
    まだ、販売している事にもビックリ❢

    1. チリ紙って高齢者福祉施設とかでは、とっても重宝されているんだって!
      そう言われて見れば、なるほどなるほど!
      もうすぐぼくらもお世話になるんでしょうねぇ。

  2. ❖ 古新聞 ❖ 

    実家では玄関先や土間掃除の時に新聞紙を少し水で湿らせ細かくちぎって 床にパラパラ ほうきではいてました ♡

    我が家は今でも新聞紙の再利用は
    大好きな 揚げ物の油切りに、そしてゴミ出しの時は 透明のゴミ袋の回りを覆い 中身が見えないように (カラスさんに生ゴミを散らかされないように) 使っていますよ ♡( ◜‿◝ )♡

    息子が小さい頃 兜を折って被ってましたね 〜 (。•̀ᴗ-)✧

    1. 子どもの頃の兜って、やっぱ新聞紙でしたよねぇ。
      折り込み広告のチラシではちっちゃすぎましたから。

  3. 柚子ピールとマロングラッセをこの前の日曜日に作りました!
    鬼柚子が日持ちがよく、しばらく飾っていました。
    オカダさんに教えていただいたレシピを見ながら作りました★
    ラム酒は、お店の人に聞いたけど無くて、果実の酒用V.Oで作りました!
    鬼柚子の中の白い綿を取るのに手間がかかりましたが、娘が手伝ってくれました
    (*^^*)
    透明感のある色をした柚子ピールになりました!
    その残ったソースで、マロングラッセを作りました!
    栗は、100円ショップの瓶に入った栗甘露煮を利用しました♪
    それでも、ソースが残ったので、次の日もまた買ってきて作りました!
    ちょっぴり柚子の香りがするマロングラッセとなりました★
    柚子ピールもマロングラッセもまぶしたグラニュー糖とマッチして、とてもおいしかったです!
    (^o^)
    よく味わって、大切に食べていこうと思います!
    手作りのお菓子をくださる近所の方にもお裾分けしました♪
    できることなら、オカダシェフに試食してほしかったです。
    オカダさん、分かりやすいレシピを教えてくださって、ありがとうございました!
    感謝、感謝です★
    本当に作ってみて良かったです♪

    1. そうかぁ、その手がありましたかぁ!
      さすがですねぇ。
      栗の甘露煮からだと、時短にもなりましたですねぇ。
      ぼくもご相伴に与りたかったなぁ。

  4. 蠅取り、油切り、畳掃除、窓ガラス拭きなど 使わない日がないくらい 新聞紙の出番ってありますよね⁈
    小学生の頃からは 習字の練習時 まずは新聞紙に何度も々書いてみたり…。
    あと 以前の勤務先では 長男を含む利用者さん達と 牛乳パックを使って椅子を作ってました。
    新聞紙を8等分に切って それを細かくちぎり 成形した牛乳パックに新聞紙を詰めていきます。1つの椅子を作るのに 二週間分の新聞紙を使います。
    新聞紙フル活用してました( ◠‿◠ )
    古くなったタオルや靴下や空箱など まだ何かに使えるんじゃないか?と ついつい残しておいちゃう私です(笑)

    1. やっぱり昭和を生き抜いた方々には、「モッタイナイ」精神が、どんなに使い捨て時代なったとしても、しっかりと体に摺込まれちゃってるきがしますよねぇ。

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