「天職一芸~あの日のPoem 427」

今日の「天職人」は、岐阜県高山市江名子町の「江名子バンドリ職人」。(平成23年7月23日毎日新聞掲載)

野良で草引く爺ちゃんと 青き稲田に影が差す          大入道の稲光 バンドリ絡げそれ逃げろ             爺は夜鍋でニゴを編み 舟を漕ぎつつ手酌酒          「オリはバンドリ宵っ張り さあさ飲むぞ」と大鼾

(*バンドリは飛騨地方の方言/ムササビの意)

岐阜県高山市江名子町で江名子バンドリを作り続ける隆さんを訪ねた。

「『こらっ、デッチ(男子)にビンタ(女子)!いつまでも遊んどらんと、縄()いして材料やわっ(用意し)とけ』って、厳しい親父やったさ。適当に縄綯うなら『たまじゃかった(いいかげんな)仕事しとったら、承知せえへんぞ』って」。隆さんはは、昔を懐かしむよう窓に広がる山並みを眺めた。

江名子バンドリとは、300年以上前から伝わる、雨具、防寒、日除けに最適な、風通しの良い野良着の蓑。

バンドリを着けた後ろ姿が、まるで飛膜を広げるムササビに見えることから、この名がついた。

隆さんは昭和10(1935)年、7人兄弟の次男として誕生。

「とにかく勉強も家の仕事も嫌いやった」。

中学を出ると製材所に勤務し、やがて運転免許を取得。

トラックを転がし、材木運搬用に携わった。

昭和34年、23歳を迎えたある日。

「本家の叔母が、『こらっ、隆。ワレええかげんカカもらえ』って叱られて」。

近在から雪子さんを妻に迎え、一男二女を授かった。

「その年やったさ。高山にまだ6台しかない、タクシー会社へ移ったのは」。

そのままタクシーに乗務し、定年まで家族を支えた。

平成2年、町内会長に。

「ここらあでは、毎年農作業が終わると、どこもバンドリ作りに追われたもんやさ。町へ出てバンドリ売って、少しでも暮らしの足しにせんと。ところが昭和30年代も後半、高度成長が始まると、ゴムやビニール合羽が急速に普及してまって。気が付いたら、郷土民具のバンドリも、作れるもんらがおらんくなる一方や。こりゃあかんと思って」。

平成5年、隆さんが中心となり保存会を設立。

町のご隠居ら14名が、その伝承と保存に努める。

バンドリ作りの大半は、編み込むための材料作りと、その下準備である。

「そやな。今では編むゆうたら、年が明けた1月10日から、たったの2週間ほど。そりゃあ昔は、どこの家も夜鍋して、春先までやりよったけど」。

主な材料は、ニゴと呼ぶ稲藁の先端一節分と、シナの木の内皮に麻縄。

まずは、ニゴを取る稲作から始まる。

刈入れが終わると藁からニゴを抜き、ハカマを穂かきで取り除く。

そして水に2ヶ月間浸し灰汁抜き。

シナの木は、梅雨時に伐採。

樹液が上がる6月下旬に樹皮を剥き、2ヶ月間水に浸す。

そして鬼皮から内皮を剥ぎ取って乾燥。

「昔はニゴや麻で、子どもが縄を綯ったもんやさ。今は市販の麻紐やけど」。

そして肩編み、首折り、上編み、腰編み、つなぎの工程を経て完成。

「肩編み3日。腰編み1日半。まあ昔と違うで、皆で昔話せながらのんびりとな」。

♪やれやれやれー やればんどりも 雨の降る時や ためになる♪

青い稲田に隆さんの「江名子の田植唄」が響く。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 427」」への9件のフィードバック

  1. 全く関係ない話ですけど
    新型コロナウイルスのワクチン接種5月31日予約が取れました。
    何か?世間では予約が取れない!とか話聞くけど
    問題なくスムーズでした。
    電話予約ではなくネット予約だったからかな~ぁ⤴
    皆さんが2回接種終えたら
    コロナ禍、落ち着くだろうから・・
    そん時はオカダさん「ほろ酔いライブ」やりましょうねぇ!
    なんかさぁ~楽しい事考えていないとさぁ
    気が滅入るもんねぇ!

    1. そりゃあまた素早い予約完了でしたねぇ。
      ぼくなんて果たしていつになることやら・・・。
      じゃあコロナ禍を見事に乗り越えられたら、ほろ酔いどころか、モロ酔いライブでもなんでもやってやろうじゃないですかぁ!
      でもワクチンを打たれても、それで気を許さず、防御に専念してくださいねぇ。

  2. 何でも下準備が必要ですよねぇ。食事の支度だって、メニューを考えて食材を揃え、野菜を洗ったり切ったりと。たまには、据え膳で食べたいものです⤴️テイクアウトは据え膳とは認めない(︶^︶)

    1. 毎日三度三度の賄いって、そりゃあ骨が折れますもんねぇ。
      たまにゃあパーッと、上げ膳据え膳でハリキッテドーゾー!

  3. 「天職一芸〜あの日のpoem427」
    「江名子バンドリ職人」
    とても手が混んでいて夏は日差し避けに晩秋にはあったかそうですね。
    優しい御国言葉が聞こえてきそうです。

    1. 何でも身近な素材を使って、その土地土地で暮らすための道具を創り出した、昔の方たちの智慧に感じ入るばかりですねぇ。

  4. 写真を見て 昔話の『かさ地蔵』を思い出しました。お地蔵さまに笠を被せてたお爺さんみたい。
    バンドリ よく考えられてますよね⁈
    閃きや発想や創意工夫…
    やっぱり昔の人は 凄いのだ( ◠‿◠ )

    1. 軽くって蒸し暑さからも解放され、それでいてちゃんと雨を弾き飛ばしてくれるんですから、スグレモノですよねぇ。

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