昭和がらくた文庫37話(2013.12.26新聞掲載)~「犬の伊勢詣り」

―尊さに 皆おしあひぬ 御遷宮―

元禄2(1689)年、奥の細道の旅を終えた芭蕉が、第46回式年遷宮に参拝した折の句である。

いつの世も、俗世を生きる人々の心を、惹き付けて止まぬお伊勢さん。

その証に熱田神宮、明治神宮と、()しもの三大神宮でさえ、人々が親しみを込め、「お」を付け呼ぶのは、伊勢(おいせ)神宮(さん)だけだ。

以前、曲亭馬琴の「里見八犬傳第八(しゅう)巻二」を目にした。

写真は参考

表紙に描かれた、伊勢詣りの代参をする、首に御神(ごしん)(さつ)を巻いた犬と、傍らの柄杓(ひしゃく)が取り分け印象的だった。

この手の犬の代参伝承は、各地に残る。

かの広重の「宮川の渡し」にも、首に御神札の白犬が。

写真は参考

他にも仙台の鈴木()(こう)著「仙臺(せんだい)風俗誌」や会津の『志ぐれ草紙』にも記述が。

写真は参考

また、阿波徳島の庄屋の飼い犬の伝承や、山梨県上野原市新井町明神社境内には、「伊勢犬碑文」と言う、帰参を果した犬を湛える碑まで建立された。

新井の伊勢犬

犬の首には、藁縄で伊勢参宮の木札と、代参を託した飼い主の名に、国元の在所を記し、初穂料や餌代を入れた袋を括り見送ったと言う。

犬は道中、伊勢講の人らに助けを乞い、参拝を果し御神札を首に、遥かな家路を辿った。

もう一つ、傍らに描かれた柄杓は、旅の参拝者が茣蓙(ござ)の先に差し、無一文の印としたものとか。

参宮街道で茣蓙に柄杓の者を見かけると、人々は「施行(せぎょう)」と呼ぶ風習に従い、飯や水を施した。

それが「おかげ参り」に転じたそうだ。

何処へ行くにも、自分の足で歩む他、手立ての無かった時代。

それでも病の者や老齢者は、お伊勢詣りの叶わぬ願いを、已む無く犬に託したのだ。

それ程までにお伊勢さんは、この国の(たみ)(くさ)が魂の寄る辺と頼る、尊き神の()()すお(やしろ)なのだ。

どうか伊勢(いせの)大神(おおかみ)様、来年もこの国が、いや世界中が平和でありますように。

このブログのコメント欄には、皆様に開示しても良いコメントをドンドンご掲示いただき、またその他のメッセージにつきましては、minoruokadahitoristudio@gmail.comへメールをいただければ幸いです。

投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫37話(2013.12.26新聞掲載)~「犬の伊勢詣り」」への4件のフィードバック

  1. お伊勢さん
    何時行ったのか・・?
    分からない程、昔になります。
    確か参道で「伊勢うどん」を食べたな~ぁ⤴
    汁の色が濃くて・・
    でも、見た目よりも普通の汁で美味しかった!
    お~っと!
    赤福餅は外せんねぇ!
    勿論!食べたよぉ!

    1. ぼくも今年のお伊勢さん&二見神社&石神様詣でをコロナで断念しました。
      神聖なご神域に早く詣でたいものです。

  2. お伊勢さん 三回ほど参拝させていただいた事があります。でも 確かお伊勢さんって 正式なお参り方法があるとか…。
    それを学んだ上で もう一度行ってみたいです。
    ブログの一部を引用させて頂いて…
    『どうか伊勢大神様 この国が いや世界中が平和でありますように』

    1. 由緒あるお宮には、それぞれの正式参拝方法があるようですが、それも大事でしょうが、何より大切なことは、神々の前に額づき一心に祈ることなんじゃないでしょうか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です