「昭和懐古奇譚~ちり紙交換と黄金糖」(2016.1新聞掲載)

「ちり紙交換と黄金糖」

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「ご家庭でご不要となりました、古新聞古雑誌はございませんか?ちり紙交換車がやってまいりました」。

小学校2年になった昭和40年の事。

トラックの運転席上部に取り付けられた、トランペットスピーカーから濁声のオッチャンの声が流れ出し、町内を隈なくノロノロと巡ってゆく。

ぼくらはトラックの後を、遊び半分に追い掛け回したものだ。

今とは違いちり紙交換のオッチャンの名演説も、録音されたテープから流れるような、そんな洒落た時代ではない。

だからその都度、オッチャンが妙な節を付け、所々にお国訛りを散りばめ、即興交じりに濁声を枯らしながら捻り出す実演。

ぼくらは口々にオッチャンの台詞を真似、大声を張り上げながら追いかけた。

「チョット~ッ!ちり紙交換のオジサ~ン」。

玄関の引き戸がガラガラっと開き、オバちゃんが顔を覗かせ呼び止める。

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すると「毎度あり~っ」と、妙な節を付けた言い回しでマイク越しに答え、オッチャンが車を止めた。

白の割烹着に下駄履き、無造作に褞袍(どてら)を羽織ったオバちゃんが、両手に古新聞に古雑誌、おまけに古着まで重そうに抱え玄関先でヨタヨタ。

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こうなりゃ、ぼくらの出番!

「オバちゃん、手伝ってあげるって」と、頼まれもしないのにぼくらは、古新聞やら古雑誌を抱えトラックの荷台へと運ぶ。

するとオッチャンは手慣れた手付きで、上皿付きの自動秤を取り出し古新聞や古雑誌を積み上げる。

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そしてそれに見合った分のちり紙を、助手席から大雑把に掴み取りオバちゃんへと手渡す。

ちり紙を受け取ったオバちゃんは、瞬時にその厚さを目測し、「やっぱりオジサンとこの、ちり紙交換が一番お得やね」。

その一言で気を良くしたのか、オッチャンはもう一掴みちり紙を取り出し、オバちゃんに手渡した。

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「また、いつでも声掛けてぇな!」とオッチャンは、満更でもなさそうにつぶやき運転席へと乗り込んだ。

「あっ、あんたら。ちょっと待っとりゃあ。いまお駄賃やるで!」。

トラックの後を追おうとするぼくらを、オバちゃんが呼び止めた。

「手伝ってくれて、おおきに。ちょっとだけやけど、お駄賃やで」。

そう言って、ちり紙に包んだお菓子を、ぼくら一人一人の手に握らせた。

ぼくらはいつもの秘密基地で北風を凌ぎ、ちり紙の包みを開いた。

「あっ、黄金糖だ!」。

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灰色がかったちり紙の中で琥珀色に一際輝く、宝石のような飴玉にぼくらは見とれた。

だが誰一人、それを頬張ろうとはしない。

やれ「妹や弟に持って帰る」とか、「お母ちゃんにあげよ」と。

ならばぼくも、お母ちゃんが機嫌の悪い時の隠し玉にでもするかと、半ズボンのポケットへ放り込んだ。

すると翌朝の事。

「ポケットにちり紙入れたまんま、半ズボンを放り込んだやろ!これ見てみい!洗濯機の中がちり紙塗れやない!おまけにこんな黄金(こがね)(いろ)した、ガラス玉のガラクタまで一緒くたにしてまって!」。

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母の逆鱗に触れた今こそ、本領を発揮するための隠し玉だったのに!

嗚呼、哀れ無残な黄金糖よ~っ!

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「昭和懐古奇譚~ちり紙交換と黄金糖」(2016.1新聞掲載)」への10件のフィードバック

  1. チリ紙交換の車、もうすっかり見なくなりました。
    10年位前に、たまに町内をグルグル回っていました。
    その時に新聞約一か月分ほど出したら
    よく街角でティシューを配っている、ハガキ程の大きさの奴
    それを3っ貰いました。
    昔ならケースを2~3個、貰えたと思いますが
    今となっては、廃品業者の無料回収場所へ持って行ってます。
    そのうち、何でもかんでも有料になる時代が来るんでしょうねぇ!

  2. オカダさん 
    どんだけ〜!ですね。(叱られるの)
    琥珀色の黄金糖 ただでさえ
    綺麗なのにガラス玉みたいになったら もっと綺麗ですね。

  3. 母も私も、古新聞は子供会や町内会の廃品回収に出していたのでちり紙交換に出した事って無かったと思います。でも、ポケットにティッシュが入ったまま洗濯した事はありますよ。泣きたくなるくらい最・悪(¯―¯٥)

    1. 分かりますぅ!
      ぼくも酔っぱらってると、ついついやっちゃってますよぉ!

  4. 古新聞とちり紙を交換…そうそう( ◠‿◠ )
    今では聞こえてこないですね。
    この辺りでは 数ヶ月に一度 新聞屋さんが回収に回ったり あとは 無料回収場所に持って行ったり。
    この文章を書きながら思ったんですが いろんな場面で人と会う(対面)という事が 本当に少なくなってきてるんですよね⁈ それで事足りてしまってる事が当たり前になってるのを 不思議とも思わなくなってる。
    昭和人間なんだけどなぁ〜。

    1. チリ紙からいつの間にやらトイレットペーパーとなって、今じゃ確かにとんと見かけなくなってしまいましたねぇ。
      その代わりに、要らなくなった電化製品やらを回収する軽トラックは、たまに見かけますが・・・。
      その時代時代で、そんな暮らしの風景も変わりゆくものなんでしょうねぇ。

  5. 我が家は今も ちり紙交換車さんに新聞や雑誌をお願いしています (◠‿◕)  

    毎週月曜日 8時半頃に家の前に出して置くと トイレットペーパーを1個置いていってくださいますよ〜 (◕ᴗ◕✿)

    今朝も出して置いたのに〰〰〰〰   
    なんで 〰〰〰 (。•́︿•̀。) 

    そうそう 子供の頃は
    『はい お駄賃!』って 言われましたが 今は?? 
    小さな怪獣君達に通じるのかな?? 

    今も昔もみんな 黄金糖は大好きですよね ぜったい (◠‿・)—☆
    優しい味ですもんね ❣️

    1. ってことは、心無い人に交換品のトイレットペーパーを持っていかれちゃったってことでしょうかねぇ。
      それにしても世知辛い!
      わが家のアルミ缶は、毎週木曜日がゴミ出しなんですが、アルミニューマーのオッチャンが待ち構えていたりしちゃいますよぅ。

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