

お千代保稲荷のお供物は お狐様の耳をした
藁に通した油揚げと 淡い灯りの和蝋燭

晦日詣りのご褒美は 鯰蒲焼燗の酒
老いも若きも赤ら顔 ぼくは甘酒蓬餅
「大晦日の床屋の行列~坊ちゃん刈りとオカッパ頭」

「昔は床屋の行列で順番待ち。今じゃ娘の福袋の順番取り。えっ?お宅も。そりゃあお気の毒さま。まあお一ついかがですか?お近付に。どうせ私らにゃ、大晦日も新年も関係無し。開店まで毛布に包まって並んどらなかんのやし」。
大晦日、閉店直後のデパート。
軒下には早くも、初売りの福袋を狙う老若男女が陣を張る。

こんな光景を目にすると、子どもの頃の大晦日を思い出す。
「今日は大掃除に御節の準備と大わらわや。あんたの相手する暇なんてない。邪魔せんと床屋でも行って、頭綺麗に刈ってもらっといで」。
なぜか大晦日の朝になると、必ず決まってそう言われた。
間違っても30日や29日に、前倒しされたことはない。
毎年大晦日の朝が来ると、決まってそんな言葉で追い払われる。
となれば、さすがに大晦日の妙な法則にも気付き、ついつい疑念も生じる。
「ぼくだけ追い払い、お父ちゃんとお母ちゃんの二人して、何ぞ美味い物でも食べとるんと違うやろか」と。
そんな猜疑心を打ち消せぬまま、床屋代を握り締め町外れの床屋へと向かう。
すると既に何十人と、子どもたちが男女入り乱れ、店の外まで列をなして並んでいるではないか!
誰もが木製の丸椅子に所在なく座り、寒風吹きっさらしの路上に並び、擦り切れた漫画本に見入っている。
開店間もない早朝ですらこの状態だ。
そうこうする内に、ぼくの後ろにも新たな列が出来始めた。
遠目越しにガラス窓から、店内の様子を窺って見る。
すると床屋のオッチャンとオバチャンは、夫婦喧嘩でもしたように、終始不機嫌そうな仏頂面。
口も利かず黙々と鋏を振う。
すると次から次へと、まるでベルトコンベアーで運び出される、粗悪な量産品さながらに、坊ちゃん刈りとオカッパ頭に仕上げられた男女が、吐き出されて来る。

坊ちゃん刈りもオカッパ頭も、前髪は共に眉の上1~2cmの所で、横に真っ直ぐ切り揃えられ、後頭部はバリカンが宛てられた刈り上げ。
昭和半ばの子どもの髪型と言えば、是も非も無く、男子は坊ちゃん刈り、女子はオカッパ頭と概ね決まっていた。
寒風ふきっ晒しの路上で待つこと3時間。
やっと床屋の玄関先へとたどり着いた。
ところが寒さのせいか、風雲急を告げた尿意に抗いきれず、矢も盾もたまらずトイレへと駆け込んだ。
間一髪の危機を脱し、元の席へと戻って見れば、今度は自分の椅子が見当たらない。
席を立っている隙に、これ幸いとばかりに順に詰められてしまったのだ。
何てこったあ!
おまけにぼくのすぐ後ろだったのは、近所でもすこぶる評判のガキ大将。
「文句あんのか!」とでも言いたげな一瞥をよこす。
ぼくはおめおめと、最後尾へと並び直した。
まるでスゴロクの「振出しに戻れ」状態だ。

結局家へと帰り付いたのは、西の空へとっぷりと日も傾いだ夕暮れであった。

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子供達の集合写真を見ると
男の子は誰もが一番左の子供の様な髪型したいた!
えっ?勿論、私だって・・・
子供の頃から前頭部がなかった訳ではありません!
ちゃんと!普通に髪はフサフサでしたよぉ!
でもさ~ぁ⤴子供の頃、まさか?前頭部の髪の毛がなくなるなんて
夢にも思っていなかった。
子どもの頃って、坊ちゃん刈りやオカッパ頭以外の選択肢ってなかったですもの。
それこそお洒落な大都会育ちだったら、もっと違っていたかもしれませんけどねぇ。
オカダさんは、買いたい物や食べたい物が並ばなきゃ手に入らない時は並ぶ?それとも諦める?私は2時間くらいは並べるかな•̀.̫•́✧
ぼくは直ぐに諦めちゃいますねぇ。
だってこれまで一度だって、デパートの福袋に並んだことはありませんし。
もう人の列を見るだけで足がすくんじゃいます。
うちは 母親が保険外交員だった為 年末もバタバタしてたから お正月の準備とかの記憶がほとんどないです。ただ 年末が近づくと 父親が私と妹の髪の毛を切ってくれてた事だけは覚えてます。
新年を迎えるのに 歯ブラシや下着を新しくする…など 各家庭に風習みたいな事ってありますよね⁈
代々ごく自然に引き継がれているんでしょうね。( ◠‿◠ )
ぼくん家も、元日の朝、枕元にまっさらなパンツとシャツが置かれていたものです。
小さい頃は床屋さんに行ってました。ほんとにワカメちゃんカットです。おばさんが使い終わったタオルを斜め後ろの3メートルくらい離れたタイルの洗面台のなかの洗面器に投げて
それが上手く洗面器の中に入ると何か良いことがありそうで 嬉しかったです。
床屋のオバチャンの絶妙なコントロール、天晴ですねぇ。