「さっきから、そげん何をジロジロ見とうか、この子は?」。
婆ちゃんは銭湯の脱衣場で、ぼくを睨みつけた。

「だって…」。
素っ裸のまま着物をたたみ、脱衣籠にきちんと収める婆ちゃんの肩には、これまで目にしたことも無い、真っ黒な膏薬がベッタリ貼り付いていた。

「そげんとこいで、ボーッとしとらんと、さっさとこよ剥がしとくれ」。
婆ちゃんは背を向け、脱衣場の床に両膝を付く。
ぼくは恐る恐る、その真っ黒な膏薬を、婆ちゃんの肩から剥ぎ取った。
すると指先には、ヌメヌメとした不快な触感が伝わり、おまけに妙な臭いが鼻先に漂う。
それでも何とか膏薬を剥ぎ取ったものの、婆ちゃんの肩にはくっきりと、四角い真っ黒な縁取りが幾重にも重なっていた。

母方の婆ちゃんは、生まれも育ちも鹿児島。
押しも押されもせぬ生粋の薩摩おごじょそのものだった。
ぼくが生まれて間もない頃、名古屋で暮らす末息子、つまり母の末の弟を頼り鹿児島を出たそうだ。
だから当時、唯一の孫であったぼくに逢いに、わが家へと足蹴く通っていた。
そんな幼い日の事。
恐らく両親が不在だったのだろう。
婆ちゃんの真っ黒な膏薬に驚いたのは、初めて手を引かれ二人っきりで、近所の銭湯に出掛けた時の事。
婆ちゃんの肩に残る、真っ黒な縁取りに、幼いぼくの目は釘付けになった。
「みんな歳食うと、体もガタが来うでな。ほれっ、見てみい。あっちもこっちも、みんな似たい寄ったいや」。
婆ちゃんは脱衣場の客を見渡した。
ぼくも婆ちゃんの目線を追う。
すると脱衣場に居合わせた、裸んぼうのお婆ちゃん達の二人に一人の肩には、家の婆ちゃん同様に真っ黒な膏薬の縁取りが!
「お前のお父ちゃんが、こん前の慰安旅行の時に、お土産としてこぅて来てくれた下呂膏。これがまたよう効いた。わしもいっど下呂の銘泉に、ゆったりと浸かりたいもんや」。

婆ちゃんごめんね。
婆ちゃんがもう少し長生きしてくれたら、下呂温泉に連れて行ってやれたろうに。

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こういう貼り薬って いつ頃からあるんでしょうね。
ブログを読みながら 漫画『いじわるばあさん』を思い出しました。
確か このお婆さんって こめかみの所に白い貼り薬?を貼ってたような?
私はもっぱら湿布専門だけど 写真のような貼り薬って ギュッと効きそうな気がする〜( ◠‿◠ )
家のお母ちゃんも、こめかみにトクホンを小さな四角形に切って、貼っていたものです。
偏頭痛でもあったんでしょうかねぇ。
ぼくが心配ばかりかけていたからでしょうねぇ。
下呂膏懐かしいです。
オカダさんのご幼少の頃のお写真を思い出すとそれは それは可愛かったですものね。私も甥っ子に会いに足繁く通ってましたから こんころもちがよくわかります。
仕事が終わるとここからなら
家からと比べたら半分の時間で会いに行けるのにと思いつつ
1週間がとても長く感じられたものでした。
あの膏薬の薬草の匂いが、ぼくにはお婆ちゃんの匂いの様に思え、懐かしくって仕方ありません。
おったおった!
銭湯へ行くと、腰と肩に下呂膏貼った、ご老人!
あたしも子供の頃、突き指した時とか貼ってたな~ぁ⤴
貼った後、下呂膏の黒い跡が中々消えなので・・
その内「サロンパス」を貼るようになった気がする。
下呂膏といえば下呂温泉だねぇ!
下呂へ行って旅館で、のんびり温泉でも入りたいねぇ!
いいですよねぇ、下呂の湯。
何にも考えず、マスクも取って、ゆったりと身も心も解きほぐしたいものです。
下呂膏 懐かしいですね (*˘︶˘*).。*♡
私の実家 自宅にお風呂が無く 毎日銭湯だったので お婆ちゃん達の肩や背中 腰や腕 膝には下呂膏が貼ってあるのは見慣れていました !!
顔見知りのお婆ちゃんからは『⚪⚪ちゃ〜ん 取ってくるの忘れたわ〰』と言って下呂膏が貼ってある背中を
(( ◜‿◝ ))♡
父親の下着のシャツも 黒っぽい下呂膏の後がちょっと黒くなっていましたね♥
本当にその通りで、当たり前のような光景でした。
でももう、日帰り温浴施設でも、下呂膏を貼ったご老人の姿なんて見かけられないんでしょうねぇ。
って、そう言うぼくも子どもたちから見たら、押しも押されもせぬご老人の一人かぁ!
貼るタイプ、塗るタイプ、色んな湿布薬を使った事あるけど、下呂膏は見た事はあっても使った事は無いですねぇ。子供の頃は、おばあちゃんたちが使う物だと思ってた。なら、もうとっくに解禁かぁwww
あの独特な薬草臭さを、ぼくはお婆ちゃんの匂いだと思い込んでいたほどでした。