「天職一芸~あの日のPoem 351」

今日の「天職人」は、岐阜県高山市丹生川町の「飛騨の汐ブリ職人」。(平成21年12月23日掲載)

今年の暮れは帰れぬと 母に侘びたる赤電話                  「ご飯は三度食べとるか 風邪ひかぬよに」母の声                晦日に着いた小包に 厚い切り身の汐ブリが                   火鉢で炙り湯呑み酒 遠き寺から除夜の鐘

岐阜県高山市丹生川町、遠州水産の汐ブリ職人、内山友男さんを訪ねた。

写真は参考

「家は農家やったんやけど、両親共に障害があって貧乏やった。子どもの頃、3杯飯は(あわ)(ひえ)でさえ食えんかったんやで。腹減ると川魚捕まえたり、ヤマモモ取ったり。いっつも腹空かしとったわ」。友男さんは、窓から山並みを見つめ懐かしそうにつぶやいた。

友男さんは昭和24(1949)年、静岡県の引佐(いなさ)町(現・浜松市)で誕生。

中学を出ると地元の温泉旅館でアルバイトの傍ら、定時制高校へ。

卒業と同時に、板前を志し熱海へと向った。

「行くには行ったけど、本当は板前よりも、活魚がやりたくってな」。

その思いが拭いきれず、一晩で郷里へと舞い戻った。

「いつまでもブラブラしとれんで」。

しかたなく地元の自動車メーカーに入社。

それから5年が過ぎた。

「従兄弟の結婚式があって、嫁さんの同級生で、丹生川出身の今の女房と気が合ったんやさ。そしたらその内女房が『3人姉妹の長女やで、養子取らんと…』って言うもんで、冗談で『だったら俺行こか?』って。浜松駅まで送った帰り道。辻占に手相見せたら『水が渇かぬ山のある場所へ行け』と言われて。1年間遠距離恋愛を続けたけど、結局女房の両親に反対されて」。

昭和四十九年、駆け落ちの末、高山市の中心部で恵美子さんと所帯を持ち二男を授かった。

「近くのスーパーに入って、そこで鮮魚を扱うようになったんやさ。でも給料が安かってな」。

恵美子さんも印鑑のセールスで家計を支えた。

ところが新婚1年が過ぎた頃、友男さんの浮気が発覚。

「相手の娘に車貸したら、女房の知り合いに見られてもうて。女房のお祖母ちゃんから『養子縁組解消や』って。それでまた昔の旧姓に戻ったんやさ」。

勤め先のスーパーを辞して三日後、今度は隣町のスーパーから声が掛かった。

「土木作業の現場監督と、スーパーを掛け持ちで働いたんやて。心入れ替えて」。

それから1年。

誰も待つはずのない、真っ暗なアパートの部屋に、なぜか明かりが灯っていた。

「せっかく別れたのに、別のを貰う前に、これが子ども連れて戻ってきたらあ」。

すると恵美子さんが、傍らから口を挟んだ。

「そうや、嫌なら出て行くろうって」。

夫婦で顔を見合わせ大笑い。

押し寄せた荒波を乗り越え、晴れて本物の夫婦(めおと)となったと言わんばかりに。

飛騨の大晦日の食卓に、無くてはならぬ汐ブリ。

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まず富山湾で水揚げされた天然ブリを三枚に下ろし、一晩水に晒し脂抜き。

翌日水気を切り岩塩をすり込み、真空パックにしてマイナス50度で一気に冷凍。

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「こうすると塩が利き過ぎんのやさ。そして解凍し始めると、そこから身の中に塩が染み入るんやわ。海の塩は、塩辛くなり過ぎるであかん」。

大晦日までに約1㌧の汐ブリが出荷される。

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焼いた汐ブリに大根卸のポン酢醤油。

熱燗を煽れば、山深い飛騨の里に除夜の鐘が鳴り響く。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 351」」への4件のフィードバック

  1. 高山で魚?って思ったけど、高山は意外と富山湾に近いんですね。
    それにしても、駆け落ちまでしたのに新婚一年で✕✕とは〰〰。
    でも、ちゃんと元に戻れてめでたし めでたし・・・かな。

    1. なんせそれはそれは明るいご夫婦でしたよ。
      そんな夫婦のタブーな話だって笑い飛ばしちゃうんですもの。
      笑う門には福来る!ですね。

  2. 焼いた汐ブリに大根おろしとポン酢醤油いいですね〜( ◠‿◠ )
    ブリと言えば よく照り焼きにしてたんだけど 塩焼きが美味しい事に気付いてからは もっぱら塩焼きにしてます。
    でも何にせよ 新鮮じゃないと美味しくないんですよね。
    今日 鮮魚コーナーをキョロキョロしてこようかな⁈ 新鮮なブリがあったら 夕食の一品にしよ〜っと。熱燗も忘れずに (笑)

    1. それそれ!
      ブリの塩焼きで熱燗をキュ~ッと!
      もう最高のおごっつぉですよ!

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