昭和がらくた文庫18話(2012.5.24新聞掲載)~「心と心の蝶番(ちょうつがい)」

先日桑名の料亭で、蛤のしゃぶしゃぶにありついた。

沸騰した薄味の出し汁に、活け蛤をさっと潜らせ、煮えきらぬうちに、半生状態で戴く。

付け垂れや調味料は、もちろん一切無し。

蛤自らが醸し出す、天然の旨味だけを、想う存分味わうのだ。

ふくよかでしっとりとした身は、何物にも例え難い食感で、この上なく格別である。

それを戴くには、熟練の仲居の、絶妙な箸捌きが欠かせない。

蛤を鍋から上げる瞬間が、早過ぎても遅過ぎても、程よい身のプリプリ感を損なうからだ。

桑名の赤須賀漁港に揚がる蛤は、一目で見分けが付くと仲居が言い張る。

蝶番(ちょうつがい)を上にして眺め、他の産地が「ハ」の字なら、桑名は「ヘ」の字だと。

岐阜県内を悠然と流れる、木曽、長良、揖斐の大河。

やがて一つに結ばれ、伊勢湾へと注ぎ込む。

三川が山の養分を、惜しみなく伊勢湾へと運び入れ、蛤はその恵を享受し身を肥やすのだ。

だとすれば、桑名の蛤は桑名だけのものにあらず。

源流から河口へと、滔々と恵みを運ぶ、治山治水あっての物種。

美濃との合作と言っても過言ではない。

そもそも南濃と北勢は、三川がもたらす恵みの一方で、古来より水との戦いを、強いられ続けて来た。

そんな想いに耽ると、何故か貝殻までもが愛おしく想われ、矯めつ眇めつ眺め回したくらいだ。

蝶番で結ばれた、この世にたった一組きりの二枚貝。

世の夫婦も、そうありたいと心と心を結う。

だが、これほど解け易いものもない。

だから「女が黄昏ようと結ぶ」と書き、結婚と呼ぶのだろうか。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「昭和がらくた文庫18話(2012.5.24新聞掲載)~「心と心の蝶番(ちょうつがい)」」への6件のフィードバック

  1. 蛤しゃぶしゃぶ!
    初めて聞いた!食べて~~ぇ⤴
    貝好きにはたまらん⤴
    回転すしに行くと必ず食べるのが・・貝の握り!
    そして、絶対食べるのが「エビアボカド」
    美味いよね~~ぇ!

    1. なんてったって日本人は、海鮮もの好きですからねぇ!
      でもぼくは、なぜかお酒を飲むときには、海鮮ものが食べられないんですよねぇ。
      ってか、酔いが早いって言うのか?

  2. なんと豪華な!
    蛤のしゃぶしゃぶ 食べた〜い!
    私も海鮮大好きな日本人のうちの一人です( ◠‿◠ )
    いつか絶対に食べてみなければ!
    蛤食べてお酒を飲んで…また蛤食べて エンドレスかな⁈ (笑)
    オカダさんは 海鮮よりお肉でしょ( ◠‿◠ )

  3. ❖ 蛤のしゃぶしゃぶ ❖
    三重に住んでいた事がある呑み友が 『もう1度食べてみたい!』って言っててましたね 〜 (。◕‿◕。) 

    蛤のお吸い物は祝い膳に欠かせない1品   
      最後に父が作ってくれたのは息子の百日のお食い初めの時でした 
     (◠‿・)—☆
     

    ★ 落武者殿に続き 私も 1週間前 コロナワクチン接種2回目を無事に終える事が出来ました ♥ ホッ 
    職域接種で 皆さんよりも ひと足お先に接種していただき、次の日も有休扱いと、本当に有り難いです (θ‿θ)

    2回目の接種後 翌日の午後から微熱や筋肉痛 倦怠感は3〜4日ありました。   
    同じ時間帯に接種した20代の女子は 3時間後に 熱が出て早退 (@@)  

    ワクチン接種が済んでも マスク 手指のアルコール消毒 密を避ける生活スタイルは変わらず です ヽ((◎д◎))ゝ  

    1. ぼくも死ぬまでにもう一度、蛤のしゃぶしゃぶを心行くまで堪能したいものだと、夢を持ち続けています。

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