昭和がらくた文庫56話(2015.07.23新聞掲載)~「花火を愛した裸の大将の言葉よ、愚かな裸の王様に届けたまえ!」

蚊取線香と蚊遣り豚。盥に浮ぶ西瓜。

線香花火のあのキナ臭さ。

いずれ劣らぬ、昭和半ばの夏の香りだった。

写真は参考

縁に腰掛け戦中派の両親と、西瓜の種を口から飛ばし距離を競い合った幼い日。

そんな両親の齢を、とっくの昔に通り越してしまった。

西瓜を食べ終えると、お待ちかねの花火だ。

今ほど豊かじゃなかった、昭和の半ば。

線香花火さえ、一日何本と決められていた。

水を張った木製の盥。

家族三人で屈み込み盥を取り囲む。

父の燈した一本の線香花火を、ぼくが受け取り、盥の中央へと翳す。

パチパチパチ。

写真は参考

勢いよく火花が放射状に飛び散り、月を浮かべた盥の水面に閃光が(はし)る。

一際大きな放射状の火花が散ると、それを潮目に、丸く赤い火玉だけが、紙縒りの先で(くす)ぶり始める。

パ…チッ…パ…チッ…

線香花火はやがて、我が身を削る様に弾け逝く。

紙縒(こよ)りの先で痩せ細った、赤い小さな火玉が、ジュクジュクと身を(よじ)る。

やがて力尽き、紙縒りの先から滑り落ち、微かにジュッと今わの際の声を上げ、闇へと消え入った。

盥を囲んだ両親とぼくの口から、同時に吐息が漏れた。

わずか1分にも満たぬ線香花火の儚さに。

父や母は一体どんな想いで、線香花火をみつめたのだろう。

それは倹しくも、家族3人健康で、そして平穏に暮らせる、小さな幸せへの感謝であったろうか?

誰より花火を、心から愛して止まなかった山下清。

参考資料

彼の魂の言葉は、まさに平和への希求そのものだった。

「みんなが爆弾なんか作らないで、きれいな花火ばかり作っていたら、きっと戦争なんて起きなかったんだな」。

今し国会と言う盥の中にキナ臭さが燻ぶる。

こんな時こそ、山下清「裸の大将」の言葉を、どこぞの「裸の王様」に聴かせたいものだ。

山下清の飾らぬ言葉こそが、戦後70年を迎える今の日本に、最も染み入る言葉なのではなかろうか?

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫56話(2015.07.23新聞掲載)~「花火を愛した裸の大将の言葉よ、愚かな裸の王様に届けたまえ!」」への10件のフィードバック

  1. 一昨日の10日夜7時半頃、突然ド〜ン、パチパチパチパチ。あれっ!またまた打ち上げ花火?でも、この前とは違う方向からの音だったので、北の窓に急ぐと熱田の方角からの大輪の打ち上げ花火。ほらっ、打ち上げ花火って、一度に沢山の人に届く贈り物でしょ。ひょっとしてオカダさんも見られた?

    1. ぼくもリビングの南の窓から、白鳥の打ち上げ花火を眺めながら、部屋の明かりを消してビールをプッハァ!
      サプライズでしたが、ほとんど全部見られましたぁ。
      ラッキー

  2. そうそう!
    サプライズで、なんの前触れもなく打ち上げ花火!
    残念ながら今年の夏も花火を観る事が出来ませんでした。
    淋しい夏が続きます。
    長良川花火へ行けない時は、部屋を暗くしてテレビBSで大曲花火大会をやるので
    見ています。
    そりゃぁ~⤴現地で見ればイイけど!
    結構!テレビでも感動するよぉ!
    コップ片手に「プッハァ~⤴」とねぇ!

  3. ド~ン! パチパチ  
    サプライズ花火 ✥✧✤✩✦
    いいな〜  いいな〜 ( ˘ ³˘)♥

    やっぱり 高層マンションは いいですね〜 うらやまし~い ❣️
     
    昼も夜も 風を感じながら のんびり ぷっハァ〜 いいな〜  
     ♪ヽ(・ˇ∀ˇ・ゞ) 

    オカダさんは お盆に ご両親のお墓参りに行かれるのかしら ?!   

    私は 14日に行きますが、今回もうなぎは おあずけ (。•́︿•̀。)  

    雨も続くようで 心配ですね (>0<;) 

    1. ぼくは今年のお盆も、ベランダで迎え火を焚いて、プッハアとやりながら両親と心の会話をするのがせいぜいで、墓前に詣でるのは控えるつもりです。
      でもこんな時節ですから、両親もそれでよしとしてくれることだと思います。

      そういえば今日の未明と言うか、昨日の真夜中と言った方がよいか、何だか目が覚めてしまい、ベランダへ出ると少し風が涼しく感じられ、ビールをプッハァ
      としていた時、今年初めて秋の虫たちの鳴き声を聞くことが出来ました。

      この暑さももうひと頑張りですねぇ。

      1. 青空が恋しいですね。
        虫の音も夜には家の中にいても聞こえてくるようになりました。良い眠りにつけそうです。

  4. ブログを読んで この夏 まだ一度も花火を見てない事に気付きました。
    暑さで夏を感じるだけだ〜(笑)
    今 大輪の花火や線香花火を見たら感動して泣いちゃうかも。
    乾いた心に染み渡りそうだもん。

    1. すっかりコロナの影響で、四季折々の歳時記さえも簡素化しちゃってますものねぇ。
      花火も随分やってないなぁ。
      でもオッサンが一人で講演の片隅にしゃがみこんで花火をやってたら、そりゃあ怪しまれちゃいますよねぇ。

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